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8話 一位の輝き
しおりを挟む魔法帝国軍事学校、実技試験会場。
試験当日。
ソウタは、座学試験に続き、実技試験に臨んでいた。
アタッカーとは異なり、サポーターの実技は、情報解析、戦況予測、味方への適切な支援指示、そして状況に応じた精密なシールド展開など、多岐にわたる。
ソウタの動きは、流れるようだった。
彼は、模擬戦場で刻一刻と変化する状況を、瞬時に読み解く。
味方のアタッカーが不利な状況に陥れば、的確なタイミングでシールドを展開し、敵の攻撃を遮断する。
同時に、相手の弱点を見抜き、味方へ最適な攻撃ルートを指示する。
その全てが、寸分の狂いもなく、そして驚くほど迅速だった。
周囲の生徒たちは、ソウタの動きに目を見張っていた。
これまで「ダメな若旦那」として知られていた彼が、まるで別人のように、冷静かつ的確に戦場を支配している。
近くで生徒たちを指導していた試験官も、ソウタの動きに目を奪われていた。
「これは……」
オリオンの瞳には、驚愕の色が宿っていた。
彼自身も優秀なサポーターとして知られているが、ソウタの才能は、その常識をはるかに超えていた。
ソウタは、彼の予想を上回る速さでサポーターとしての能力を開花させていたのだ。
(彼は……天才だ……!)
オリオンの心臓が、強く脈打った。
ソウタの、無駄のない、完璧な支援動作は、まさに芸術のようだった。
ソウタが真剣に勉強に取り組んでいた姿を思い出し、オリオンの胸は熱くなった。
そして同時に、ソウタへの想いが、さらに強固なものへと変わっていくのを感じた。
その間、少し離れた場所で、ルースは無言でソウタのことを見つめていた。
彼の顔には、普段の冷静な表情とは異なる、複雑な感情が浮かんでいる。
ソウタが模擬戦場で活躍する姿は、ルースにとって、予想外の驚きと、そして、胸を締め付けるような、説明のつかない感情を呼び起こしていた。
(そうか……だから、最近はオリオン様と親しくしていたのか……)
ルースは、これまでのソウタの行動が、全て線で繋がるのを感じた。
以前、ソウタがオリオンと楽しそうに話していた光景。
あの時、胸に渦巻いた嫉妬と不満が、一瞬にして消え去る。
彼は、ソウタがアタッカーからサポーターに転向するため、オリオンからサポーターとしての知識を学んでいたのだと、ようやく理解したのだ。
数日後。軍事学校の掲示板に、試験結果が発表された。
多くの生徒たちが掲示板の前に群がり、自分の名前を探している。
その中に、ソウタとオリオンもいた。
ソウタは、自分の名前を探し、そして、その順位を目にした瞬間、思わず目を丸くした。
「え……サポーター、1位……!?」
ソウタの声は、自分でも信じられないというような、驚きに満ちていた。
必死で勉強したとはいえ、まさか本当に1位を取れるとは、彼自身も予想していなかったのだ。
「おめでとう、ソウタ君!さすがだね!」
オリオンは、ソウタの肩を叩き、心から祝福した。
彼の顔には、ソウタの努力が報われたことへの喜びと、彼自身の尊敬の念が浮かんでいた。
その時、周囲の貴族たちから、陰口が聞こえてきた。
「嘘だろ? オリオン様が2位になるなんて……フランゼ家の坊っちゃんが、何か小細工したんじゃないのか?」
「そうだ。あんな落ちこぼれが、急に1位なんてありえないだろう」
貴族たちの悪意に満ちた言葉が、ソウタの耳にも届いた。
ソウタは、口元をわずかに引き攣らせた。
しかし、その瞬間、ルースの瞳が、鋭く光った。
ルースは、ソウタには見えない場所で、陰口を叩いていた貴族たちを、氷のような眼差しで睨みつけた。
その視線は、彼らを凍りつかせ、威圧するのに十分だった。
貴族たちは、ルースの尋常ではない威圧感に、思わず口をつぐんだ。
ルースは、貴族たちから視線を外し、ソウタの方へと歩み寄った。
「ルース!」
ソウタの声が、ルースの耳に届いた。
ルースは穏やかな表情で頷いた。
ソウタは、ルースの表情を見て、どこか安堵したような気持ちになった。
ルースの態度が、以前のように素っ気なくない。
ソウタは、満面の笑みを浮かべ、ルースに歩み寄った。
彼の顔は、喜びでキラキラと輝いている。
「ルース!見てくれた? 僕、サポーターで1位になったんだ!」
ソウタは、そう言って、ルースの肩をポンと叩いた。
彼の金茶の瞳は、純粋な喜びで輝いており、その笑顔は、見る者を惹きつけるような、魅力に満ちていた。
「これで、アタッカー1位の君と、サポーター1位の僕で、これからは一緒に組めるね! 1位同士、これからよろしく!」
ソウタは、未来への希望を胸に、屈託のない笑顔を向けた。
彼の言葉には、ルースとの共同戦線、そして「生き残り」への期待が込められていた。
ルースは、ソウタのそのキラキラとした笑顔と、無邪気な言葉に、心臓がドクリ、と大きく鳴るのを感じた。
ソウタの、何の偽りもないように見える笑顔は、ルースの心に、これまで感じたことのないような、熱い感情を呼び起こした。
(ソウタ様……! こんなにも、私と組めることを喜んでくれるのか……!)
ルースの脳内では、ソウタの笑顔が「私と組めることが嬉しい」という都合の良い解釈へと変換された。
彼の頬が、わずかに赤く染まる。
ルースは、ソウタの真っ直ぐな視線に、少しだけドキドキしながら、しかし、どこか誇らしげな気持ちで、深く頷いた。
「はい。ソウタ様。こちらこそ、これからよろしくお願いいたします」
ルースの声は、ソウタの笑顔に応えるように、優しく、そして、どこか高揚していた。
彼の心は、ソウタの「恋心」を、さらに深く確信していくのだった。
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