【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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38話 馬上の思惑

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 各自、戦闘服に着替え、武器を手に、迅速に出発の準備を終えたルース達は、皇宮の中庭に集合した。
 
 帝都付近に現れた未確認生物の報告が刻々と入ってくる中、一刻の猶予も許されない。

「全員揃ったな。出発する」

 ルースの号令のもと、一行は帝都付近へと向かう。
 
 しかし、そこは立地が複雑な場所で、テレポートできる設備が整っていなかった。

 そのため、彼らは馬で移動することになった。

 ソウタは馬に乗ること自体はできたが、早く走らせるのは苦手だった。
 
 そこで、申し訳なさそうにレオ・ロウを見上げた。

「レオ兄さん! 僕、速く走れないから、レオ兄さんの馬に乗せてもらってもいい?」

 レオ・ロウは、ソウタの頼みに二つ返事で快諾しようと、口を開きかけた。その時だった。

「ゴホンッ!」

 ルースが、わざとらしく大きく咳をした。
 ソウタは、その音に気づき、心配そうにルースを見た。

「殿下、どうかなさいましたか?」

 ルースは咳をしながらチラチラとソウタの方を見た。

 早く自分の意図に気づいてほしいと、無言の圧力をかけている。

 そのルースの意図に、ユノ・セリウスはすぐに気づいた。

 殿下が何を望んでいるのか、その表情と行動から手に取るように分かる。

 ユノ・セリウスは、ルースの代理とでも言うように、にこやかにソウタに告げた。

「ソウタ様。皇太子殿下が、この中で一番馬に乗るのがお上手ですよ」

 しかし、ソウタはそんなユノ・セリウスの言葉にも、ルースの真意には気づかない。

「え? そうなんですか? 流石ですね」

 ソウタは、純粋に驚き、ルースに水筒を差し出した。

「喉が渇いたんですか? 殿下」

 我慢できなくなったルースは、ついに自ら口を開いた。

「ソウタ。私の後ろに乗りなさい」

 ソウタは、一瞬眉をひそめた。心の中で、小さくつぶやく。

(え……レオ兄さんの茶色い馬の方が、優しそうなんだけどな……)

 だが、ソウタはすぐにルースの乗る馬を見つめ直した。

 ルースの馬は、漆黒の毛並みが美しく、堂々とした立ち姿は確かに格好良い。

(でも、殿下の馬の方が、黒くてカッコイイし!)

 ソウタは、すぐに気持ちを切り替えると、明るい笑顔でルースに向かって言った。

「ありがとうございます、殿下!」

 その様子を見て、ルースは内心で喜びを噛み締めた。
(やはり、私と一緒に馬に乗れて、そんなに嬉しいのか!)

 最近、ルースのソウタへの執着にすっかり慣れてきたレオ・ロウとユノ・セリウスは、そのやり取りに呆れつつも、時間を無駄にするわけにはいかないと、各自馬に乗った。

「急ぎましょう、殿下!」
「参ります!」

 オリオンもまた、ソウタの無邪気さと、それに対するルースの執着に苦笑いを浮かべながら、自分の馬に乗って皆に続いた。

 こうして、それぞれの思惑を乗せた一行は、未確認生物の現れた帝都付近へと、馬を駆り出した。

 ――

 帝都付近。

 一行が目的地に到着する寸前、激しい戦闘の音が聞こえてきた。

 馬の速度を上げると、そこにいたのは未確認生物と交戦中の帝国騎士団の数名だった。

 一人の騎士が、敵の素早い動きについていけず、巨大な牙で突き刺されそうになった、その時だった。

「シールド!」

 ソウタとオリオンの二人がかりで展開された強力なシールドが、間一髪で騎士を覆い、敵の攻撃を防いだ。

 同時に、レオ・ロウとユノ・セリウスが目にも止まらぬ速さで駆け寄る。

 二人の激しい連携攻撃が炸裂し、なんとか敵を退かせることに成功した。

 急いでその騎士の近くに駆け寄ると、彼はレオ・ロウとユノ・セリウスの同僚であるヘイジだった。

 彼は血だらけになりながらも、生き延びたことに安堵の息を漏らした。

 ヘイジは、そこに皇太子ルースがいることに気づくと、痛みに耐えながらも急いで膝まづいて挨拶した。

「殿下……!」

 ルースは頷き、状況説明を求める。

「状況を説明せよ」

 ヘイジは、泣きながら状況を伝えた。

「はっ……人型の何者かが未確認生物を使役しており、我々を圧倒しました……そして、街の方角へ向かいました……!止められませんでした……申し訳ございません……!」

 その報告に、ソウタの顔に不安がよぎった。

 帝国の騎士団でツートップと言われるほどの強さを持つレオ・ロウとユノ・セリウスですら、二人でやっと一体を倒せるくらいの敵が、何匹もいるというのだ。

 そんな相手が、レオ・ロウとユノ・セリウスの故郷に向かったと聞き、ソウタの胸に重苦しい予感が広がった。

 しかし、ルースは怯むことなく、凛々しく立ち上がった。

「案ずるな、ヘイジ。私が守るから大丈夫だ」

 その毅然とした言葉に、ヘイジはさらに泣き崩れた。

 レオ・ロウとユノ・セリウスもまた、その言葉を聞いて、皇太子への忠誠心をさらに強くした。

 それまで曇っていた空から、太陽の光が差し込み始め、キラキラと輝き、辺りを照らし出す。

 ソウタは、光の中に立つルースの皇太子としての立派な姿を見て、懐かしい気持ちとは異なる、新たな感覚を覚えた。

 かつて、記憶を失った彼に「守る」と言われ、温かい気持ちになった。

 しかし、今のルースからは、帝国の未来を背負う者としての絶対的な信頼と力強さが感じられた。

(どんな強い敵でも、ルースがいれば大丈夫だ!)

 ソウタは、心の中で強くそう思いながら、未確認生物が向かったレオ・ロウたちの故郷へと、ルースと共に急いで馬を駆り出した。

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