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37話 記憶の狭間
帝都近郊。
長らく平和が続いていた帝都付近に、ある日、突如として未確認生物が複数出現したとの情報がもたらされた。
その生物は、これまでに確認されたことのない異質な存在であり、その強さもかなりのものだと報告されている。
皇宮では、この緊急事態に対応するため、対策会議が開かれていた。
そんな中、レオ・ロウとユノ・セリウスは、自分たちの故郷に近い場所が被害に遭っていることを知り、いてもたってもいられず皇太子ルースの元へ駆けつけた。
「殿下!どうか我々にも援護に行かせてください!発生場所は、我々の故郷の近くでございます!」
二人は、切実な表情でルースに申し出た。
その声は、会議に参加していたソウタの耳にも届いた。ソウタは、レオ・ロウとユノ・セリウスの故郷が危険に晒されていると知り、心配になった。
(僕もサポーターとして、何か役に立てるかもしれない!)
「殿下!僕も一緒に行かせてください!サポーターとして、皆さんの援護ができると思います!」
ソウタは、真剣な眼差しでルースに訴えた。
その様子を見ていたオリオンも、静かに口を開いた。
「殿下、僕も同行させてください。ソウタ君と同じく、サポーターとして皆さんの力になりたいと存じます」
四方から協力を申し出られたルースは、少しの間考えたが、すぐに自分も行くことを決めた。
「わかった。私も行く。すぐに皆、準備を整えろ」
皇太子自らが出陣すると聞き、ルースの強さを誰よりも知るレオ・ロウとユノ・セリウスは、安堵と感謝の念に包まれた。
「ありがとうございます、殿下!」
一方、原作のこの先の物語が分からないソウタは、ルースが危険な目に遭わないかと、ほんの少し心配そうな表情を浮かべた。
そのソウタの憂いを帯びた表情を、ルースは見逃さなかった。
彼は、優しく微笑みかけ、ソウタの手を取った。
「心配するな、ソウタ。私がそばにいて、必ず君を守ってあげるから」
その言葉は、ルースがまだ平民だった頃、ソウタを励ますために言ってくれた言葉と重なった。
あの時の温かい気持ちが蘇り、ソウタは安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます、殿下」
その様子を、隣で静かに見つめるオリオンの瞳には、複雑な感情が宿っていた。
未確認生物の出現という報を受け、各々がすぐに出発の準備をするため、自室へと戻っていった。
廊下を歩く途中、オリオンはソウタを呼び止めた。立ち止まったソウタの横顔を、オリオンは静かに見つめる。
「ソウタ君。殿下が、親しかった頃の記憶を失ってしまって……辛くはないかい?」
オリオンの問いに、ソウタは少し考え、眉を下げながら答えた。
「正直……寂しい、かな。あの頃は、兄弟みたいに仲が良かったから」
その言葉には、偽りのない寂しさが滲んでいた。
オリオンは、ソウタの瞳を真っ直ぐに見つめながら、さらに問うた。
「もし、殿下の記憶が戻ったら……どうする?」
ソウタは、ゆっくりと首を横に振った。
「記憶は、戻らなくてもいいよ。平民だった頃は、嫌なこともたくさんあっただろうし……」
ソウタの言葉は、ルースが貴族派の陰謀に巻き込まれ、平民として虐げられたり、変な噂を立てられたりした苦い経験を慮ってのものだった。
ソウタの返答に、オリオンは驚いた。誰もが「記憶が戻ってほしい」と願う中で、ソウタの考えはあまりにも純粋で、そして悲しいほどに優しい。
ソウタは、そんなオリオンの驚きには気づかず、温かい笑顔を浮かべた。
「楽しかった頃の記憶は、僕が覚えてるから、それでいいんだ」
その健気な言葉に、オリオンの胸は締め付けられた。
「……ソウタ君らしいね」
オリオンもまた、静かに微笑んだ。
そして、二人は出発の準備をするために、急ぎ足でその場を後にした。
その間、近くの柱の陰に、レオ・ロウとユノ・セリウスが潜んでいた。
最近、皇太子ルースから「ソウタが誰かと話していたら監視しろ」という理不尽な命令を受けていたため、癖で隠れて聞いてしまっていたのだ。
ソウタの健気な言葉を聞いて、レオ・ロウの目には、うっすらと涙が滲んでいた。
「ソウタ殿……」
ユノ・セリウスは、正直なところ、最近の皇太子の執着ぶりには呆れと疲労を感じていた。
しかし、ソウタのあの言葉を聞けば、ルースが彼に惹かれるのも納得できる。
「全く……殿下がソウタ様に惹かれるのも、分かる気がしますね」
レオ・ロウは、涙を拭いながらユノ・セリウスに同意した。
「ああ……殿下、ソウタ殿を守ってやってくれよ……」
ユノ・セリウスは、今後の皇太子の恋路に、彼らの苦労が伴うことは明らかだったが、それでもソウタの純粋さを守るためなら、これからも皇太子に「協力」をしてあげようと心の中で誓った。
二人の近衛兵もまた、急いで出撃の準備に向かった。
それぞれの胸に、ソウタへの、そしてルースへの複雑な思いを抱きながら。
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