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44話 調査と称した休日
しおりを挟む帝国皇宮、皇太子ルースの執務室。
この日、ルースの補佐官であるソウタは、侯爵家の用事で皇宮にはいなかった。
普段ならば、ソウタがいると皇太子の気が散って仕方がないのだが、不在となればなったで、ルースはどこか上の空で、仕事に身が入らないようだった。
レオ・ロウとユノ・セリウスは、そんなルースを前に、山積みの書類と格闘していた。
レオ・ロウが「殿下、こちらの報告書をご確認ください」と書類を差し出しても、
ルースの返事は曖昧で、目は報告書を追っているようで、その実、一点を見つめている。
(全く、ソウタ殿がいないとこれでは仕事にならないな……)
レオ・ロウは困り果て、助けを求めるようにユノ・セリウスを見つめた。
ユノ・セリウスは、少し考えてから口を開いた。
「殿下、白髪の青年に使役されていた未確認生物が、殿下がソウタ様と、以前一緒に訪れたテーマパークで遭遇した生物と類似点があると判明しました」
ユノ・セリウスの言葉に、上の空だったルースがハッと顔を上げた。その瞳に、ようやく焦点が結ばれる。
「ソウタ……? テーマパーク……?」
ルースは、驚いたように繰り返しながら、ユノ・セリウスにやっと明確な反応を示した。
(まずいな……ソウタ様の名前を使って、未確認生物の情報に興味を持っていただきたかったのに、テーマパークの方に興味を持たれてしまった……)
ユノ・セリウスは内心で焦りつつも、努めて冷静に「はい、殿下」と返事をした。
ルースは、腕を組み、深く考え込んだ。
そして、以前、記憶を失ってから読んだ報告書に、自分がソウタとテーマパークに行ったことが書かれていたのを思い出した。
その時の楽しそうな二人の様子が文章で綴られていたが、肝心の記憶は一切蘇らない。
その記憶を思い出せないことが、ひどく悔しかった。
「そうか……ソウタとテーマパーク……!」
ルースは、ふいに立ち上がった。
その顔には、先ほどまでの上の空の表情は消え失せ、代わりに純粋な喜びと期待が浮かんでいた。
「ソウタとテーマパークに行きたい!
明日、ソウタとテーマパークに行けるように手配してくれ!」
ルースの興奮した命令に、ユノ・セリウスは小さく溜息をついた。
(やはり、こうなりましたか……)
自分の作戦が、全く意図しない方向に転がってしまったことに、ユノ・セリウスは落胆の色を隠せない。
「たまには息抜きもいいんじゃないか?」
最近、ルースの執着ぶりに慣れてきたレオ・ロウは、意外にも気楽にユノ・セリウスを慰めた。
彼にとっては、殿下が機嫌よくいてくれるなら、多少の無理は承知だった。
ルースは、ソウタとのテーマパーク行きが決定したことに、上機嫌で顔を輝かせ、楽しそうにレオ・ロウとユノ・セリウスに命令を下し続けた。
ソウタの不在が、思わぬ形で新たな計画を生み出したのだった。
――
翌日
ソウタは、皇太子ルースの執務室に呼ばれ、足を向けた。
部屋に入ると、玉座に座ったルースが、いつもより遥かにご機嫌な様子で待っていた。
「殿下、お呼びでしょうか」
ソウタが恭しく挨拶すると、既に部屋に控えていたユノ・セリウスが口を開いた。
「ソウタ様。本日は、帝都付近で討伐した未確認生物が、以前殿下とテーマパークで遭遇なさった生物と類似点があったため、これから少数精鋭でテーマパークへ調査に向かいます」
ユノ・セリウスの言葉に、ソウタは神妙な顔つきで頷いた。
仕事である以上、真剣に受け止めるのは当然だ。
(テーマパークの調査か……)
ソウタは、未知の生物に関する情報収集という任務に、軽く身構える。
その様子を見たルースは、ソウタがかつて自分とデートしたテーマパークのことを思い出して、感傷に浸っているのだと都合よく勘違いし、内心で嬉しくなった。
「すぐに準備します」
ソウタはそう言って、足早に補佐官室へと戻っていった。
補佐官室に戻ると、オリオンがいた。ソウタは彼に微笑みながら挨拶する。
「オリオン、おはよう」
「おはよう、ソウタ君」
ソウタは、ふと、以前オリオンがテーマパークに行きたいと言っていたことを思い出した。
「そういえばオリオン、テーマパークに行きたいって言ってたよね?」
ソウタの言葉に、オリオンは「テーマパーク?」と聞き返した。
突然の話題に、少し驚いているようだった。
ソウタは、明るい笑顔で続けた。
「うん、これからテーマパークに調査に行くんだ。一応仕事だから遊べるかは分からないけど、前に一緒に行きたいって言ってたじゃないか。だから、オリオンも一緒に行かないか?」
オリオンの胸に、温かい感情が広がった。
かなり前の、何気ない自分の発言を、ソウタが覚えていてくれたのだ。
その優しさが、オリオンの心をじんわりと満たしていく。
「……行きたい!」
オリオンは、普段からは想像できないほど大きな声で、嬉しそうに答えた。
彼の瞳は、テーマパークへの期待と、ソウタの優しさへの感動で、キラキラと輝いていた。
――
ソウタとオリオンが執務室に戻ってくると、ソウタは明るい声でユノ・セリウスに言った。
「オリオンは有能なサポーターだから、一緒に来てもらいました!」
その言葉が耳に入ったルースは、心の中で舌打ちした。ソウタの無邪気な一言が、彼の胸に小さな棘を刺す。
なぜオリオンまでついてくることになったのか。その原因を作ったユノ・セリウスに、小声で八つ当たりした。
「ユノ・セリウス……!なぜ調査などと言ったんだ……!」
ルースの不満げな声に、ユノ・セリウスは涼しい顔で言い返す。
「殿下もそれで了承なさいましたでしょう」
ユノ・セリウスの冷静な反論に、ルースは何も言い返せず、悔しそうに顔を歪めた。
場所は変わり、帝都近郊にあるテーマパーク。皇太子ルース一行は、ついにテーマパークにやってきた。
ルースは、到着するやいなや、周囲の賑わいに目を輝かせ、真っ先に声を上げた。
「さっそくジェットコースターに乗ろう!」
「……調査は?」
ソウタは、ルースの言葉に疑問を抱き、首を傾げる。
しかし、レオ・ロウがソウタの背中を軽く押し、ジェットコースターの方へと急かした。
「いいから、いいから!」
ユノ・セリウスは、高速で落下する乗り物が苦手らしく、断固として首を横に振った。
「私は絶対にジェットコースターには乗りません」
そう言って、ユノ・セリウスは、残りの4人がジェットコースターに乗り込むのを見届けた。
発射のカウントダウンが始まり、
ジェットコースターは猛スピードで上昇し、そして急降下する。
隣に座っていたルースは、普段の威厳をかなぐり捨て、目を固く閉じて絶叫していた。
そして、頂点からの落下と共に、そのまま気絶してしまった。
隣で気絶したルースを見て、ソウタは思わず声を上げて笑った。
次に一行が向かったのは、お化け屋敷だった。
「ふん、こんなもの、怖がる必要などない」
ルースは、お化け屋敷の暗闇の中を全く怖がることなく、先頭に立ってスタスタと進んでいく。
実はお化けが苦手なレオ・ロウは、我慢して平気なフリをしていた。
しかし、その時、ユノ・セリウスが突然、レオ・ロウの背後から声をかけ、驚かせた。
「わあっ!」
驚いたレオ・ロウは、思わず目の前にいたルースの服を掴んで引っ張り、そのまま先へと突進してしまった。
「引っ張るな!」
突然引っ張られて怒るルース。
ユノ・セリウスは、その様子を笑いながら二人の後を追いかける。
騒がしい三人を見て、ソウタは呆れたように肩をすくめた。
オリオンを探すと、彼は暗闇の中で小さく震えていることに気づく。
「オリオン、どうしたの?」
ソウタが声をかけると、オリオンは小さく震える声で告げた。
「ソウタ君……僕は、暗いところが大の苦手なんだ……」
それを聞いたソウタは、優しくオリオンの手を握った。
「苦手だったら、無理についてこなくていいんだよ」
ソウタはそう言って、震えるオリオンの手を引いて、ゆっくりと出口まで連れて行ってくれた。
わずかな間だけでも、ソウタと二人きりになれたオリオンは、胸に温かい幸せを噛み締めていた。
彼の表情は、暗闇の恐怖から解放され、
ソウタの優しさに包まれて、穏やかに和らいでいく。
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