【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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49話 闇オークション

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 帝国皇宮、ルースの執務室。

「殿下、貴族派の残党が、今夜開かれる闇オークションに参加するという情報が入りました」

 レオ・ロウが、厳しい表情で報告した。

 その言葉をそばで聞いていたソウタは、「オークション」という響きに興味を惹かれ、目を輝かせた。

「闇オークション? 僕も一緒に行きたいです!」

「当然だ」

 ルースは、ソウタの言葉に、待ってましたと言わんばかりににこやかに微笑んだ。

 オリオンは、皇宮での留守番が彼に任された。

 こうして、ソウタ、ルース、レオ・ロウ、ユノ・セリウスの四人が、変装してオークションに潜入することになった。


 変装のため、ソウタはユノ・セリウスから銀色で繊細な模様が入った、美しいマスクを渡された。

 ソウタはその繊細な装飾に目を奪われながら、そっと顔に着けてみた。

 準備が整い、ルースのところへ向かうと、彼もまた黒色のソウタのものとよく似た美しいマスクをしていた。

(お揃い……!)

 ソウタは、自分のマスクとルースのマスクが対になっていることに気づいた。

 実は、これはユノ・セリウスが気を利かせ、二人のためにお揃いのものを特別に用意したものだった。

「ソウタによく似合っている」
 ルースは、ソウタのマスク姿を見て満足げに微笑んだ。

 そして、ソウタとお揃いのマスクであることに気づき、さらにご機嫌になる。

 ソウタも、ルースのマスク姿を見て微笑み返した。

「殿下も、よく似合ってますよ」

 その様子を見て、ユノ・セリウスは内心で「よし」と小さくガッツポーズを取り、満足げに頷いた。

 しかし、レオ・ロウは、期待の眼差しでユノ・セリウスを見た。

「俺の分は?」

 ユノ・セリウスは、呆れたように、自分とレオ・ロウ用に用意していた木でできた素朴なマスクを差し出した。

「これです」

 その飾り気のないマスクを見て、レオ・ロウは分かりやすくしょんぼりとした表情になった。

 だが、そんなレオ・ロウの反応も気にせず、皆の準備が整った。

「いざ、オークションへ!」

 ソウタの声と共に、四人は闇夜の中へと繰り出していった。

 ――

 真夜中。帝都の貴族街の一角にある、とある伯爵家の別荘前。

 漆黒の闇に包まれたその別荘に、ソウタ達は降り立った。

 周りは薄暗く、人影もまばらだ。

「ここでオークションをするの?」 

 ソウタは、首を傾げた。

 華やかな催しとは程遠い、陰鬱な雰囲気が漂っている。

 別荘の近くまで進むと、黒ずくめの執事らしき男が二人、静かに立っていた。

 ルースは、堂々とした態度で執事たちに告げた。
「オークションに参加したい」

 執事の一人が、丁寧な態度で言った。

「恐れ入りますが、家紋が分かるものを証明としてお見せいただけますでしょうか」

 ルースは少し考えた後、ソウタに目を向けた。ソウタはすぐに意図を察し、ライエルから貰ったばかりの紋章入りのペンダントをルースに差し出した。

 ルースがペンダントを執事に見せると、執事はそれを見るや否や、「これは……」と目を見開いた。

 その顔に驚きと、どこか畏敬の念が浮かぶ。

 執事は慎重にペンダントをルースに返すと、恭しく頭を下げた。

「こちらへどうぞ」

 そう言って、執事は一行を別荘の奥へと案内し始めた。

「ライエルのペンダントが役に立ってよかった!」
 ソウタは、自分の持ってきたものが役立ったことに、純粋に喜んだ。

 しばらく進むと、薄暗い通路の先に、なんと地下室へと続く大きな扉が現れた。

 執事が「ここでオークションが行われます」と言いながら、前へと進む。

 ランプの火が揺れ、薄暗い通路を進んでいく途中、ソウタが何気なく横を見ると、いくつもの檻に入れられた動物たちが見えた。

 どの動物も、怯えたように身を寄せ合っている。

 その動物たちの中に、一際目を引く存在があった。

 陽の光を浴びたかのように美しい金色の毛をした馬だ。

 その神々しい姿に、ソウタは思わず声を漏らした。
「綺麗……」

 前を進んでいた執事が、ソウタの視線に気づいたのだろう。得意げな声で言った。

「ここにいる動物たちは、今夜のオークションに出品される品でございます。もしお気に召しましたら、ぜひ落札されてはいかがですか?」

 執事の言葉に、ソウタの表情から笑顔が消えた。

 美しい動物たちが、この暗くて陰鬱な場所で、物として扱われている。

 ソウタの心に、静かな怒りが込み上げてきた。

(この闇オークションをぶっ潰して、すぐに動物たちを助けてあげよう……!)

 ソウタは、心の中で固く決意し、静かにその場を見つめた。

 ――

 ソウタは、貴族派の残党粛清と動物たちの救出を決意し、闇オークション会場へと続く道を歩いた。

 会場に着くと、真ん中のステージを囲むように豪華な席が用意されていた。

 ルース達は、出品されるものがよく見える、上座のいい席に案内された。

 ソウタは、ずっと気になっていたことをユノ・セリウスに質問した。

「ユノさん、このオークションで出品されたものを落札しても、怒られませんか?」

 ユノ・セリウスは、ソウタの問いに優しく答えた。

「はい、ソウタ様。今回のオークションで出品されるものの中には、動物たち以外、違法なものがほとんどありませんので、落札していただいても大丈夫ですよ」

 ルースは、ソウタの質問を聞いて、彼に尋ねた。

「ソウタ、何か欲しいものがあるのか?」

 ソウタは、少し照れたように「……ちょっとね」と言って、笑ってごまかした。

 彼は、ルースの誕生日プレゼントに贈る何かを探しているのだ。

 そんな中、オークションが始まった。次々と珍しい品々が紹介され、会場のボルテージは上がっていく。

 オークションの支配人が、次の商品を紹介した。

「さて、次の商品は、あの有名な彫金師が丹精込めてデザインを施した、美しいブレスレットでございます!」

 支配人の言葉と共に、ステージに運ばれてきたのは、銀色の繊細なチェーンに、真ん中に赤い宝石が輝くブレスレットだった。

 ソウタは、そのブレスレットをひと目で気に入った。

 ブレスレット真ん中で妖しく光る赤い宝石が、ルースの瞳の色にそっくりだと気づき、ソウタは見惚れた。

 ルースがその様子に気づき、ソウタの顔を覗き込んだ。

「ソウタ、欲しいのか? 私が落札してあげよう」

 ルースは、優しい声で言ったが、ソウタは、首を横に振った。

「大丈夫、自分のお金で落札したいんだ」

 そう言って、ソウタは入札に参加した。

 入札金が10万から始まり、ソウタは迷わず13万の札を出した。

 すると、もう一人の貴族が15万の札を出そうとしたその時、ルースがその貴族を凄まじい形相で睨みつけた。

 ルースの威圧感に怖気づいた貴族は、出したばかりの15万の札を慌てて隠す。

 こうして、ソウタは無事、その美しいブレスレットを落札することができた。彼は喜びで顔を輝かせた。

 ルースは、嬉しそうなソウタを見て、満足げに微笑んだ。

「良かったな、ソウタ」

 そう言って、ルースはソウタの頭を優しく撫でた。

 二人の後ろに座っていたレオ・ロウは、
「殿下の威圧は相変わらず凄まじいな……」
 と、感心したように呟いた。

 ユノ・セリウスは、心の中で深く溜息をついた。
(あまり目立つ行動は控えてください、殿下……)

 ――

 オークションも終盤に差し掛かった頃、ついに動物たちが商品として紹介され始めた。

 支配人が高らかな声で叫ぶ。

「次の商品は、この愛らしい白い狐です! とても珍しい品種で、ペットとして飼うことも、もちろん毛皮にすることも出来ます!」

 可愛らしい狐が物のように扱われていることに、ソウタは我慢ならず、固く拳を握りしめた。

 レオ・ロウも苛立ったように、ユノ・セリウスに小声で尋ねた。

「まだ残党の動きはないのか?」

 ユノ・セリウスは、冷静ながらも怒りを抑えた声で答える。

「彼らの目的は、今回のオークションの目玉である金毛の馬だと予想されているので、まだ動くことはできません」

 そして、ついに最後の商品として、金色の毛を持つ神秘的な馬がステージに現れた。

 支配人は、自信満々の声で紹介する。

「この神秘的な黄金の馬は、品種改良で偶然生まれた、まさに奇跡の存在!別の国の国王ですら、喉から手が出るほど欲しがる品でしょう!」

 入札する人々の中から、ルースとユノ・セリウスは、注意深く、しかし鋭い眼差しで貴族派残党の中心人物を見つけ出した。

 落札したブレスレットを受け取ったソウタは、すぐにその人物を尾行し始めた。

 ルース、レオ・ロウ、ユノ・セリウスも、ソウタの後をゆっくりとついて行く。

 薄暗い通路を進む途中、突然、彼らは黒ずくめの男たちに囲まれてしまった。

 その中心に立つ人物が、ソウタに向かって口を開いた。

「あの紋章のペンダントを持っているから、ライエル殿かと思えば…その婚約者、フランゼ家の坊やじゃないか」

 ソウタは、この貴族に見覚えがなかったため、警戒しながらも、憎しみを込めて言い放った。

「元婚約者だよ、この野郎!」

 ソウタがきちんと否定したことに、ルースは内心でほっと息をついた。

 残党貴族は、ソウタの罵倒など気にも留めない様子で、冷酷に言い放った。

「どちらでも構わない。どうせ、皆殺しだ!」

 そう言うと、黒ずくめの男たちに攻撃の指示を出した。

 しかし、レオ・ロウとユノ・セリウスは素早く動き、あっという間に黒ずくめの男たちを次々と倒していく。

 彼らの実力は圧倒的だった。

 ルースは、ゆっくりと残党貴族に近づきながら、低い、しかし威圧的な声で告げた。

「無駄な抵抗はするな、ベンゼン侯」

 その声を聞いた残党貴族は、驚きで目を見開き、ルースの正体に気づいた。

「皇太子……ルース……!?」

 残党貴族は、突然激昂し、ルースを罵倒し始めた。

「お前のせいで皇后と皇帝が死んだのだ! お前が死ねばよかったのに!!」

 ルースは、その激しい罵倒の言葉を、ただ黙って聞いていた。

 彼の表情は、苦痛に歪むこともなく、ただ無感情に見えた。

 ソウタは、それ以上聞いていられなかった。
 怒りが頂点に達し、我慢できずに「黙れ!」と叫びながら魔法攻撃を放とうとする。

 だが、ルースがソウタの腕を掴んでそれを止めた。

「レオ・ロウ、ユノ・セリウス。残党貴族を拘束せよ」

 ルースは冷静に命令を下した。

 ソウタは、攻撃を止められたことに抗議するように、ルースを非難がましい目で見つめ、名を呼んだ。

「ルース……!」

 ルースは、無理やり口元に笑みを浮かべた。

 その笑顔は、どこか痛々しかった。

「ここは空気が悪い。後のことは二人に任せて、先に皇宮に戻ろう」

 ルースは、ソウタを促し、その場を後にしようとした。

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