【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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48話 貴族派の影と元婚約者

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 帝国皇宮、ルースの執務室。


 ソウタの風邪も完治し、平穏な日々が続いていたある日のこと。

「殿下、貴族派の残党が未だ潜伏しているという情報が入りました」
 レオ・ロウが、厳しい表情で報告した。

「また魔物襲撃のような悲劇を繰り返させてはならない」
 ルースは、低い声で呟いた。

「脅威となりそうなものは、早めに排除せよ」

 レオ・ロウとユノ・セリウスは、ルースの命令に粛然と頭を下げた。

 そこに居合わせたソウタは、貴族派のことなら、以前の元婚約者で、今は一般騎士をしているライエルに聞けば、何か手がかりが得られるかもしれないと考えた。

「殿下、市街地に行ってもよろしいですか?」

 ソウタが尋ねると、ルースは、
「もちろん!」と快諾し、にこやかに問いかけた。

「市街地に何をしに行くんだ?」

「友人に会いに」
 ソウタは、屈託のない笑顔で答えた。

「ライエル、というのですが」

 ルースは、その名を聞いた途端、心の中で衝撃を受けた。

 記憶を失った後に読んだ報告書に、ライエルがソウタの元婚約者だと書いてあったのを、彼ははっきりと覚えていたのだ。

 ルースの顔から、一瞬で笑顔が消え失せる。

 不機嫌になったルースの表情に気づかないまま、ソウタは市街地へと向かって行った。

 
 帝都の市街地。

 ソウタがライエルを探していると、すぐに彼の姿を見つけた。

 ライエルは、数人の小さな子供たちと楽しそうに笑いながら話していた。

 その穏やかな横顔に、ソウタの表情も和らぐ。

「ライエル!」

 ソウタが声をかけると、ライエルは驚いたように振り返り、すぐに照れくさそうに騎士らしい敬礼を返した。

 子供たちは、騎士のライエルが挨拶する相手が珍しいのか、興味津々にソウタを見つめている。

 子供たちと別れ、ソウタとライエルは並んで市街地を歩き始めた。

「ライエルが元気そうで良かった」

 ソウタは、心から安堵したように笑った。

 ずっと前から、市民と親しく交流するライエルを見たかったのだ。

「ああ、ソウタも元気そうで何よりだ」
 ライエルも、ソウタの笑顔を見て頷いた。

「何か用事でもあったのか?」

 ライエルが尋ねると、ソウタは周囲に聞こえないよう、小声で切り出した。

「実は、貴族派の残党がまだいるらしいんだ。何か知らないか?」

 ライエルは、ソウタの言葉に少し考え込んだ。
 そして、真剣な表情で返した。

「悪いが、俺は本当に何も知らない。むしろ、知っていたらとっくに報告している」

 なんの手がかりも掴めず、ソウタは少し落胆したように肩を落とした。

 ライエルは、そんなソウタの様子を見て、懐から美しい紋章入りのペンダントを取り出した。

「これは……?」
 ソウタは、首を傾げる。

「これは、俺の父の形見だ。ソウタに渡そうと思って」

 ライエルの言葉に、ソウタは驚いて後ずさりした。

「そんな大切なもの、もらえないよ!」

 ソウタは受け取ろうとしなかったが、ライエルは、その手にペンダントを押し付けた。

「受け取ってほしい。もう俺には必要ないし、貴族派を探す際に役立つかもしれない。それに……」

 ライエルは、ソウタの目を見て、心を込めて続けた。

「まだ直接お礼を言えてなかった……刑罰を軽くしてくれて、ありがとう」

 ソウタは、ペンダントを受け取るのを迷った。

 しかし、貴族派の残党を見つけるために必要かもしれない、というライエルの言葉と、彼の真摯な感謝の気持ちに、ソウタは結局、お礼を言いながらそれを受け取った。

 その様子を、市街地の路地裏の影から、ルース、レオ・ロウ、ユノ・セリウスの三人が、険しい表情で見つめていた。

 何度もソウタのところに飛び出して行こうとするルースを、レオ・ロウが必死に腕を掴んで止めた。

「落ち着いてください、殿下! この路地裏では、『偶然会いました』作戦は通用しませんよ!」

 ルースは、レオ・ロウの手を振り払おうと暴れた。
「離せ! あのライエルという騎士を尋問しろ!」

 ユノ・セリウスは、冷静な声で告げた。
「ライエル殿は先日、尋問済みでございます。彼は潔白です」

 それを聞いて、ルースは不貞腐れたように腕を組んだ。

 ちょうどその時、ソウタがライエルと別れ、皇宮へ帰る様子だった。

「私たちも急いで帰りましょう、殿下。皇宮にいないと不自然です」

 ユノ・セリウスはそう言って、不機嫌なルースを引きずるようにして皇宮へと戻っていった。

 

 皇宮への帰り道。

 ソウタは、歩きながらぼんやりと考える。

 そういえば、もうすぐルースの誕生日だ。

 市街地で何かプレゼントを探そうと思ったが、なかなか良いものが見つからなかった。

(お金も貯まったし、いいものをプレゼントしたいな……)

 結局、何も買わずに皇宮へと帰った。

 
 --

 皇宮、ルースの執務室。

 ソウタが執務室に戻ると、ルースが何故か不機嫌そうな顔で玉座に座っていた。

「殿下!」

 ソウタは、そんなルースの様子に気づかず、明るい顔で話しかけた。

「友人のライエルからは、貴族派残党の情報は得られませんでしたが、貴重なペンダントをいただきました!もしかしたら、何かの役に立つかもしれません」

 そう言いながら、ソウタは受け取ったばかりの紋章入りペンダントをルースに差し出した。

 ルースは、ペンダントを見て驚いた。
「私に……くれるのか?」

 ソウタは、屈託のない笑顔で「もちろんです!」と答え、褒めてほしそうにルースを見つめた。

 その可愛らしい表情を見た瞬間、ルースの機嫌は嵐のような真っ暗さから、一転して快晴のように明るくなった。

 ルースの機嫌の急激な変化に、レオ・ロウは呆れた顔で呟いた。

「一般騎士にまで嫉妬するなんて……」

 ユノ・セリウスは、レオ・ロウに冷たく言い放った。

「馬にも嫉妬していたのを忘れたのですか?」

 

 執務室からレオ・ロウたちと出ていく途中、ソウタはふと思い出したようにユノ・セリウスに尋ねた。

「そういえば、殿下の誕生日会は、何をするつもりなんですか?」

 その言葉を聞いた瞬間、レオ・ロウとユノ・セリウスは、まるで時間が止まったかのように固まった。

 ソウタは、突然の重たい空気に困惑する。

 ユノ・セリウスは、言いづらそうに視線を伏せた。

「ソウタ様……殿下の誕生日は、前皇帝陛下と皇后様の命日でもございますので……公式で一度も祝ったことがございません」

 ユノ・セリウスの声は暗く沈んでいた。

 レオ・ロウも、悲しそうな顔で続けた。

「殿下が生まれる際、皇后様がお亡くなりになり、その次の年の殿下の誕生日に、皇帝陛下が謎の病で崩御なされたんだ。だから、殿下もご自身の誕生日は、誰も祝うなと命令を下しておられる」

 ソウタは、原作にも書かれていなかったその衝撃的な事実を聞いて、息を呑んだ。

「……知らなかった……」

 ソウタは、深く落ち込んだ。
 しばらく無言の三人の間に、重苦しい沈黙が流れる。

 やがて、ソウタは小さく、しかし確固たる声で呟いた。

 その顔には、納得がいかないという強い意志が宿っていた。

「どんな理由があっても……殿下の誕生日は祝うべきだよ」

 それを聞いたレオ・ロウは、ハッとしたように顔を上げ、明るく笑った。

「俺もそう思うよ!」

 ユノ・セリウスは、驚いた後、深く微笑んだ。


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