【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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47話 恋心の兆し

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 帝国皇宮、皇太子の執務室

 ソウタの私室へとルースが出かけた後、レオ・ロウはぐったりと椅子に寄りかかり、溜息をついた。

「殿下の惚気には困ったものだな」

 ユノ・セリウスは、そんなレオ・ロウをからかうように微笑んだ。

「殿下が機嫌が良い方がいいと言っていたではないですか」

「それでも限度があるだろう!」

 レオ・ロウは憤慨して言い返した。
 
 ソウタの話題が出るたびに、ルースが仕事の手を止めては熱弁を振るうため、一向に仕事が進まないのだ。

 可哀想な相棒のために、ユノ・セリウスは優しい提案をした。

「仕事が終わったら、一杯飲みに行きましょうか。奢りますよ」

 その言葉を聞くと、レオ・ロウの機嫌はたちまち直った。

「おお!さすがは俺の相棒!お前だけだ!」

 ユノ・セリウスは、呆れながら笑った。

「全く……都合のいい相棒ですね」

 二人は、ルースのいなくなった執務室で、ようやく山積みの書類に取り掛かり始めた。

 ――
 

 皇宮、ソウタの私室。

 ベッドで眠っていたソウタは、頬を優しく撫でられる感覚が心地よくて、無意識にその手に擦り寄った。
 
 ルースは、その無防備な反応が可愛すぎて、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。

 すると、ソウタが眉をひそめながら、寝言で小さく呟いた。

「ルース……行かないで……」

「私はここにいるよ」

 ルースは、優しい声で語りかけた。

 その声に気づいたソウタは、ゆっくりと目を開けた。
 
 目の前にあるルースの赤い目をじっと見つめ、少し考えてから、掠れた声で呼びかけた。

「殿下……」

 ルースは、殿下と呼ばれて少しがっかりした気持ちになった。
 
 せっかく二人の距離が縮まったと思ったのに、まだ自分を「殿下」と呼ぶのか。

「……二人きりの時は、名前で呼んでほしい」

 ルースの言葉に、ソウタは驚いた。
 
 しかし、その瞳には戸惑いよりも、どこか照れくさそうな色が浮かんでいた。

「……ルース?」

 ソウタが、確かめるように名を呼ぶと、ルースは明るい笑顔で「ん?」と返事をした。

 その眩しいほどの笑顔を見て、ソウタの胸に温かいものが込み上げてきた。
 
 そして、なぜだか、目尻にじんわりと涙が滲むのを感じた。

 

 その時だった。コンコン、とまた誰かがドアをノックする音が響いた。

(……またか!)

 いい雰囲気だったのに、とルースは露骨に不機嫌な顔で愚痴りながらドアを開けた。
 訪問者は、案の定、ユノ・セリウスだった。

 ユノ・セリウスは、ルースの不機嫌なオーラにも動じず、手にした薬の包みを差し出した。

「医務室から、薬をお持ちいたしました、殿下。それから、急ぎの用件がございますので、執務室にお戻りいただきたく……」

 まだソウタのそばにいたいルースは、行きたくなさそうな顔だったが、ソウタが優しく微笑みかけた。

「もうだいぶ楽になりましたから、大丈夫ですよ。看病してくださって、ありがとうございます、殿下」

 そのソウタの顔を見て、ルースは仕方なく引き下がることにした。

「……分かった。しかし、無理はするな。よく休んでくれ」

 名残惜しそうにソウタに言い聞かせると、ルースはユノ・セリウスと共にしぶしぶ執務室へと戻っていった。


 薬を飲んだソウタは、ぼんやりと天井を見つめていた。
 熱のせいか、思考がとろけていくようだ。意識は次第に過去へと誘われていく。

(……ルース……)

 脳裏に浮かんだのは、平民だった頃のルースの姿だった。
 あの時、魔物に襲撃され、みんなを守るためにシールド内から飛び出していったルースの言葉が、はっきりと蘇る。

「―ありがとう、ソウタ。必ず戻るから。敵を全部倒したら、迎えに行くから―」

 記憶を失ってしまったルース。

 ソウタは、以前のように無邪気に笑い合ったり、仲良くすることはもうできないと、心のどこかで思っていた。

 しかし、先ほど、自分の名前を呼ばれて、嬉しそうに微笑んだルースの笑顔を見た瞬間、その寂しさが、まるで霧散するかのように消え去った気がした。

 ルースはあの頃の記憶がなくても、過去のルースと同じように、自分を大切にしてくれている。

 そう確信したソウタの胸は、じんわりと温かさで満たされた。

 ソウタは、そっと目を閉じ、安堵と喜びが入り混じった心地よい眠りに落ちていく。

「……おかえり、ルース」

 ソウタは、嬉しそうに呟いて、深い眠りに就いた。

 ――
 

 一方、皇宮、ルースの執務室。

 執務室に戻ってきたルースは、さっそく急ぎの仕事にご機嫌で取り掛かった。

 先ほどのソウタの笑顔が、彼に満ち足りた幸福感を与えていたのだ。

 ルースは、仕事をしながらも、ソウタの私室での出来事をレオ・ロウとユノ・セリウスに語り続けた。

「私が医者を呼ぼうとしたら引き止めたのだ!まるで私にだけ看病してほしいようだった!……そして、眠りながら私の手に擦り寄ってきたんだ…ああ、あれは可愛かった……!」

 そして、極めつけは、

「しまいには、ソウタが私のことを『ルース』と名前で呼んでくれたんだ!」

 ルースは、嬉しそうに、何度も、何度もその話を繰り返す。

 それを仕事をしながら聞かされるレオ・ロウは、もう何回目かを数えるのを諦め、ただひたすら早く仕事を終わらせようと奮闘していた。

 ユノ・セリウスは、内心で呆れながらも、微笑んでいた。

(ソウタ様の話の内容が増えましたね……)

 しかし、幸せそうなルースを見ていると、それもまた良しと思えた。


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