愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

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7 止まらぬ夫の暴言

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「旦那様、これを是非ご覧に……」
「何だそれは」
「リアの最近の肖像画ですわ」


リアは父親であるディアン様によく似ているのだ。
彼の乳母ですら「顔は子供の頃のディアン様に瓜二つ」と言っていたほどである。
だからもしかすると、彼もリアの姿を見れば自分の子供だと信じてくれるかもしれない。


『いつお父様が帰ってくるの?』


ディアン様がどれだけ最低な人であろうと、リアにとってはたった一人の父親であることに変わりは無かった。
実際に、リアは父親の存在を恋しがっていた。


(ディアン様がリアに会わないのはアース様の子供だと思っているからであって……顔を見ればきっと信じてくれるはずよ)


そんな一抹の希望を抱いた私は、ディアン様に何とかリアの肖像画を見せようとした。
しかしディアン様は私の意図を知ると不快感を隠そうともしない顔で拒絶した。


「やめろ、そんなもの見たくもない」
「お願いです、一度だけ……」
「見ないと言っているだろう」


何を思っているのか、彼は自身の手で目を覆った。


(どうしてそこまで!!!)


ドロシー様との子を後継者にするという決定に異を唱えるつもりは無い。
リアは女の子で、あっちは男の子だった。
むしろそうなって当然だといえるだろう。


しかし、リアに一度も会っていないというのには本当に納得がいかない。
リアは間違いなくディアン様の子供だ。
何が何でも誤解を解かなければならない。


仕方なく私が目の前で肖像画を広げようとすると、それを阻止するためディアン様が紙を払い落とすようにして叩いた。


「やめろと言っているだろう!!!」
「あっ」


肖像画が私の手から落ち、その反動で床に広げられた。


「そんなもの見なくても分かる!いちいち見せようとしてくるな!」


そう言うとディアン様はリアの顔が描かれた肖像画を思い切り足で踏んづけた。


「こんなものこうしてやる!!!」
「……」


紙に描かれたリアの顔が靴の泥で汚れていく。
彼は顔が分からなくなるまでただただ絵を踏み続けた。


「やめてください、旦那様!」


慌てて拾い上げたときには既にリアの顔は真っ黒になっていた。
大切に大切に保管しておいた愛娘の肖像画だった。


「ハハハ、泥まみれになったな」
「……」


ディアン様に対する激しい怒りがこみ上げてくる。


「アイツの娘なんてこうなって当然だ。それでも公爵家に置いてやってるんだから感謝しろ」
「……」


目から涙が零れそうになる私を冷たい目で見下ろしたディアン様はそう吐き捨てた。
どれだけ頑張ってもダメだというのか。
リアの願いを叶えてあげることは一生出来ないのか。


絶望に打ちひしがれる私に、彼はいつものように暴言を吐いた。


「私がお前の娘に会うわけがないだろう、あんな汚らわしい小娘に」
「……」


言い返すことも出来ないため黙って彼の暴言に耐えていた私だったが、ふとディアン様が入ってきた扉の方を見て驚愕した。


「……!」


扉の外から顔を覗かせているリアと目が合ってしまったのだ。


(リア……!どうしてここにいるの……!今は寝ているはずじゃ……)


何故娘がここにいるのか。
まさか今のやり取りを聞いていたのか。
頭の中が真っ白になっていく。


しかし、それに気付いていないディアン様の暴言が止まることは無かった。


「名前なんて覚えてすらない、考えるだけで吐き気がする」
「やめてください……」


リアはただじっと父親の後ろ姿を見つめていた。
頭が良いからこそ、言葉の意味に気付いてしまっているはずだ。


「最初は子供に罪は無いって思っていたんだけどな……よく考えれば存在自体が罪だなあんなもの」
「やめて……」


リアの顔が次第に青くなっていく。
父親にこのようなことを言われてどれだけ今傷付いているのだろうか。


「早くこの世界からいなくなってほしい、生まれてこない方が良かった」
「ディアン様ッッッッッ!!!」


私が叫んだのと同時にバタンッと扉が大きく閉まる音がした。
耐えられなくなったリアが逃げたようだ。


「……?何だ……?」


何も知らないディアン様はただ不思議そうに突然閉まった扉をじっと見つめていた。
私は涙を流しながら何も気付いていない彼を憎々し気に見つめた。


「まぁとりあえずそういうことだ。私は別邸へ戻る」
「……」


隣を通り過ぎたディアン様はフッと私と娘を嘲笑うような笑みを小さく溢し、勝気な笑顔を浮かべた。


「……」


彼が部屋から出て行った後、私は一人朝まで泣き続けた。


(リア……ごめんね……ごめんね……)



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