愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

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6 夫からの話

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そしてついにその日の夜を迎えた。


(憂鬱だわ……)


別に一生帰ってこなくてもよかったのに。
まだ幼いリアは既に自室のベッドで寝ているからディアン様と会う心配は無い。


私だけを傷付けるのはかまわないが、娘にまでキツく当たられるのは耐えられそうになかった。


「奥様、旦那様がいらっしゃいました」
「早く入れてあげてちょうだい」


自室で一人待っていた私に、扉の外から声が掛かった。
しばらくして、扉がガチャリと開けられ、見知った男性が入室してくる。


「……………旦那様」


私の夫であるディアン様だ。
夫とは言ってもディアン様は普段から愛人宅で過ごしているため、会うことはほとんど無いし、夫婦らしいことだってしたことが無い。
書類上の夫婦というだけであって、他人も同然だった。


「お久しぶりでございます、旦那様」
「……」


立ち上がった私はスカートの裾を持ち上げてカーテシーをした。
結婚して六年が経っているのにこんなにも他人行儀な夫婦は私たちくらいだろう。


「こんな時間まで本当に待っていたとは……」
「旦那様が話があるとおっしゃいましたので当然です」
「随分暇なんだな」


皮肉を込めた嫌な言い方だった。


(一時間も遅れたのは嫌がらせ……ということで良いみたいね)


ディアン様が私との待ち合わせ時間に遅れるのはよくあることだが、今日は一時間も待った。
最近になって行動が大胆になっている気がする。


「そんなことはありません、本当は疲れて眠ってしまいそうでしたわ」
「疲れて?笑わせるなよ、いつもお前のとこの娘と遊んでいるだけだろう」
「……」


この人は私が仕事も何もせずに毎日遊び呆けていると思っているらしい。
何をどうしたらそのような思考になるのか。


(お前のとこの娘?貴方の娘でもあるのに……)


そしてディアン様がリアを異母兄の娘だと思っているのは相変わらずのようだ。
何故そんなに頑なにリアを自分の子供だと信じようとしないのだろうか。


私が訂正しようとしてもいつも無駄なのだ。


「リアは旦那様の子供です。そんな風に言わなくても……」
「――お前の顔は長く見たくないから用件を手短に話すとしよう」
「……」


彼はいつも決まってリアの出自の話になると途端に話題を逸らす。
何の根拠があってリアをアース様の子供だと言っているのか。


いや、根拠が無いからこそ無理矢理押し通しているのだ。
ただただこの人がそうやって思いたいがために。


「今日ここへ来たのは、公爵家の跡継ぎに関する話をするためだ」
「はい、旦那様」
「――言っておくが」


そこでディアン様は私を力強く指差した。


「お前のとこの娘には死んでも公爵家は継がせないからな」
「……」


ディアン様はニヤリと笑ってそう口にした。
勝ち誇ったかのような笑みだった。


私は表情を変えることなくただ黙って頷いた。


「承知いたしました。娘の教育は私にお任せください」
「ふん、あの男の血を引いている娘などまともに育つものか」
「……」


今後娘に対する暴言は無視することにしよう。
最初から耳に入れない努力をした方が心が楽だ。


「では、愛人の方との子供を嫡男にするということでよろしいでしょうか?」
「ああ、お前とアイツの血を継ぐ者を後継者になどは絶対にしない」


ディアン様は頷いた。
おそらく後継者に関する話をするために今日ここへ来たのだろう。


元よりリアをこの公爵家の後継者にしてもらえるとは思っていなかった。
いや、むしろそれでいいのだ。
リアには自由な人生を歩んでほしかったから。


「話は済んだから私は戻る」
「あ、ちょっと待ってくださいディアン様……」


私は席を立ったディアン様を引き止めた。


「実は、旦那様にお見せしたいものがあります」
「……見せたいもの?」


彼が怪訝そうに眉をひそめた。
そんなディアン様を横目に、私は自室の机の引き出しからある物を取り出した。


(今日でディアン様の誤解を解けたら…………)


そんな思いから、私はとあることを実行に移すのだった。


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