13 / 36
13 初恋の幼馴染と衝撃の事実
しおりを挟む
愛人宅に侵入してから数日後。
予期せぬ来客がやって来た。
「え……アルフ様!?」
「久しぶりだな、シア」
幼少の頃から実の兄のように時間を共にした幼馴染、アルフ・ディボルト侯爵令息だった。
(どうしてアルフ様がここに……最近は結婚の準備で忙しいと聞いていたのに……)
私より三つ年上の彼は容姿端麗で、貴族令嬢からかなりの人気を誇っていたも未だに未婚だった。
そしてつい最近とある貴族令嬢との結婚が決まってその準備を進めているという話を耳にした。
普段は優しく、時に厳しかったアルフ様は私の初恋の相手でもある。
そんな彼の結婚報告に少し悲しくもあったが、私は既婚者の身で娘までいる。
絶対に彼と結ばれることなんて無い。
だからこそ、諦められた。
「アルフ様がどうしてここに……?」
「シアの両親……閣下から話を聞いて俺も調査に当たっていたんだ」
「そうだったんですね……」
私の両親はアルフ様の両親と仲が良く、家族ぐるみの付き合いだった。
お父様はアルフ様をとても信用していたから今回のことを話したのだろう。
(久々に会えて嬉しいな……)
公爵邸の応接間で、彼は防音魔法を発動させた。
誰かに聞かれたらまずい内容なのだろう。
「ディボルト侯爵家の力を使って、お前が言っていたあの子供について調べてみたんだがな……」
「……」
「――やっぱりあの子はディアンの子供ではない」
「……!」
予想していたことだったが、いざ直接確認を受けると衝撃を隠しきれなかった。
「やっぱりそうだったんですね……」
「ああ」
「ですが、あの黒い瞳と髪は間違いなくグクルス公爵家の特徴……」
「そうだな」
――つまり、それが意味するのは。
「ルヴァンは……アース様の子供……ということでしょうか?」
「それしか考えられないな、他にグクルス家の人間なんていないし」
「そんな……」
私があのとき疑問に思ったのはルヴァンの瞳の色だ。
至近距離で見てようやく気付いたが、ルヴァンの瞳の色はディアン様のものよりも少し濃かった。
グクルス公爵家は血筋が正統であればあるほど瞳がより濃い黒になる。
つまり、非嫡出子のディアン様より正妻から産まれたアース様の方が深い黒となっているのだ。
瞳の色は年齢と共に徐々に変化していく。
この先、ルヴァンの目の色は本人の意思とは関係無くアース様のものに近付いていくだろう。
つまり、ルヴァンがアース様の子供だと周囲に気付かれてしまう可能性が高い。
(どうするのが正解なのかしら……)
「ルヴァンって子……瞳の色が少しずつ変わってきているようだな。ディアンは気付いていないみたいだが」
「そうですね……愛人の子として育ったディアン様がそのことを知らないのも無理はありませんが……」
完全に変化したとき、彼は間違いなく疑念を抱くだろう。
アース様を心の底から憎んでいる彼のことだ。
ルヴァンを殺してしまうかもしれない。
「――シア」
「はい、アルフ様」
「ドロシーという愛人の女、何か怪しいと思わないか?」
「ドロシー様……ですか?」
私は別邸で見たドロシー様の姿を思い浮かべた。
癇癪を起こし、侍女に物を投げつけていた彼女。
(ただ性格の悪い人って感じだったけどな……)
あの程度なら貴族令嬢にもいるだろう。
私はそう思っていたが、アルフ様はどうやら別の考えを抱いているようだった。
「俺はどうもアレがただ性格が悪いだけの女には見えないんだ」
「アルフ様……」
「だからシア、あの女には注意――」
「――アルフおじさん!!!」
扉が突然開いたかと思うと、中に入ってきたのはリアだった。
「リア!?」
「リア、久しぶりだな。元気にしてたか?」
アルフ様は無作法なリアを特に叱ることも無く、駆け寄る愛娘の頭を優しく撫でた。
彼は私が結婚してからたびたびここへ訪れては、リアを可愛がってくれていた。
「リア、勝手に入っちゃダメじゃない」
「でもアルフおじさんが来ているって聞いて……」
「もう……」
アルフ様がハハッと笑った。
「シア、俺はかまわないから。リア、おじさんと一緒に遊ぼうか」
「うん!」
アルフ様はニコッと私に笑いかけると、リアの手を引いて外へ出て行った。
予期せぬ来客がやって来た。
「え……アルフ様!?」
「久しぶりだな、シア」
幼少の頃から実の兄のように時間を共にした幼馴染、アルフ・ディボルト侯爵令息だった。
(どうしてアルフ様がここに……最近は結婚の準備で忙しいと聞いていたのに……)
私より三つ年上の彼は容姿端麗で、貴族令嬢からかなりの人気を誇っていたも未だに未婚だった。
そしてつい最近とある貴族令嬢との結婚が決まってその準備を進めているという話を耳にした。
普段は優しく、時に厳しかったアルフ様は私の初恋の相手でもある。
そんな彼の結婚報告に少し悲しくもあったが、私は既婚者の身で娘までいる。
絶対に彼と結ばれることなんて無い。
だからこそ、諦められた。
「アルフ様がどうしてここに……?」
「シアの両親……閣下から話を聞いて俺も調査に当たっていたんだ」
「そうだったんですね……」
私の両親はアルフ様の両親と仲が良く、家族ぐるみの付き合いだった。
お父様はアルフ様をとても信用していたから今回のことを話したのだろう。
(久々に会えて嬉しいな……)
公爵邸の応接間で、彼は防音魔法を発動させた。
誰かに聞かれたらまずい内容なのだろう。
「ディボルト侯爵家の力を使って、お前が言っていたあの子供について調べてみたんだがな……」
「……」
「――やっぱりあの子はディアンの子供ではない」
「……!」
予想していたことだったが、いざ直接確認を受けると衝撃を隠しきれなかった。
「やっぱりそうだったんですね……」
「ああ」
「ですが、あの黒い瞳と髪は間違いなくグクルス公爵家の特徴……」
「そうだな」
――つまり、それが意味するのは。
「ルヴァンは……アース様の子供……ということでしょうか?」
「それしか考えられないな、他にグクルス家の人間なんていないし」
「そんな……」
私があのとき疑問に思ったのはルヴァンの瞳の色だ。
至近距離で見てようやく気付いたが、ルヴァンの瞳の色はディアン様のものよりも少し濃かった。
グクルス公爵家は血筋が正統であればあるほど瞳がより濃い黒になる。
つまり、非嫡出子のディアン様より正妻から産まれたアース様の方が深い黒となっているのだ。
瞳の色は年齢と共に徐々に変化していく。
この先、ルヴァンの目の色は本人の意思とは関係無くアース様のものに近付いていくだろう。
つまり、ルヴァンがアース様の子供だと周囲に気付かれてしまう可能性が高い。
(どうするのが正解なのかしら……)
「ルヴァンって子……瞳の色が少しずつ変わってきているようだな。ディアンは気付いていないみたいだが」
「そうですね……愛人の子として育ったディアン様がそのことを知らないのも無理はありませんが……」
完全に変化したとき、彼は間違いなく疑念を抱くだろう。
アース様を心の底から憎んでいる彼のことだ。
ルヴァンを殺してしまうかもしれない。
「――シア」
「はい、アルフ様」
「ドロシーという愛人の女、何か怪しいと思わないか?」
「ドロシー様……ですか?」
私は別邸で見たドロシー様の姿を思い浮かべた。
癇癪を起こし、侍女に物を投げつけていた彼女。
(ただ性格の悪い人って感じだったけどな……)
あの程度なら貴族令嬢にもいるだろう。
私はそう思っていたが、アルフ様はどうやら別の考えを抱いているようだった。
「俺はどうもアレがただ性格が悪いだけの女には見えないんだ」
「アルフ様……」
「だからシア、あの女には注意――」
「――アルフおじさん!!!」
扉が突然開いたかと思うと、中に入ってきたのはリアだった。
「リア!?」
「リア、久しぶりだな。元気にしてたか?」
アルフ様は無作法なリアを特に叱ることも無く、駆け寄る愛娘の頭を優しく撫でた。
彼は私が結婚してからたびたびここへ訪れては、リアを可愛がってくれていた。
「リア、勝手に入っちゃダメじゃない」
「でもアルフおじさんが来ているって聞いて……」
「もう……」
アルフ様がハハッと笑った。
「シア、俺はかまわないから。リア、おじさんと一緒に遊ぼうか」
「うん!」
アルフ様はニコッと私に笑いかけると、リアの手を引いて外へ出て行った。
2,192
あなたにおすすめの小説
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。
Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。
Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
理想の妻とやらと結婚できるといいですね。
ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。
それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。
「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」
ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。
「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」
「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」
エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。
どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。
「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」
「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」
「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」
などなど。
あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。
「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」
と、呆れたように言い捨てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる