愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

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(アルフ様……どうしてここに……)


突然の彼の登場に驚くと同時に、ホッとして涙が溢れそうになった。
どうやら私は助かったみたいだ。


「お前は一体誰なんだ!!!」
「公爵閣下ともあろう方が私のことを知らないと?」


アルフ様は狼狽するディアン様を馬鹿にするように言った。


(ディアン様はアルフ様のことを知らないのかしら……)


元々あまり社交的な人ではないから仕方が無いのかもしれない。


「とにかく名乗れ!!!」


馬鹿にされて顔を真っ赤にしたディアン様がアルフ様に向かって怒鳴った。
アルフ様はハァと面倒くさそうにため息をつくと、胸に手を当てて礼を取った。


「アルフ・ディボルトと申します、閣下」
「ディボルト……?ディボルト侯爵家の令息か……?」


それを聞いて何かに気付いたのか、ディアン様はハハッと笑った。


「そうか、ディボルト侯爵家はこの女の生家と仲良くしているという話は聞いたことがあるぞ」
「……」


アルフ様の目が鋭くなる。


「なるほどな、つまりこの放火犯を助けに来たというわけか」
「閣下」
「だがいくら助けが来ようと何も変わりはしない。この女がやったという証拠は揃っているのだからな」
「証拠……」


そこでアルフ様は床に落ちていた一枚の紙を拾い上げた。


「これの何が証拠になるというのです?」
「この女が火事発生前に人を使い、私とドロシーの住む邸宅の位置を調べていたのだ。きっとこのときから放火を計画していたのだろう」
「そうでしょうか、妻として夫がどこに住んでいるか気になるのはごく普通のことでは?」
「……」


至極真っ当のことを言われたようで、ディアン様が黙り込んだ。


「……仮にそれが理由だったとして、この手紙はどう説明するつもりだ?」


そこでディアン様が拾い上げたのは私の筆跡で放火の依頼をしている手紙だった。


(どうして私の筆跡で……)


誰がやったのかは知らないが、私を貶めようとしていることは間違いなさそうだ。
アルフ様はディアン様から手紙を受け取り、じっと見つめた。


「……」
「グクルス公爵家の紋章が刻まれた印鑑が押されている。それを使えるのは私とその女しかいない。言い逃れは出来ないと思うが?」


ディアン様がニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
ずっと黙り込んでいたアルフ様はそんなディアン様を気にも留めず、胸ポケットから何かを取り出した。


(手袋……?)


白い手袋を装着した彼はそのまま手紙の紋の部分を指でこすった。
すると驚くことに、紋がかすれてそのまま真っ黒になってしまったのである。


「なッ……!?」
「え……」


その場にいた全員が驚きを隠せないなか、アルフ様は淡々と告げた。


「――これ、偽造ですね」


そう言って彼は手紙を床に落とした。


「今回の件、公爵夫人は無実ですよ」
「だ、だが……!」


「――こちらをご覧ください」


そう言うと彼は魔法を発動させ、火事当日の映像を映し出した。


(これは……アルフ様の記憶を映しているんだわ……)


そしてそこには懸命に消火活動に当たる私の姿があった。


「貴方がたは決死の思いで火を消そうとしている彼女が放火なんてすると思いますか?」
「……」


その問いに、一同が黙り込んだ。
しかしその中でも納得いかず声を上げる者がいた。


「し、しかし!自分が犯人ではないことをアピールするためにやったというなら――」
「――もしそうなら、鎮火させたのは自分だと堂々と名乗り出るでしょう。この場にいた民たちは公爵夫人が火災現場に来ていたことすら知りません」
「うっ……」


アルフ様はディアン様を完全に黙らせてみせた。


「――閣下」


それから彼はディアン様に近付き、その胸倉を強く掴んだ。


「うっ!!!」


ディアン様が苦しそうに声を上げた。
アルフ様の冷たい瞳がディアン様を捉えた。


「――貴方は思い込みで何の罪も無い女性を無慈悲に殺害しようとしたのだということを自覚していらっしゃいますか?」
「くっ……ううっ……は、放せ!」


アルフ様はディアン様を投げるようにして放した。


「うっ……」


身体を床に打ち付けたディアン様がうめき声を上げた。
アルフ様はそんな彼を一瞥もせず、この場にいる全員に告げた。


「私がここへ来た理由は、真犯人は別にいるということを伝えるためです。まだ放火犯が野放しになっているので、騎士たちは引き続き調査にあたった方が良いでしょう」
「は、はい!」


騎士たちが剣を閉まって敬礼をした。


(収まったみたいね……)


騒動の収拾に、私はほっと胸を撫で下ろした。




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