【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!

ましゅぺちーの

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家族全員の晩餐会に参加します

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オズワルドが帰宅してから一時間後。
いよいよ晩餐会の時間となった。


「ぜ、全然上手に出来ない……」


リデルは自身が刺繍をしたハンカチを見て絶望していた。


「リ、リデル!?大丈夫!?」


隣で全く同じものを刺繍していたシルフィーラとは天と地ほどの差があった。


「最初は皆そんなものだから、あまり落ち込まないで」
「お義母様……」


シルフィーラは落ち込んでいるリデルを慰めた。
しかし、リデルはしゅんとしたままである。


「これじゃあお義母様にプレゼントなんて出来ない……」
「……え?」


心の中で喋ったつもりだったが、自然と声に出してしまっていたらしく、その呟きを聞いたシルフィーラが反応した。


「……まさか、私にプレゼントしようとしてくれていたの?」
「あ、お、お義母様……」


シルフィーラの言っていることは正解だったが、こんな物を渡すわけにはいかない。
リデルはどう誤魔化そうかと考えを巡らせた。


(な、何て言えば……!)


しかし、結局良い考えは何も浮かばずリデルは黙り込んでしまった。


「――リデル」
「お義母様……?」


シルフィーラが突然俯いていたリデルの小さな手を優しく包んだ。
そして、その手に握られていたハンカチをそっと受け取った。


「ありがとう、リデル。大事にするわ」
「お、お義母様……だけどそれは出来が悪いし……」
「大事なのは心よ。あれだけ一生懸命やってくれていたじゃない。私はそれだけで嬉しいわ」


シルフィーラは受け取ったハンカチを大事そうに折りたたんだ。


「お義母様……!」


思わず泣きそうになってしまうリデルを見て、シルフィーラが笑みを溢した。


「もうすぐ晩餐会が始まるから準備をしましょう」
「はい!」


刺繍を終えた二人は晩餐会に参加する支度を始めた。
公爵家の行事みたいなものなので、それなりに見た目は整えなければいけない。
緊張で顔色が悪くなっているリデルに、シルフィーラが声を掛けた。


「リデル、緊張しているの?」
「は、はい……お父様たちとお食事をするのは初めてなので……」
「そうね、いつも通りにしていれば大丈夫よ。いざとなったら私が助けてあげるから」
「ありがとうございます……!お義母様……!」


シルフィーラの言葉に、リデルはすぐに笑顔を取り戻した。




***




そして二人は晩餐会が開かれる食堂へと向かった。
リデルがいつもシルフィーラを食事を摂っている場所だが、今日は何故だかそこまでの足取りが重い。


食堂へやって来た二人を見て、扉の前に控えていた執事が軽く礼をした。
それからすぐに食堂へと続く扉が開かれた。


(き、緊張する……!)


優雅な笑みを携えて公爵夫人の気品を見せているシルフィーラをよそに、リデルは部屋を出てからずっと足元がガクガク震えていた。


そして、目の前の扉が完全に開き、部屋の中が見えた。


「……」


中にいたのは当主であるオズワルドに、彼の婚外子である三人の子供たちだ。
どうやら既にリデルとシルフィーラ以外は全員来ていたようだ。


扉が開いたことで彼らの視線がこちらへと集中する。


その中でマリナとクララはシルフィーラを見て不快感を隠しきれていなかったが、オズワルドの前だからかじっと堪えていた。


「遅くなり申し訳ありません、旦那様」
「……別に気にしていない」


一言詫びを入れるシルフィーラに、オズワルドは素っ気ない返事をした。
遅れて来た妻の身を案じるわけでも無く、どこまでも無関心だった。


リデルとシルフィーラが席に着いたところで、公爵家の晩餐会が始まった。


(お義母様と遠い……)


シルフィーラは公爵夫人なので、当主であるオズワルドに最も近い位置の席に着いている。
それに対して、公爵家の四番目の子供であるリデルは最も遠い席となった。
食堂の席に着いている父親や腹違いの兄弟たちを一度ぐるりと見渡したリデルは、ふと思った。


(……三人とも、お父様に似てないんだなぁ)


そうは思ったものの、きっと母親似なのだろうと思い、大して気にしなかった。
そして晩餐会が始まるなり、マリナたち三人のアピール大会が始まった。


「お父様!私、この間テストで百点を取ったんです!」


そう言ったクララは愛らしく頬を染めて目の前にいる父親を見つめている。
ニコニコしながらオズワルドを見るその姿は、父親を尊敬する娘のように見える。


そんな二人の空間を壊すかのように間に割って入ったのはライアスだった。


「父上、今度俺を領地の視察に連れて行ってください。将来、立派な後継者になるため父上の仕事を間近で見て勉強したいのです」


以前会ったときと本当に同一人物なのかと思うほど紳士的な姿だった。
”後継者”という言葉が気に入らなかったのか、クララはピクリと眉を上げた。


(この人たち……裏では散々お義母様を虐げてたくせに……!)


彼らの本性を知っているリデルは内心毒づいた。


「私、この間お茶会に参加して……」
「父上、俺を早く仕事に同行……」


二人が攻防を繰り広げていたそのとき、争っている二人を嘲笑うようにフッと笑みを漏らしたのは最初の愛人の子供であるマリナだった。


「……何よ?」


突然笑い出したマリナを、隣に座っていたクララは不快そうな眼差しで見つめた。


「私、今日どうしてもお父様に話したいことがあったんです」


マリナは甘ったるい声を出してテーブルに置かれていたオズワルドの手の甲に触れた。
珍しくそれに興味を示したのか、オズワルドがマリナを視界に入れた。


オズワルドとじっと目を合わせたマリナが部屋中に響くくらいの大きな声で言った。


「お父様。実は私、ヴァンフリード殿下に見初められたんです……!」


マリナのその言葉に、ライアスとクララは固まった。


「ヴァンフリード殿下に……見初められたですって……!?」


クララはわなわなと拳を震わせながらマリナに対する嫉妬心を露わにしていた。


「嘘だろ……あのヴァンフリード殿下に……!?」


ライアスも驚いた顔でマリナを見つめていた。


(ヴァンフリード殿下……!)


リデルはその名前に聞き覚えがあった。


――ヴァンフリード・ヴォルシュタイン第二王子殿下


その名の通り、ヴォルシュタイン王国の第二王子である。
正妃である王妃の息子では無いが、見目麗しく優秀と呼び声高い人物だ。
そんな彼は既に二十を超えているが、結婚どころか婚約者もいないことで有名だった。


「私が王子妃になる日も近いかもしれませんね、お父様ッ」


マリナはそう言ってリデルを含めた三人にわざといやらしい笑みを見せた。


「「……!」」


その醜悪な笑みを見たクララとライアスは二人して唇を噛んだ。
リデルは何とも思わなかったが。


「……」


一方、オズワルドはマリナの言葉に何かを考え込むような素振りを見せていた。


「お父様……!」


そんなオズワルドの姿にマリナはさらに笑みを深くした。
今まで自分を含めた実の子供たちに無関心を貫いていた父親のいつもと違う姿を見ることが出来て嬉しいのだろう。


「お、お父様!今日のお食事はとっても美味しいですね!」
「……あぁ」


クララが慌てたように話題を逸らした。
それはこれ以上マリナの思い通りにはさせないという意味での行動だった。
しかしマリナは自身の勝利を確信しているのか余裕たっぷりの笑みを浮かべながらゆっくりと食事をしていた。


(三人とも話してばっかりだから全然食事が進んでない……)


晩餐会が始まってから既に三十分が経過しているが、オズワルドに媚びを売るのに必死だった三人はまだ半分も食事を終えていなかった。
三人よりもかなり幼いリデルですらもう食べ終えていた。


(早く帰りたいなぁ……)


そんなとき、シルフィーラがリデルを見てニッコリ笑った。


「旦那様、私とリデルはそろそろ失礼させていただきます」
「……もう行くのか?」
「はい、私たちは先に部屋で休ませていただきますわ」


オズワルドは難色を示したが、シルフィーラの意思を尊重してくれたのか彼女を無理に引き止めることはしなかった。


(お義母様、ナイス!)


目の前のくだらない争いに辟易していたリデルはシルフィーラと共にさっさと晩餐会場を後にした。


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