【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!

ましゅぺちーの

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捜索

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ルーと共に公爵邸の中へ戻ったリデルは、一度執務室にいたオズワルドに会いに行った。
部屋の中にいた彼はリデルが出て行ったときと変わらず、生気を失って座り込んだままだった。


「……精霊か?」


顔色の悪いオズワルドはルーを見ても大して驚くことは無く、すんなりとその存在を受け入れた。


『シルフィーラがいなくなったって聞いて……』
「!」


その言葉を聞いたオズワルドは顔を手で覆った。


「そうなんだよ……俺の愛するシルフィーラがいなくなったんだよ……」
「お、お父様……」


そう言ったオズワルドは、まるでこの世の終わりのような顔をしていた。
それを見たルーが彼の前に出た。


『シルフィーラを探すなら僕に任せて!』
「ルー!?」
「……何か良い案があるのか?」


オズワルドがパッと顔を上げた。


『うん、精霊は探し物が得意なんだ!きっとシルフィーラを見つけ出してみせるよ』


それからリデルはルーと少しだけ生気を取り戻したオズワルドと行動を共にした。


「ルー、どうやってお義母様を探すの?公爵邸にはいないと思うけど……」
『分かってる、僕が公爵邸に来たのはシルフィーラを探すためじゃない』
「なら、どうしてだ?」
『僕が探しているのは”目撃者”だ』
「目撃者だと……?」


ルーは公爵邸にある窓の近くを飛んでいた小鳥に声を掛けた。


『鳥さん!』


ルーの呼びかけに、小鳥が木の上に止まった。


『シルフィーラを見ていないかい?』


小鳥はチュンチュン鳴き始めた。


『ふむふむ……なるほど……』


驚くことに、ルーは相槌を打ちながら小鳥と会話をしてみせたのだ。


(……こんなことまで出来るんだ)


精霊はどうやら動物の言葉が分かるようだ。
もちろん人間であるリデルやオズワルドは何を言っているかまるで見当もつかないが。


『分かったよ、ありがとう』


ルーがそう言った途端、小鳥が羽ばたいて飛んで行った。


「ルー、どうだった?」


リデルが尋ねると、ルーは残念そうに首を横に振った。


『見てないって』
「そっかぁ……」


簡単に見つかるとは思っていなかったが、いざ結果を聞いたリデルとオズワルドはショックを隠せなかった。


『リデル、落ち込まないで』
「ルー……」
『まだまだ方法はあるんだから』
「……?」


リデルたちは、今度はシルフィーラの部屋へと向かった。


「お義母様の部屋……」
『うん、そうだよ』
「ここで何をするの?」
『植物の記憶を読み取るんだ』
「え……記憶を……?」


ルーはシルフィーラの部屋に飾られていた百合の花に手を触れた。
そしてそのまま目を瞑った。
どうやら記憶を読んでいる最中のようだ。
リデルはオズワルドと固唾をのんでその光景をじっと見守っていた。


しばらくして、ルーが花から手を離して目を開けた。


「ルー、何か分かった!?」
『うん……どうやらシルフィーラは正午にこの部屋を出てから一度も戻ってきていないみたい』
「正午に……」
『お出かけの準備をしていたというわけでもないから多分……』
「ま、まさかお義母様は本当に拉致されたの!?」


その言葉に最も動揺を見せたのはオズワルドだった。


「シルフィーラが誘拐されただと!?こうしちゃいられない!」


オズワルドはそう言って部屋にある扉から外へ出ようとした。


「お父様、どこへ!?」
「シルフィーラを探してくる!」
「ええ、どこにいるかも分からないのに無謀です!」


しかし、結局彼はリデルの制止を聞かずにそそくさと部屋を出て行ってしまった。


「お父様ったら……」
『リデル、僕たちはこれまで通りシルフィーラの痕跡を追おう』
「うん、そうだね……」


部屋から飛び出したオズワルドの身を案じながらも、リデルはシルフィーラの痕跡を辿ることに集中した。
それから二人は屋敷を一通り回り、全ての植物の記憶を読んでいったが、めぼしい情報は得られなかった。


「ルー、どう?」


最後の花から手を離したルーがフルフルと首を横に振った。


『ダメだ、シルフィーラが映っているのはたくさんあるんだけど特に変わった様子はないね……』
「そう……」


シルフィーラ捜索は難航を極めていた。
まるで手掛かりを得られないという事実に、リデルの中にどっと恐怖が押し寄せて来た。
もう永遠にシルフィーラに会えないのではないかという恐ろしさ。


(お義母様……どこにいるんですか……会いたいです……!)


リデルの目から涙が溢れそうになっていたそのとき、突然背後から声がした。


「――あら、誰かと思ったら」
「………!」


聞き覚えのある声にリデルはハッとなった。


(この声は……!)


ゆっくりと後ろを振り返ると、そこにいたのは予想通りマリナ、ライアス、そしてクララの三人だった。
彼らの姿を見たルーがさっとリデルの後ろに隠れた。


(何でこの三人が一緒にいるの……?)


ベルクォーツ公爵の愛人の子供たちはお世辞にも仲が良いとは言えなかった。
それぞれが公爵家の次期当主の座を狙い、醜い後継者争いを繰り広げているのだから。


「こんなところで何をしているのかしら?」


そのうちの一人、マリナがリデルを見下ろして尋ねた。


(まさか、お義母様が失踪したことを聞いていないの?)


そこでマリナの隣にいたクララが面白そうに彼女に声を掛けた。


「そういえば、公爵夫人がいなくなったらしいわよ」
「あら、それでこんなに屋敷内が騒がしかったのね……」
「いい迷惑だな、久しぶりに公爵邸に帰って来たというのに使用人たちの出迎えも無かったんだから」


マリナたちは失踪したシルフィーラの心配をすることも無く、他人事のように話し始めた。
ライアスに至っては不機嫌そうな顔をしている。


「……」


リデルは見ていて気分が悪くなった。


「…私はこれで失礼します」
「……!」


気分を害したリデルは早々に彼らの前から去ろうとしたが、その態度が気に食わなかったのかクララが引き留めた。


「待ちなさいよ、何なのその顔は」
「……」
「まさかアンタ、シルフィーラの件で私たちのこと疑ってるんじゃないでしょうね?」


それを聞いた後の二人が眉をひそめた。


「ああ、そういえばお前はやたらとあの女に懐いていたな」
「あんな女を好きになるだなんて、洗脳でもされたのかしら?」


二人は口元に下卑た笑みを浮かべながら言った。


「……あなたたちがお義母様を誘拐したんですか」
「キャハハッ!何言ってるのよ!」


それを聞いたマリナが大声で笑い始めた。


「私たちがそんなことするわけないじゃない!」
「口先だけなら何とでも言えます。それにあなたたちならやりかねな……」
「――私たちにはアリバイがあるのよ」
「……何ですって?」


マリナは自慢げな顔でペラペラと喋り始めた。


「さっき使用人から聞いたけど、シルフィーラがいなくなったのは正午なんでしょう?その時間、私たち三人にはアリバイがあるのよ」
「……それは一体……」


その言葉に同調したのはクララだった。


「そうよ、私たちはずっと食堂でお父様が来るのを待っていたもの。まぁ、結局来ることは無かったけどね」


そこまで言うとクララがリデルを軽く睨んだ。
どうやらリデルがオズワルドと外出していたということを知っているようだ。


「ああ、そうだ。ずっと食堂にいた俺たちがどこにいるかも分からないあの女の誘拐なんて出来るはずがないだろ」
「……」


三人は刺すような視線をリデルに向けた。
疑われて不愉快極まりない、といったような顔だ。


(三人には……アリバイがあった……?)


認めたくないが、事実のようだった。
となると、リデルが今しなければならない行動はただ一つだった。


「――申し訳……ありませんでした……」


リデルはマリナたちに向かって深く頭を下げた。


「ふんっ、私たちを疑うだなんて百年早いわよ」
「これだから子供は」
「ムカつくやつだな、あの女に似たのか?」


三人は口々にそんなことを言いながら俯くリデルの横を通り過ぎて行った。


「……」


リデルは反論の余地がなかった。
間違いなく自分に非があるということを分かっていたからだ。


(私ったら……いくらお義母様が誘拐されて焦ってるからって無実の人を疑ってしまうなんて……)


このときばかりは自分の発言を酷く後悔した。


「……」


しかし、そのときリデルの後ろにいたルーは何かを見極めるかのように去って行く三人の後ろ姿をじっと見つめていた。


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