愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここに?

ましゅぺちーの

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番外編

26 絶望 リリー視点

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――彼が会いに来ない。
そんな絶望の中で子は生まれた。


お腹を痛めて産んだ子供の性別、顔なんて気にもならない。
愛する彼に似ていれば良いなと思うけれど、当の本人がいないのなら意味は無い。
いくら我が子とはいえ、彼より大事なものなんてこの世に存在しないもの。


「ああ……」


早く会いに来てほしい。
私、貴方がいないと生きていけないの。
貴方に愛されてるって感じないと生きていけないの。
貴方のいない日々をどうやって生きろというの。


彼がいなければ、体を起こす気力さえも起きなかった。
実際私は、出産をしてからずっとベッドで横になっている。
体が重くて力が入らない。


こんなのは初めてだった。
自分でも気付かないうちにとんでもなく彼のことを好きになっていたんだろう。
他に女がいたってかまわない。
ただ、貴方が傍にいてくれるのなら、私は――


(会いたい……今どこにいるの?何をしているの?どうして会いに来ないの?)


ここへ来てからというもの、彼のことを考えない時間は一秒たりとも無かった。
いつだって私の頭は彼で埋め尽くされていた。
そう、出会ったときから、ずっと。


(早く来て……私の運命の人……)









***




出産からしばらくして、待ち望んでいた人物がようやく部屋へ訪れた。


「……陛下?」
「……生まれたようだな」


真っ暗な部屋へ入って来たのは、私がずっと恋焦がれていた彼だった。
ああ、やっと来てくれた。
彼が私を捨てるわけがない、やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれている。
そう確信した瞬間だった。


「へい……か……」


その姿を視界に入れた瞬間、すぐに彼の元へ駆け寄ろうとした。
久しぶりに起き上がったせいか体がとても重たかったが、愛しい彼の傍へ行けるのならそんなこと気にもならない。


私、貴方がいなくて本当に寂しかったの。
早くその大きな体で私を抱き締めてほしい。
そして二度と離さないで。


「子は王宮へ連れて行け。丁重に扱うように」
「…………陛下?」


しかしそんな願いも虚しく、彼は子を一瞥し、淡々と命令を下すと私の方を一度も見ずに部屋を立ち去ろうとした。


「ま、待って!」


部屋から出て行こうとする彼の裾を掴んで慌てて引き止めた。
振り返った彼の目は、私が初めて見る冷たいものだった。


「……何だ?」
「どうして……」


不快感を露わにしたようなその顔に、言葉が出なくなる。
以前のように優しい彼は見る影も無かった。


「どうして、どうして会いに来てくれなかったの……!」
「お前と会いたくなかったからだ」
「え……?」


初めて聞く彼の苛立ちを含んだ低い声。
こんな彼は知らない、私の知っている彼はこんな人じゃ――


「私、貴方をずっと待っていたの……貴方に会いたくて、毎日毎日貴方のことばかり考えていて……」
「やめてくれ、吐き気がする」


海よりも深い私の愛を伝えるも、彼から返ってきたのは激しい拒絶だった。
あれほど優しく、愛を注いでくれた彼が、私を拒絶した。
とても信じられなくて、夢ではないかと疑ってしまうほどだった。


打ちひしがれている私に、彼がトドメの一言を放った。


「私はお前を愛したことなんて無い」
「そんな……嘘よ……貴方は私を愛していて……」
「全部お前の勘違いだ」


必死で縋りつこうとする私の腕を、彼は冷たく振り払った。


(どうして?私たちは運命の赤い糸で結ばれた相手ではなかったの?)


違う、そんなことは無い。
彼は私を間違いなく愛しているもの。
ベッドの上でもあれだけ愛してると……


「あ……」


――そういえば、私彼に愛しているだなんて一度も言われたことが無かった。
愚かにも、今になってそのことに気が付いた。


「子供さえ生まれればそれで良かった、お前はもう用済みだ」
「そ、そんな……その子は私と貴方の愛の結晶で……」
「気持ち悪いことばかり言うな。お前がこの子に会う日はこれから先永遠に来ない。第一お前が良い母親になれるとは思えないからな」


そんな、どうしてそんな酷いことを言うの。
私、貴方のためならたくさん努力して子供に優しい母親になるわ。
貴方無しの生活なんて考えられないの、だから離れないで。


――行かないで、私を置いていかないで。


結局私のその願いは叶うことなく、彼は背を向けて部屋を出て行った。





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