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11章 夏の海ではしゃいじゃお
452.覗き希少種さん
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犬っぽい希少種さんは「尊いぃ」と鳴きながら──ほんとに鳴き声みたいに『尊い』ばっかり言ってたんだよ──ゴツゴツと頭をヤシの木の幹にぶつけてる。
ヤシの木がわっさわっさと揺さぶられて、ヤシの実が落ちてきた。
その実は砂浜を転がり、追いかけたラッタンが拾う。そして、『これなぁに?』という顔で見つめて首を傾げた。
「ラッタン、ヤシの実ジュース飲む?」
せっかくだから、と提案してみる。
ラッタンは果物も好きそうだったし、気にいると思うんだよねー。
「らぴゅ(ヤシの実ジュース?)」
「うん。それに穴を開けてストローを刺して果汁を飲むんだよ」
「らぴゅ(パカッと割ったらダメなのぉ?)」
「バシャッと出てきちゃうからダメだねー」
僕がそう答えた途端、ラッタンは『わかったぁ』と言いながら、異次元ポケットから石を取り出し、振りかぶった。
跳兎の頭をかち割る武器で叩いたら、ヤシの実なんて粉々になっちゃうんじゃない!?
「えっ、待って、それで割っちゃダメだって──!?」
止めようとしたけど、ラッタンの動きの方が早かった。
ラッタンの拳ほどの大きさの石が、キリのように尖ったかと思うと、グサッと音がしてヤシの実に穴が開く。ストローで飲むのにちょうどいい感じ。
……ラッタンの石って大きくなったり尖ったり、変幻自在だねぇ。
「それ、ほんとに石……?」
にわかに湧いた疑問を解決させようと、全鑑定スキルを発動する前に、石は異次元ポケットに仕舞われた。
うわぁん、謎が謎のままになって気になっちゃうよー。
「らぴゅ(ストロー、ちょうだぃ)」
「……はい、どうぞ」
マイペースにヤシの実ジュースを楽しもうとするラッタンに、石について問いかけるのは無粋な気がしてやめた。
そもそもちゃんとした答えが返ってくる気がしないし。
ストローを渡すと、ラッタンがチューとジュースを飲み、「らぴゅぴゅ(うままぁ、うまぁ♪)」と歌いながら体を揺らす。
予想通り気に入ったみたいだ。よかったねー。
「私の活躍でもふもふさんがジュースを楽しめる……幸せ過ぎんか……!?」
「うーん、君のおかげって言っていいのかなー? ……まあ、いいのかも……?」
木陰から聞こえてくる声に答えたけど、返事はない。犬っぽい希少種さんは、一人で「可愛い可愛い可愛いぃーっ」と悶えてる。
たぶん、僕が話しかけてるってことに気づいてないね。
これは近づいて肩ポンするしかないかなー。
そう考えて何歩か近づいたところで、ヤシの木の幹の傍で、大きなワニかドラゴンの尻尾のようなものがバシバシッと砂浜を叩いているのが見えた。
え、これ、犬っぽい希少種さんと同じ場所にワニ系の希少種さんもいる?
でも、この尻尾のサイズなら、木の幹に胴体や頭が隠れきれるとは思えないんだけどな……?
とりあえず、ここはバトルフィールドじゃないから敵のモンスターじゃないだろうし、と考えて尻尾の方に向かってみた。
黒っぽい尻尾がカッコよかったから、近くで見てみたかったんだもん。
尻尾は先端にポンポンのようにふわふわした毛がついてた。なんかそこは可愛い。
「もふもふ、ツルツルだー」
「きゅぃ(不思議な尻尾だねぇ)」
僕についてきたスラリンと一緒に尻尾を眺める。
やっぱりワニさんの胴体はここからでも見えない。というか──
「……これ、犬さんの尻尾……?」
幹を回り込んでみたら、犬系希少種さんの胴体から、ワニっぽい尻尾が続いていた。
足も完全な犬というより、鎧のように鱗が生えていて、ちょっとワニっぽい。
「きゅぃ(犬? なのかな?)」
スラリンが混乱してる。
こういうモンスターはこれまで見たことないもんね。
「そうだねぇ。でも、カッコよくいいと思う。強そうだし」
「きゅぃ(確かに強そう!)」
二人で犬系希少種さんを眺めていたら、視線を感じた。
あ、犬系希少種さんがこっちを振り向いて目を見開いてる。
「こんちゃー」
手をフリフリ。やっと気づいてくれたね。
スラリンも体を揺らして『やほー』と挨拶をする。
「………………どひゃあああっ! ふあぁあああっ! のわぁあああ!」
「声でっか!?」
まるで幽霊を見たかのように驚いた顔で叫ばれて、僕は反射的に叫び返しながら耳を押さえた。
大声量を浴びるのは本日三度目だ。
今、出会い頭で叫ぶのが流行ってるの? そういう流行、よくないと思うよ。
むっすー、とちょっぴり不機嫌になってたら、スラリンがぴょんっと跳ねて僕の頭に乗った。
「お、重い……!」
スラリン、自分が僕より大きいってこと忘れてない?
首がグギッとなるような感覚に呻いたら、急に犬(?)さんの叫び声が聞こえなくなった。
「──おやぁ?」
きょとんとしちゃう。
犬(?)さんはずっと叫び続けてるっぽいけど、無声映画を見てるみたいな感じだ。
僕の手ごと頭がスラリンに覆われて、音をシャットアウトしてるらしい。驚きの遮音力!
スラリンの体の不思議に僕が気が取られている間に、新たな人影が浜に現れていた。
その人は凄い勢いで駆けてきたかと思うと、犬(?)さんにドロップキックをかます。すごーい!
犬系希少種さんはよろめいて地面に倒れ、口を閉じた。
もううるさくなさそう。
スラリンをタッチすると、すぐに僕の意思を察してぴょんっと飛びおりてくれた。
音が復活する。潮騒が心地いいなぁ。
「ほんと、この子がごめんなさい!」
女の子がバッと頭を下げた。その子の片手が犬(?)さんの頭を掴んで、地面に押しつけようと力を込めてる。
見た目はお淑やかそうな容姿なのに、ドロップキックしかり、頭を鷲掴みする仕草しかり、なかなかワイルド。
なんか面白い人(?)たちと出会えたなー。
突然の大音量攻撃にはビックリしたけど、新たな出会いにちょっとワクワクしてきたぞ。
ヤシの木がわっさわっさと揺さぶられて、ヤシの実が落ちてきた。
その実は砂浜を転がり、追いかけたラッタンが拾う。そして、『これなぁに?』という顔で見つめて首を傾げた。
「ラッタン、ヤシの実ジュース飲む?」
せっかくだから、と提案してみる。
ラッタンは果物も好きそうだったし、気にいると思うんだよねー。
「らぴゅ(ヤシの実ジュース?)」
「うん。それに穴を開けてストローを刺して果汁を飲むんだよ」
「らぴゅ(パカッと割ったらダメなのぉ?)」
「バシャッと出てきちゃうからダメだねー」
僕がそう答えた途端、ラッタンは『わかったぁ』と言いながら、異次元ポケットから石を取り出し、振りかぶった。
跳兎の頭をかち割る武器で叩いたら、ヤシの実なんて粉々になっちゃうんじゃない!?
「えっ、待って、それで割っちゃダメだって──!?」
止めようとしたけど、ラッタンの動きの方が早かった。
ラッタンの拳ほどの大きさの石が、キリのように尖ったかと思うと、グサッと音がしてヤシの実に穴が開く。ストローで飲むのにちょうどいい感じ。
……ラッタンの石って大きくなったり尖ったり、変幻自在だねぇ。
「それ、ほんとに石……?」
にわかに湧いた疑問を解決させようと、全鑑定スキルを発動する前に、石は異次元ポケットに仕舞われた。
うわぁん、謎が謎のままになって気になっちゃうよー。
「らぴゅ(ストロー、ちょうだぃ)」
「……はい、どうぞ」
マイペースにヤシの実ジュースを楽しもうとするラッタンに、石について問いかけるのは無粋な気がしてやめた。
そもそもちゃんとした答えが返ってくる気がしないし。
ストローを渡すと、ラッタンがチューとジュースを飲み、「らぴゅぴゅ(うままぁ、うまぁ♪)」と歌いながら体を揺らす。
予想通り気に入ったみたいだ。よかったねー。
「私の活躍でもふもふさんがジュースを楽しめる……幸せ過ぎんか……!?」
「うーん、君のおかげって言っていいのかなー? ……まあ、いいのかも……?」
木陰から聞こえてくる声に答えたけど、返事はない。犬っぽい希少種さんは、一人で「可愛い可愛い可愛いぃーっ」と悶えてる。
たぶん、僕が話しかけてるってことに気づいてないね。
これは近づいて肩ポンするしかないかなー。
そう考えて何歩か近づいたところで、ヤシの木の幹の傍で、大きなワニかドラゴンの尻尾のようなものがバシバシッと砂浜を叩いているのが見えた。
え、これ、犬っぽい希少種さんと同じ場所にワニ系の希少種さんもいる?
でも、この尻尾のサイズなら、木の幹に胴体や頭が隠れきれるとは思えないんだけどな……?
とりあえず、ここはバトルフィールドじゃないから敵のモンスターじゃないだろうし、と考えて尻尾の方に向かってみた。
黒っぽい尻尾がカッコよかったから、近くで見てみたかったんだもん。
尻尾は先端にポンポンのようにふわふわした毛がついてた。なんかそこは可愛い。
「もふもふ、ツルツルだー」
「きゅぃ(不思議な尻尾だねぇ)」
僕についてきたスラリンと一緒に尻尾を眺める。
やっぱりワニさんの胴体はここからでも見えない。というか──
「……これ、犬さんの尻尾……?」
幹を回り込んでみたら、犬系希少種さんの胴体から、ワニっぽい尻尾が続いていた。
足も完全な犬というより、鎧のように鱗が生えていて、ちょっとワニっぽい。
「きゅぃ(犬? なのかな?)」
スラリンが混乱してる。
こういうモンスターはこれまで見たことないもんね。
「そうだねぇ。でも、カッコよくいいと思う。強そうだし」
「きゅぃ(確かに強そう!)」
二人で犬系希少種さんを眺めていたら、視線を感じた。
あ、犬系希少種さんがこっちを振り向いて目を見開いてる。
「こんちゃー」
手をフリフリ。やっと気づいてくれたね。
スラリンも体を揺らして『やほー』と挨拶をする。
「………………どひゃあああっ! ふあぁあああっ! のわぁあああ!」
「声でっか!?」
まるで幽霊を見たかのように驚いた顔で叫ばれて、僕は反射的に叫び返しながら耳を押さえた。
大声量を浴びるのは本日三度目だ。
今、出会い頭で叫ぶのが流行ってるの? そういう流行、よくないと思うよ。
むっすー、とちょっぴり不機嫌になってたら、スラリンがぴょんっと跳ねて僕の頭に乗った。
「お、重い……!」
スラリン、自分が僕より大きいってこと忘れてない?
首がグギッとなるような感覚に呻いたら、急に犬(?)さんの叫び声が聞こえなくなった。
「──おやぁ?」
きょとんとしちゃう。
犬(?)さんはずっと叫び続けてるっぽいけど、無声映画を見てるみたいな感じだ。
僕の手ごと頭がスラリンに覆われて、音をシャットアウトしてるらしい。驚きの遮音力!
スラリンの体の不思議に僕が気が取られている間に、新たな人影が浜に現れていた。
その人は凄い勢いで駆けてきたかと思うと、犬(?)さんにドロップキックをかます。すごーい!
犬系希少種さんはよろめいて地面に倒れ、口を閉じた。
もううるさくなさそう。
スラリンをタッチすると、すぐに僕の意思を察してぴょんっと飛びおりてくれた。
音が復活する。潮騒が心地いいなぁ。
「ほんと、この子がごめんなさい!」
女の子がバッと頭を下げた。その子の片手が犬(?)さんの頭を掴んで、地面に押しつけようと力を込めてる。
見た目はお淑やかそうな容姿なのに、ドロップキックしかり、頭を鷲掴みする仕草しかり、なかなかワイルド。
なんか面白い人(?)たちと出会えたなー。
突然の大音量攻撃にはビックリしたけど、新たな出会いにちょっとワクワクしてきたぞ。
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