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ゆるり

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4章 錬金術士だよ?

136.新たな錬金術への第一歩だよ

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 琥珀が意外なところからとれたのはびっくりしたけど、探すべきモンスターはわかったから、川を重点的に探した。
 それにはスラリンが活躍してくれた。水の中を探るのは大得意だから。

「――これで五つ目!」

 足蹴で倒した疑似魚ルアニアムが消えるのを見送り、「ふぃ~……」と息をついて額の汗を拭う仕草をしてみる。汗は出てないけど。がんばってるアピールだよ。

 疑似魚ルアニアムは高確率で琥珀をドロップしてくれるからありがたい。でも、フィールドでの出現数が少ないみたいで、なかなか出会えない。
 スラリンがいなかったら、一日一個集めるのが精一杯だったかも。

 ちなみに、本物の長靴もいくつかゲットした。ゴムっぽい質感のやつ。疑似魚ルアニアムは沈んでる長靴を見て、魚と勘違いして擬態したのかもしれない。

 でもさぁ、この川、ゴミの不法投棄場所なの? 川を汚すのはだめだよ。どこかに『ゴミのぽい捨て禁止!』って看板を付けておこうかな。

「これだけ集まれば、装備とかアクセサリーを作るのに十分なはず~」

 スラリンたちはタイムアップで消えちゃったし、そろそろ僕も引き上げよう。
 疑似魚ルアニアムをみつけるついでに、たくさんの魚介類も獲れてラッキーだったなぁ。

「【転移】!」

 戻るのはもちろんレナードさんの工房。作るアイテムの相談に乗ってもらわなくちゃ。

 パッと視界が切り替わり、目の前にある工房の扉を叩く。

「ただいま~」
「……ここはお前の家じゃないんだが?」

 挨拶をしながら入ったら、レナードさんに呆れた顔をされた。でも、僕とレナードさんの仲を考えたら、もう僕の家と言っても過言じゃないと思う。……え、過言?

「ただいまって言いたくなるくらい居心地が良い工房なのが悪いよね!」
「責任転嫁甚だしいな」

 開き直って言う僕に、レナードさんは苦笑してた。ちょっぴり嬉しいと思ってる気がする。

「それより、アイテム相談に乗ってください!」
「……琥珀は手に入れられたのか?」
「五個だけ」

 アイテムボックスから取り出した琥珀をテーブルにのせる。それぞれ個性があって、コロンとしたフォルムが可愛い。花が封じ込めてあるのもあってオシャレだ。

 レナードさんが琥珀を見下ろした後、壁にかかった時計に目を向けた。

「……凄まじく早いな」
「そう? でも、川の中のモンスターだって教えてもらってたら、もっと早くたくさんとれたと思う!」

 情報不足に文句を言う。でも、レナードさんは「モモが聞いてこなかったんだろ」と肩をすくめるだけだ。
 それはその通りなので、僕は「むぅ」と黙り込むしかない。

「木属性魔術への耐性強化を目指してるんだったよな」

 レナードさんは僕の様子を気に留めない感じで、テーブルの上から一冊の本を手に取った。

「――レシピを見るより詳しい情報が載ってる。これを参考にするといい。質問があれば聞け」

 ぱらり、と開かれたページには『効果:木属性耐性』というタイトルがあった。その下には、ずらりとアイテム名と詳細が並んでる。

 こういう本もあるんだ? そういえば、この世界の本ってどこで手に入れられるんだろう?

「本って、借りたり買ったりできるの?」

 内容に目を通しながら聞いてみる。

「借りるのは図書室か図書館だな。この街だと、各ギルドの二階に図書室があるぞ。錬金術ギルドだとアイテム関連の書物がほとんどだ。冒険者ギルドだとモンスター関連の書物が多いらしい」
「へぇ。利用制限は?」
「各ギルド員か、街の住民なら利用できる」
「そっか。時間できたら行ってみようかなぁ」
「勉強するのは良いことだ」

 知識を集めるのも、きっと役に立つよね。迷彩小竜カモフラミニドラゴンに関する情報を知ろうと思ったら、第二の街で本を探した方がいいかも。

 そんなことを考えながら、ペラリペラリと本の内容を確認して、気になるものがいくつかあった。
 まずは僕が使えるアクセサリーについて。

「ねぇ、この【王虎白アンバールのイヤリング】って、素材がレアじゃないわりに効果がすごいのはなんで?」

 ペシ、と項目を指し示したら、レナードさんが覗き込んできた。

 このアイテム、作成するのに必要な素材が【琥珀】と【ゴールド】だけなのに、『木の精を封じた琥珀を使ったイヤリング。木魔術の効果が30%上がる。木属性攻撃への耐性が50%上がる。幸運値+10』っていう説明が書いてあるんだ。
 他のアイテムと桁違いなくらい、効果がすごい。

「……あぁ、これは【宝石強化】をして【琥珀】の質を高めないといけないんだ」
「【宝石強化】?」
「錬金術のスキルの一つだ。アイテム強化系だな。モモはスキルを持ってないだろうが……何度か練習したらできるだろう」

 頷いたレナードさんが「習得するか?」って聞いてきたから「もちろん!」と答える。
 錬金術スキルを入手できるなら、断るわけないよ。

「なにか必要なアイテムがある?」
「練習用の宝石があるといいな。失敗するとゴミになるから、くず石でいい」
「うーん……これでもいい?」

 アイテムボックスから取り出したのは、ノース街道で採掘した時にとれた低品質の黒曜石だ。たくさんとれたけど、今まで使い道があまりなかったんだよ。

「いいぞ。【宝石強化】には特殊アイテムを使う。まずはそれを作ろう。錬金玉で【強化布】を検索してみろ」
「強化布ね……あ、あった!」

 レシピは【毛あるいは布】【魔石】【強化魔術陣】だった。強化魔術陣ってなに?
 首を傾げてたら、レナードさんが「これやる」と巻物みたいなものを渡してくる。

「えっと、これが強化魔術陣?」
「そうだ。魔術学院で販売してる」
「王都にあるやつか~。もらっちゃっていいの?」
「弟子へのプレゼントだ」
「ありがとう!」

 素っ気ない態度でも、こうして弟子扱いしてくれるから嬉しい。
 るんるん、と鼻歌を歌いながら、強化魔術陣を錬金布に載せる。

 魔石はなんでもいいらしいから、木魔石にしよう。サウス街道と北の森林で結構たくさんドロップしたんだ。
 毛は……僕の綿毛にしちゃおうかな。僕が使うアイテムになるんだし。

天兎アンジュラパの綿毛か……」
「レナードさん欲しいの?」

 ちょっと羨ましそうに言われたから、きょとんとしながら聞いてみる。レナードさんは躊躇った後に「欲しい」と呟いた。
 それならあげましょう。

「――はい、どうぞ。あんまり数がないから、とりあえず五個ね」

 レナードさんにはお世話になってるし、これくらいあげて当然だ。
 ニコニコと笑いながら差し出したら、僕と綿毛を交互に眺めたレナードさんが、口元を緩めて「ありがとう」と呟いた。喜んでもらえて僕も嬉しい。

「材料が揃ったし、錬金しちゃうね」
「ああ。失敗することはそうそうないだろうが、集中してやるんだぞ」
「うん、気持ちを込めて、だね」

 この工房で最初に作った錬金玉のことを思い出して微笑む。アリスちゃんに作ったプレゼントも、気持ちが効果に反映されたし、生半可な思いで作るべきじゃないってわかってる。これから長く使うアイテムになるならなおさらだ。

 錬金布に並んだ【綿毛】【木魔石】【強化魔術陣】を眺めて、気合いを入れる。良いアイテムになりますように!

「――【錬金スタート】!」

 ピカッと光が溢れる演出の後、錬金布の上にはハンカチサイズの布が載っていた。複雑な文様が描かれてる。

「完成した?」
「ああ、申し分ない良い出来だ」
「やったー!」

 レナードさんに褒められて嬉しいな。

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