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4章 錬金術士だよ?
137.失敗は成功のもと!
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強化布が完成したので、早速【宝石強化】に取り組むことになった。スキルが取得できないと、強化失敗で素材がゴミになるらしいけど。怖い……。
「うー……よく考えたら、僕、これまで錬金術で失敗したことないんだった……」
「そりゃ幸運だったな。ほら、恐れてないで、さっさとやれ。できるまでやるんだ」
「急にスパルタぁ!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、やらなくてはできないのは理解してるから、黒曜石を強化布の上に並べる。
一度に三つまで載せられるらしいけど、ゴミになるとわかってるから二つだけ。
「呪文は【強化スタート】だぞ」
「錬金術の詠唱ってシンプルだよね」
「魔術とは違うからな。強化布に手をかざしてやってみろ」
教えられた通りに、黒曜石を見据えながら手をかざした。素材がゴミになるのを見届ける覚悟を決めて、口を開く。
「【強化スタート】!」
二つの黒曜石がぶつかり、溶け合うように見えたかと思うと、あっという間にゴツゴツとした黒い塊になった。
全鑑定で見た結果は『ゴミ:活用法が存在しない真なるゴミ』だって。ゴミゴミ言い過ぎぃ!
「――ほんとにゴミになっちゃった……」
「全くの無になるよりマシだろう。これでも、重しとか庭の飾りにはなる」
「活用法が、あっただと……!?」
ほぼ無いようなものだけどね! 僕の家には小さい中庭があるし、ゴミで花壇でも作ろうかな!
失敗の衝撃を乗り越え、開き直って新たな黒曜石を並べる。【宝石強化】スキルを得られるまで、とにかくゴミを生産してやるぞ。
「【強化スタート】!」
――それから何度も強化を行って、生まれたゴミの山。
心が折れかける間際でようやく変化が訪れた。
「……おお?」
二つの黒曜石がぶつかり、溶け合い、一回り大きくなって、強化布の上に鎮座する。これは、もしかして――?
〈行動蓄積により【宝石強化】スキルを習得しました〉
待ちに待ったアナウンスがあった。涙が出そうだよぉ。
「成功したな。失敗三十七回。……想定してたより早く習得できた」
「これ以上失敗する想定だったとか、怖すぎるんだけど!」
成功の喜びを噛みしめるより先に、今以上にゴミが生成されていた可能性にひぇっと悲鳴が漏れる。
たぶん、そうなっていたら、成功する前に挫折してたな。スキルリストに頼ってたと思う。
「フッ、モモは錬金術のセンスがあるぞ。だからもっとがんばれ」
「……がんばるけど、今はもうがんばれないかも」
ぐてっとテーブルに伏せながら、強化黒曜石を抱っこする。
よく誕生してくれました。ありがとう。僕の心が守られたよ!
「卵か?」
「ウサギは卵生じゃないー」
「そうなのか」
意外そうに頷かれたんだけど、天兎が卵生の可能性はあるかも? いや、僕はないと思ってるし、今抱っこしてるのは黒曜石なんだけど。
「――それより、琥珀の強化はしないのか? いつまで経っても目的のアクセサリーを作れないぞ」
「先に休憩する!」
宣言してコーヒーとマドレーヌを用意する。僕の心が、安息を求めてるのです!
「ここは工房なんだけどな」
「飲食禁止じゃないでしょ? 一緒に食べよー」
微笑んでコーヒーカップを渡したら、レナードさんは少し嬉しそうに目を細めた。「コーヒーは久しぶりだ」って言ってる。
コーヒーは第三の街の特産品だから、はじまりの街ではあまり売ってないのかも。
「マドレーヌ、うまうま……甘いお菓子は心の栄養……」
「どんだけ疲れてるんだ」
呆れた感じで言われたけど、たぶん全鑑定スキルを仮想施設で鍛えた時以上に疲れてると思う。つまりは過去一だよ。
しばらくのんびり休憩して、気力が回復してきたので、ようやく作業を始めることにした。
用意するのはもちろん琥珀だ。
レナードさん曰く、【宝石強化】スキルで一度に三つ宝石を使うと、品質が向上するらしい。というわけで、三つ使っちゃうぞ。
リリとルトの装備には一個ずつ使えばいいもんね。足りなかったらまた今度取ってくるし。
強化布に琥珀を三つ載せて、手をかざす。
もう慣れた動きだけど、失敗する可能性が少ないって考えたら気が楽だ。代わりに、上手にできますようにって気持ちを強く込める。
「【強化スタート】!」
唱えた途端、三つの琥珀がぶつかり、溶け合う。その様子を見つめ、ごくりと唾を飲み込んだ。
凝視し続ける僕の前に、琥珀が一回り大きく、色味が濃くなって現れる。
「――やったぁ! 成功!」
「そうだな」
喜びを爆発させて飛び跳ねる僕とは対照的に、レナードさんは冷静だ。もっと喜びを共有してくれても良くない?
ちょっぴり不満になっちゃったけど、達成感ですぐにかき消される。
「ふふ、僕の努力の結晶!」
僕が琥珀を抱きしめて頬ずりしてたら、レナードさんがテキパキと錬金布と錬金玉をテーブルに並べてきた。
「それより、作るアクセサリーは【王虎白のイヤリング】で良いんだろう? ゴールドはあるのか」
「……あるよ」
もっと喜びに浸らせてよー、と抗議するのは違う気がして、口を尖らせながらアイテムボックスを探る。
時間的に、作業速度を早めた方がいいのは僕もわかってるんだ。もう夜が近いもん。
錬金布の上に強化した琥珀とゴールドを並べる。ここからの作業はもう慣れたものだ。
錬金玉に手を載せて、作るアイテムをイメージしながら呪文を唱える。
「【錬金スタート】!」
素敵なアイテムになりますように。
そんな思いを込めて錬金したら、ふわりと虹色の渦の演出が出てきた気がした。
「おっ、品質が上がったな」
「え?」
完成した【王虎白のイヤリング】を鑑定してみる。
――――――
【王虎白のイヤリング】レア度☆☆☆☆
木の精を封じた琥珀を使ったイヤリング。木魔術の効果が35%上がる。木属性攻撃への耐性が60%上がる。幸運値+15。
――――――
「効果が上がってる! 元々すごかったのに、さらに強いアクセサリーになってるよー」
「良かったな。努力が実ったじゃないか」
「うん! レナードさんのおかげだよ」
完成品の仕上がりにテンションが上がった。がんばったかいがあったなぁ!
「うー……よく考えたら、僕、これまで錬金術で失敗したことないんだった……」
「そりゃ幸運だったな。ほら、恐れてないで、さっさとやれ。できるまでやるんだ」
「急にスパルタぁ!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、やらなくてはできないのは理解してるから、黒曜石を強化布の上に並べる。
一度に三つまで載せられるらしいけど、ゴミになるとわかってるから二つだけ。
「呪文は【強化スタート】だぞ」
「錬金術の詠唱ってシンプルだよね」
「魔術とは違うからな。強化布に手をかざしてやってみろ」
教えられた通りに、黒曜石を見据えながら手をかざした。素材がゴミになるのを見届ける覚悟を決めて、口を開く。
「【強化スタート】!」
二つの黒曜石がぶつかり、溶け合うように見えたかと思うと、あっという間にゴツゴツとした黒い塊になった。
全鑑定で見た結果は『ゴミ:活用法が存在しない真なるゴミ』だって。ゴミゴミ言い過ぎぃ!
「――ほんとにゴミになっちゃった……」
「全くの無になるよりマシだろう。これでも、重しとか庭の飾りにはなる」
「活用法が、あっただと……!?」
ほぼ無いようなものだけどね! 僕の家には小さい中庭があるし、ゴミで花壇でも作ろうかな!
失敗の衝撃を乗り越え、開き直って新たな黒曜石を並べる。【宝石強化】スキルを得られるまで、とにかくゴミを生産してやるぞ。
「【強化スタート】!」
――それから何度も強化を行って、生まれたゴミの山。
心が折れかける間際でようやく変化が訪れた。
「……おお?」
二つの黒曜石がぶつかり、溶け合い、一回り大きくなって、強化布の上に鎮座する。これは、もしかして――?
〈行動蓄積により【宝石強化】スキルを習得しました〉
待ちに待ったアナウンスがあった。涙が出そうだよぉ。
「成功したな。失敗三十七回。……想定してたより早く習得できた」
「これ以上失敗する想定だったとか、怖すぎるんだけど!」
成功の喜びを噛みしめるより先に、今以上にゴミが生成されていた可能性にひぇっと悲鳴が漏れる。
たぶん、そうなっていたら、成功する前に挫折してたな。スキルリストに頼ってたと思う。
「フッ、モモは錬金術のセンスがあるぞ。だからもっとがんばれ」
「……がんばるけど、今はもうがんばれないかも」
ぐてっとテーブルに伏せながら、強化黒曜石を抱っこする。
よく誕生してくれました。ありがとう。僕の心が守られたよ!
「卵か?」
「ウサギは卵生じゃないー」
「そうなのか」
意外そうに頷かれたんだけど、天兎が卵生の可能性はあるかも? いや、僕はないと思ってるし、今抱っこしてるのは黒曜石なんだけど。
「――それより、琥珀の強化はしないのか? いつまで経っても目的のアクセサリーを作れないぞ」
「先に休憩する!」
宣言してコーヒーとマドレーヌを用意する。僕の心が、安息を求めてるのです!
「ここは工房なんだけどな」
「飲食禁止じゃないでしょ? 一緒に食べよー」
微笑んでコーヒーカップを渡したら、レナードさんは少し嬉しそうに目を細めた。「コーヒーは久しぶりだ」って言ってる。
コーヒーは第三の街の特産品だから、はじまりの街ではあまり売ってないのかも。
「マドレーヌ、うまうま……甘いお菓子は心の栄養……」
「どんだけ疲れてるんだ」
呆れた感じで言われたけど、たぶん全鑑定スキルを仮想施設で鍛えた時以上に疲れてると思う。つまりは過去一だよ。
しばらくのんびり休憩して、気力が回復してきたので、ようやく作業を始めることにした。
用意するのはもちろん琥珀だ。
レナードさん曰く、【宝石強化】スキルで一度に三つ宝石を使うと、品質が向上するらしい。というわけで、三つ使っちゃうぞ。
リリとルトの装備には一個ずつ使えばいいもんね。足りなかったらまた今度取ってくるし。
強化布に琥珀を三つ載せて、手をかざす。
もう慣れた動きだけど、失敗する可能性が少ないって考えたら気が楽だ。代わりに、上手にできますようにって気持ちを強く込める。
「【強化スタート】!」
唱えた途端、三つの琥珀がぶつかり、溶け合う。その様子を見つめ、ごくりと唾を飲み込んだ。
凝視し続ける僕の前に、琥珀が一回り大きく、色味が濃くなって現れる。
「――やったぁ! 成功!」
「そうだな」
喜びを爆発させて飛び跳ねる僕とは対照的に、レナードさんは冷静だ。もっと喜びを共有してくれても良くない?
ちょっぴり不満になっちゃったけど、達成感ですぐにかき消される。
「ふふ、僕の努力の結晶!」
僕が琥珀を抱きしめて頬ずりしてたら、レナードさんがテキパキと錬金布と錬金玉をテーブルに並べてきた。
「それより、作るアクセサリーは【王虎白のイヤリング】で良いんだろう? ゴールドはあるのか」
「……あるよ」
もっと喜びに浸らせてよー、と抗議するのは違う気がして、口を尖らせながらアイテムボックスを探る。
時間的に、作業速度を早めた方がいいのは僕もわかってるんだ。もう夜が近いもん。
錬金布の上に強化した琥珀とゴールドを並べる。ここからの作業はもう慣れたものだ。
錬金玉に手を載せて、作るアイテムをイメージしながら呪文を唱える。
「【錬金スタート】!」
素敵なアイテムになりますように。
そんな思いを込めて錬金したら、ふわりと虹色の渦の演出が出てきた気がした。
「おっ、品質が上がったな」
「え?」
完成した【王虎白のイヤリング】を鑑定してみる。
――――――
【王虎白のイヤリング】レア度☆☆☆☆
木の精を封じた琥珀を使ったイヤリング。木魔術の効果が35%上がる。木属性攻撃への耐性が60%上がる。幸運値+15。
――――――
「効果が上がってる! 元々すごかったのに、さらに強いアクセサリーになってるよー」
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