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10章 海は広くて冒険いっぱい
373.海の中へ
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円の中に星やらアラビア文字のような記号やら、いろいろ描かれている魔法陣全体が光ると、不意に周囲の景色が消えた。
「ふぇっ!?」
つい間抜けな声を出してビビり、近くにいたスラリンにムギュッと抱きついちゃった。スラリンは変形したけどなぜか嬉しそう。
おー、やっぱりスライムって気持ちいい……って、今はそれどころじゃなかった!
ハッとした瞬間に、周囲に光が戻る。
青だ。僕たちを包むように、いくつもの光の柱がある青が広がっていた。
「——これ……海の中……?」
水族館とかでたまにある、全体を海に囲まれたような景色に圧倒される。上からは日差しが光の柱となって降り注いでいるから、明るくて綺麗だ。
時々魚系モンスターが泳いでいるのが見えるけど、僕たちに気づいてないみたいにスルーされてる。金鰺がまさしく黄金みたいに光っててゴージャス!
「ぴぅ(海を泳いでるみたいだね)」
「にゃ(ヒスイはちょっとこういうのは苦手にゃ……)」
「きゅーきゅい(ここ、シャボン玉の中みたいね)」
ヒスイは泳ぐの苦手そうだもんなぁ、と思ってたら、ナッティが意外なことを言った。
え、ここシャボン玉の中なの?
意識して海との境界を観察してみたら、確かに透明な薄い膜がある気がする。ただし、形は円柱形だから、シャボン玉とは違うと思うけど。ちょうど、さっきまでいた白い建物みたいな形だ。
「さっきの魔法陣はここの中に転移するためのものだったのかなぁ……って、これ、海の底におりていってない?」
ふと気づいたら、海面が少し遠くなってる。日の光も届かなくなってきて、海が深い青色に変わってきた。
幸い、僕たちがいるここは膜が光を発してるのか、お互いが見えなくなるほどの暗さではないけど。
「きゅぃ(おりてるねー。このまま海底都市リュウグウに行けるのかも)」
「あ、そっか。あの建物、入口だったもんね。こんな風に移動するのは予想外だったけど」
正直、普通に転移させてくれればいいのでは? と思わなくもない。でも、こうして海の中を観賞できるのも、たまには楽しくていいね。
見える範囲を泳ぐ魚系モンスターは、見たことがあるものもいれば、存在さえ知らなかったようなものまで多種多様だ。
スラリンたちと和気あいあいと感想を話しながら、膜に手をついて海を眺めていると、不意に大きな魚体が闇から現れるように近づいてきた。
「デカッ! 怖いよぉ」
経験上、魚系モンスターが僕たちを襲ってこないとはわかっていたけど、近くに来られるとそれなりにビビる。とはいえ、泳いでいる姿をマジマジと観察できる機会はそうそうないから、目を逸らすことなく見続けるけど。
この魚、なんだろう? 大きいし、食べごたえありそうだなぁ。なんとなく、リアルで見たことがある魚と似てる気がする。リアルでは魚に角ようなものはないと思うけど。
「あ、鑑定しよ」
スキルを思い出して、魚がいなくなる前にと慌てて鑑定する。
額辺りに二本の鬼の角のようなものを持つ、黒色のモンスターの正体は——
——————
【王鮪】
イノカン国の内海で王者と呼ばれる魚系モンスター
二本の角で敵を攻撃する
素早い動きが特徴
——————
「王鮪……って、モンちゃんが好きなモンスター!」
おお! モンちゃんお気に入りのモンスターはこの子かぁ。
僕に釣りを教えてくれた師匠曰く、すごく美味しい魚らしい。マグロいいよねぇ。でも、食べたらモンちゃんに嫌われちゃう? それはイヤだなぁ。
「強そうだねぇ」
「ぴぅ(ボクは戦いたくないよ……)」
「にゃ(モモが指示するなら、がんばって戦うにゃ)」
ちょっと引いてるユキマルの横で、ヒスイは勇気を奮い立たせた様子で王鮪を凝視しながら呟く。
え、僕はそんな指示出さないから、緊張しなくていいよ?
「いやいや、ここで戦うのはたぶん無理でしょ。万が一この膜が破れたら、僕たち死んじゃうよ?」
こんなところで死に戻りはイヤですー。
僕がそう言うと、ユキマルたちがホッと息を吐いて、落ち着いて王鮪を観察し始めた。
この王鮪、なぜか僕たちがいるシャボン玉みたいな膜の周囲をグルグルと回ってるんだよ。気づかれてるわけじゃないよね? 攻撃される感じじゃないしなぁ。どうしてだろう?
大きさは暴走鯱ほどではなくとも、人の数倍はありそうだから、結構な威圧感がある。
モンちゃん、こういうモンスターが好きなのかぁ。この前会った鷲っぽいモンスターのアクロもカッコいい系だったけど、ちょっとタイプが違うなぁ。
「きゅぃ(あ、下の方が明るいよ)」
王鮪に付き纏われながら観察していると、スラリンがぴょんと跳ねて言った。
つられて足下を見ると、確かに淡い光が見える。もしかして、目的地に着きそう?
海底都市リュウグウがどうやって海底に都市を築いてるか気になるー。確か、海のエルフが住んでるんだよね。
「……あ、王鮪がいなくなった」
僕たちの関心が逸れたのを察したように、王鮪が海の闇へと消えていった。ちょっと残念。
テイムできたら、モンちゃんに「いいだろー」って自慢できそうだけど……魚系モンスターのテイム方法はよくわからないな。釣り上げちゃダメだもんね。海の中で出会ったら、即バトルだろうし。
そんなことを考えている間にも、僕たちはゆっくりと下降を続け、ついに海底都市リュウグウを見られる距離まで近づいた。
「ほわぁ……想像する竜宮城のイメージにピッタリ……」
海底都市リュウグウは、西洋のアトランティスよりもやっぱり浦島太郎の竜宮城をモチーフにしてると察する景観だ。
和風の建築物が並ぶ街の奥には、一際立派な宮殿がある。あそこにお姫様とかいるのかな。
街は全体的に朱色をメインにしてて、青と黒の海に囲まれているから目立ってる。
海の中にある街なのに、当たり前のように街路樹とかがあるし……と思いながらよく見たら、木のような海草だった。普通の街中っぽいところに生えてる海草って、微妙に違和感があって面白い。
公園らしきところにあるベンチは貝殻だし、鮮やかな色のお花かと思ったものはたぶんイソギンチャクとかサンゴとかっぽい。あとで近くで観察しよう。
上から見ているだけでもワクワクする街並みだ。早く散策したいなぁ。
「ふぇっ!?」
つい間抜けな声を出してビビり、近くにいたスラリンにムギュッと抱きついちゃった。スラリンは変形したけどなぜか嬉しそう。
おー、やっぱりスライムって気持ちいい……って、今はそれどころじゃなかった!
ハッとした瞬間に、周囲に光が戻る。
青だ。僕たちを包むように、いくつもの光の柱がある青が広がっていた。
「——これ……海の中……?」
水族館とかでたまにある、全体を海に囲まれたような景色に圧倒される。上からは日差しが光の柱となって降り注いでいるから、明るくて綺麗だ。
時々魚系モンスターが泳いでいるのが見えるけど、僕たちに気づいてないみたいにスルーされてる。金鰺がまさしく黄金みたいに光っててゴージャス!
「ぴぅ(海を泳いでるみたいだね)」
「にゃ(ヒスイはちょっとこういうのは苦手にゃ……)」
「きゅーきゅい(ここ、シャボン玉の中みたいね)」
ヒスイは泳ぐの苦手そうだもんなぁ、と思ってたら、ナッティが意外なことを言った。
え、ここシャボン玉の中なの?
意識して海との境界を観察してみたら、確かに透明な薄い膜がある気がする。ただし、形は円柱形だから、シャボン玉とは違うと思うけど。ちょうど、さっきまでいた白い建物みたいな形だ。
「さっきの魔法陣はここの中に転移するためのものだったのかなぁ……って、これ、海の底におりていってない?」
ふと気づいたら、海面が少し遠くなってる。日の光も届かなくなってきて、海が深い青色に変わってきた。
幸い、僕たちがいるここは膜が光を発してるのか、お互いが見えなくなるほどの暗さではないけど。
「きゅぃ(おりてるねー。このまま海底都市リュウグウに行けるのかも)」
「あ、そっか。あの建物、入口だったもんね。こんな風に移動するのは予想外だったけど」
正直、普通に転移させてくれればいいのでは? と思わなくもない。でも、こうして海の中を観賞できるのも、たまには楽しくていいね。
見える範囲を泳ぐ魚系モンスターは、見たことがあるものもいれば、存在さえ知らなかったようなものまで多種多様だ。
スラリンたちと和気あいあいと感想を話しながら、膜に手をついて海を眺めていると、不意に大きな魚体が闇から現れるように近づいてきた。
「デカッ! 怖いよぉ」
経験上、魚系モンスターが僕たちを襲ってこないとはわかっていたけど、近くに来られるとそれなりにビビる。とはいえ、泳いでいる姿をマジマジと観察できる機会はそうそうないから、目を逸らすことなく見続けるけど。
この魚、なんだろう? 大きいし、食べごたえありそうだなぁ。なんとなく、リアルで見たことがある魚と似てる気がする。リアルでは魚に角ようなものはないと思うけど。
「あ、鑑定しよ」
スキルを思い出して、魚がいなくなる前にと慌てて鑑定する。
額辺りに二本の鬼の角のようなものを持つ、黒色のモンスターの正体は——
——————
【王鮪】
イノカン国の内海で王者と呼ばれる魚系モンスター
二本の角で敵を攻撃する
素早い動きが特徴
——————
「王鮪……って、モンちゃんが好きなモンスター!」
おお! モンちゃんお気に入りのモンスターはこの子かぁ。
僕に釣りを教えてくれた師匠曰く、すごく美味しい魚らしい。マグロいいよねぇ。でも、食べたらモンちゃんに嫌われちゃう? それはイヤだなぁ。
「強そうだねぇ」
「ぴぅ(ボクは戦いたくないよ……)」
「にゃ(モモが指示するなら、がんばって戦うにゃ)」
ちょっと引いてるユキマルの横で、ヒスイは勇気を奮い立たせた様子で王鮪を凝視しながら呟く。
え、僕はそんな指示出さないから、緊張しなくていいよ?
「いやいや、ここで戦うのはたぶん無理でしょ。万が一この膜が破れたら、僕たち死んじゃうよ?」
こんなところで死に戻りはイヤですー。
僕がそう言うと、ユキマルたちがホッと息を吐いて、落ち着いて王鮪を観察し始めた。
この王鮪、なぜか僕たちがいるシャボン玉みたいな膜の周囲をグルグルと回ってるんだよ。気づかれてるわけじゃないよね? 攻撃される感じじゃないしなぁ。どうしてだろう?
大きさは暴走鯱ほどではなくとも、人の数倍はありそうだから、結構な威圧感がある。
モンちゃん、こういうモンスターが好きなのかぁ。この前会った鷲っぽいモンスターのアクロもカッコいい系だったけど、ちょっとタイプが違うなぁ。
「きゅぃ(あ、下の方が明るいよ)」
王鮪に付き纏われながら観察していると、スラリンがぴょんと跳ねて言った。
つられて足下を見ると、確かに淡い光が見える。もしかして、目的地に着きそう?
海底都市リュウグウがどうやって海底に都市を築いてるか気になるー。確か、海のエルフが住んでるんだよね。
「……あ、王鮪がいなくなった」
僕たちの関心が逸れたのを察したように、王鮪が海の闇へと消えていった。ちょっと残念。
テイムできたら、モンちゃんに「いいだろー」って自慢できそうだけど……魚系モンスターのテイム方法はよくわからないな。釣り上げちゃダメだもんね。海の中で出会ったら、即バトルだろうし。
そんなことを考えている間にも、僕たちはゆっくりと下降を続け、ついに海底都市リュウグウを見られる距離まで近づいた。
「ほわぁ……想像する竜宮城のイメージにピッタリ……」
海底都市リュウグウは、西洋のアトランティスよりもやっぱり浦島太郎の竜宮城をモチーフにしてると察する景観だ。
和風の建築物が並ぶ街の奥には、一際立派な宮殿がある。あそこにお姫様とかいるのかな。
街は全体的に朱色をメインにしてて、青と黒の海に囲まれているから目立ってる。
海の中にある街なのに、当たり前のように街路樹とかがあるし……と思いながらよく見たら、木のような海草だった。普通の街中っぽいところに生えてる海草って、微妙に違和感があって面白い。
公園らしきところにあるベンチは貝殻だし、鮮やかな色のお花かと思ったものはたぶんイソギンチャクとかサンゴとかっぽい。あとで近くで観察しよう。
上から見ているだけでもワクワクする街並みだ。早く散策したいなぁ。
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