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10章 海は広くて冒険いっぱい
405.神殿の宝物
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ダーロンさんが連れてきてくれたのは、神殿の奥。天井の真ん中にある天窓からキラキラと光が降り注ぐ広間だった。
神殿とは渡り廊下で繋がっている、独立した建物になっているようだ。
天窓の真下──部屋の中央には、大理石のような石で囲まれた泉がある。
泉から溢れた水は床に刻まれている溝を伝って、壁に開いた穴から外へと流れ出ていっていた。
「ここ、どういう部屋?」
きょろきょろと観察しながら尋ねる。
白一色の空間は神聖な雰囲気が漂っていて、神殿の中でも特別な場所だと感じる。
部外者が気軽に入っちゃってよかったのかな? いくらダーロンさんっていう偉い人が一緒だからって……
「聖水堂ですよ。神殿で管理している聖水は、すべてこの泉から湧いたものです」
「え、めっちゃ重要な場所じゃん……」
聖水って神殿で配ってる(売ってる?)貴重なアイテムだよね。
浄化の効果があって、穢れとかにも効くはず。
「そうですね。ですが、モモさんの問いにお答えするには、ここに来るしかなかったので」
微笑みながら肩をすくめたダーロンさんが、泉に一歩近づいたところで、背後──廊下の方から足音が響いた。
僕が振り返るのと同時に、聞き覚えのある軽やかな声音が聞こえてくる。
「……あら、お客様がいらしていると聞いてきましたが、ダーロン様でしたか。それと、モモさんも?」
ラファイエットさんだ。
意外そうにダーロンさんに声をかけた後、僕に視線を落とし驚いた様子で目を見開く。でも、どこか納得したような雰囲気も滲んでいた。道中で僕の噂を聞いたのかな?
「こんちゃー、ラファイエットさん」
フリフリと手を振る。
この挨拶が公式になっちゃったみたいだから、もふもふ教のシンボルとしては、できる限り使うべきだよねー。ちょっとフランクな感じだけど、許してほしいな!
「こんにちは。珍しい方とご一緒なのね?」
「ですー。リュウグウの秘宝を使った呪い解除について聞いたら、ここに案内されたよ」
その理由はまだ知らぬ! これから聞く予定なので。
僕が答えている間に、ダーロンさんがニコニコと微笑みながら泉に近づいていた。
「モモさんに、ここに沈んでいるものをお教えしようと」
「……ダーロン様がそのように情報を大盤振る舞いするのは珍しいですわね?」
泉の中を指すダーロンさんを、ラファイエットさんが訝しげに見ながら近づく。
その後に続いて神殿騎士さんが入ってくると、ダーロンさんに先んじて泉の中に手を入れた。
それを見たダーロンさんは、満足そうに微笑みながら一歩後ろに下がる。
「陛下のエサをいただいたので」
「エサ……ああ、ドラゴンの話ですとか? 父はそういうお話がお好きですものね」
ラファイエットさんが少し呆れた感じで頷いた。
王様に対して『エサ』と言ったことについて文句はないらしい。なんとなく普段の王様の扱い方が窺える。
これが普通なのかー。まぁ、あの王様だしなぁ。
パーティーで会った、少年のような活力に満ちた王様を思い出して、僕も納得しちゃった。
「加えて、モモさんのこともお気に入りですから」
「えっ、そんなに好感度が高い心当たりはないんだけど?」
当然のように言われて、思わずぎょっとした。
僕、あの王様にそんなに好かれてたの? ちょっとお話しただけなんだけどなー。
首を傾げる僕を、ダーロンさんとラファイエットさんが苦笑しながら見つめていた。
「モモさんと会って、好きにならない人の方が珍しいと思うわ──それで、ダーロン様はこれをモモさんにお貸しするつもりなんですの?」
いつの間にか神殿騎士さんがティアラのようなものを持っていた。
丁寧に水を拭われたそれは、ダイヤモンドを削り出して作ったかのような煌めきで、目に痛いほど輝いてる。高そう……。
「どうでしょうね? それを持ち出すほどではないかもしれませんが……」
ダーロンさんはそう言ってから、リュウグウに残っている呪いの影響についてラファイエットさんに説明し始めた。
僕はそれが終わるのを待つ間に、ティアラを鑑定するよー。
――――――
【神雫の宝冠】
創世神がもたらしたと言われる神物
極めて高い浄化作用があり、聖水の作製に用いられている
聖なる力を集めて、浄化の光として放つことができる
――――――
おお! 神さまがくれたものなのかー。
水を聖水に変える効果があるようだし、泉に沈んでた意味がわかった。
普通に考えて、これを借りることはできないよね? 渡されたらむしろ怖いよ。
「──リュウグウの民がいまだに呪いの影響下にあるとは存じ上げませんでした……」
ダーロンさんの話を聞いたラファイエットさんが、眉を顰めながら神雫の宝冠を見下ろす。
そして、僕に視線を移すと、困った様子で微笑んだ。
「モモさんはリュウグウの秘宝を使うための術を求めてここに来たのよね?」
「うん。少なくとも、それ関係の情報をもらえたらいいなーって思って」
僕が頷くと、ラファイエットさんは「そうよね……」と迷った様子で俯く。
でも、すぐに決心した顔で顔を上げた。
「リュウグウの秘宝は、海の力の塊なのよ。それ単体では用いることができないから、かつてはこのティアラの動力源として用いたの」
「動力源? つまり、浄化の光を放つために、その力の源になったってこと?」
「ええ、そう」
神雫の宝冠が電球だとしたら、リュウグウの秘宝はそれを光らせるための電池って感じかな。
うんうん、と頷く僕に、ラファイエットさんが微笑みかける。
「──神雫の宝冠は国宝であり、この神殿から容易に出すことができないものなの。だから、効果は落ちるでしょうけれど、同じように使えるアイテムを差しあげるわね」
「えっ、いいの?」
思いがけない申し出に、目をパチパチと瞬く。
情報をもらえるだけになると思ってたんだけどな?
戸惑う僕を気にせず、ラファイエットさんは神雫の宝冠を僕の前で捧げ持つ。
「ええ。モモさん、両手を出して」
「こう?」
お椀を作るように手を出すと、そこに被せるように神雫の宝冠が載せられた。
そして、ラファイエットさんが不思議な響きの言葉で詠唱すると、不意に手のひらに微かな重みを感じる。
「──おお? なんか出てきた?」
神雫の宝冠がのけられる。手のひらには、透明感が高い金平糖のようなものが一粒載っていた。大きさは僕の握り拳くらい。
――――――
【神雫の欠片】レア度☆☆☆☆☆
神雫の宝冠から生まれた欠片
高い浄化能力を持つが、発動するためには高濃度の魔力が必要
――――――
「それをリュウグウの秘宝と使えば、ある程度の浄化をできるわ。スキルとして使う浄化よりも強力で、広い範囲に効果が出るのよ」
「すごいね!」
「そうね。でも、それを一度使うだけでは呪いの影響を無効化することは難しいでしょうから、何度も繰り返す必要があるわ」
微笑んだラファイエットさんが「神雫の欠片は一度使うとなくなってしまうから、また使う時は神殿に取りにいらしてね。職員に伝えておくわ」と言ってくれた。
なるほど、一回で呪い無効化ってわけにはいかないのか。
「友だちにも情報を教えていい? たぶんここに神雫の欠片を取りに来ると思うんだけど」
「いいわよ。そのことも周知しておくわね」
僕一人でミッションに取り組まなくてもいいっぽい。
それなら大して面倒くさくはなさそう。ルトやもふもふ教のみんなにお知らせしておこー。
神殿とは渡り廊下で繋がっている、独立した建物になっているようだ。
天窓の真下──部屋の中央には、大理石のような石で囲まれた泉がある。
泉から溢れた水は床に刻まれている溝を伝って、壁に開いた穴から外へと流れ出ていっていた。
「ここ、どういう部屋?」
きょろきょろと観察しながら尋ねる。
白一色の空間は神聖な雰囲気が漂っていて、神殿の中でも特別な場所だと感じる。
部外者が気軽に入っちゃってよかったのかな? いくらダーロンさんっていう偉い人が一緒だからって……
「聖水堂ですよ。神殿で管理している聖水は、すべてこの泉から湧いたものです」
「え、めっちゃ重要な場所じゃん……」
聖水って神殿で配ってる(売ってる?)貴重なアイテムだよね。
浄化の効果があって、穢れとかにも効くはず。
「そうですね。ですが、モモさんの問いにお答えするには、ここに来るしかなかったので」
微笑みながら肩をすくめたダーロンさんが、泉に一歩近づいたところで、背後──廊下の方から足音が響いた。
僕が振り返るのと同時に、聞き覚えのある軽やかな声音が聞こえてくる。
「……あら、お客様がいらしていると聞いてきましたが、ダーロン様でしたか。それと、モモさんも?」
ラファイエットさんだ。
意外そうにダーロンさんに声をかけた後、僕に視線を落とし驚いた様子で目を見開く。でも、どこか納得したような雰囲気も滲んでいた。道中で僕の噂を聞いたのかな?
「こんちゃー、ラファイエットさん」
フリフリと手を振る。
この挨拶が公式になっちゃったみたいだから、もふもふ教のシンボルとしては、できる限り使うべきだよねー。ちょっとフランクな感じだけど、許してほしいな!
「こんにちは。珍しい方とご一緒なのね?」
「ですー。リュウグウの秘宝を使った呪い解除について聞いたら、ここに案内されたよ」
その理由はまだ知らぬ! これから聞く予定なので。
僕が答えている間に、ダーロンさんがニコニコと微笑みながら泉に近づいていた。
「モモさんに、ここに沈んでいるものをお教えしようと」
「……ダーロン様がそのように情報を大盤振る舞いするのは珍しいですわね?」
泉の中を指すダーロンさんを、ラファイエットさんが訝しげに見ながら近づく。
その後に続いて神殿騎士さんが入ってくると、ダーロンさんに先んじて泉の中に手を入れた。
それを見たダーロンさんは、満足そうに微笑みながら一歩後ろに下がる。
「陛下のエサをいただいたので」
「エサ……ああ、ドラゴンの話ですとか? 父はそういうお話がお好きですものね」
ラファイエットさんが少し呆れた感じで頷いた。
王様に対して『エサ』と言ったことについて文句はないらしい。なんとなく普段の王様の扱い方が窺える。
これが普通なのかー。まぁ、あの王様だしなぁ。
パーティーで会った、少年のような活力に満ちた王様を思い出して、僕も納得しちゃった。
「加えて、モモさんのこともお気に入りですから」
「えっ、そんなに好感度が高い心当たりはないんだけど?」
当然のように言われて、思わずぎょっとした。
僕、あの王様にそんなに好かれてたの? ちょっとお話しただけなんだけどなー。
首を傾げる僕を、ダーロンさんとラファイエットさんが苦笑しながら見つめていた。
「モモさんと会って、好きにならない人の方が珍しいと思うわ──それで、ダーロン様はこれをモモさんにお貸しするつもりなんですの?」
いつの間にか神殿騎士さんがティアラのようなものを持っていた。
丁寧に水を拭われたそれは、ダイヤモンドを削り出して作ったかのような煌めきで、目に痛いほど輝いてる。高そう……。
「どうでしょうね? それを持ち出すほどではないかもしれませんが……」
ダーロンさんはそう言ってから、リュウグウに残っている呪いの影響についてラファイエットさんに説明し始めた。
僕はそれが終わるのを待つ間に、ティアラを鑑定するよー。
――――――
【神雫の宝冠】
創世神がもたらしたと言われる神物
極めて高い浄化作用があり、聖水の作製に用いられている
聖なる力を集めて、浄化の光として放つことができる
――――――
おお! 神さまがくれたものなのかー。
水を聖水に変える効果があるようだし、泉に沈んでた意味がわかった。
普通に考えて、これを借りることはできないよね? 渡されたらむしろ怖いよ。
「──リュウグウの民がいまだに呪いの影響下にあるとは存じ上げませんでした……」
ダーロンさんの話を聞いたラファイエットさんが、眉を顰めながら神雫の宝冠を見下ろす。
そして、僕に視線を移すと、困った様子で微笑んだ。
「モモさんはリュウグウの秘宝を使うための術を求めてここに来たのよね?」
「うん。少なくとも、それ関係の情報をもらえたらいいなーって思って」
僕が頷くと、ラファイエットさんは「そうよね……」と迷った様子で俯く。
でも、すぐに決心した顔で顔を上げた。
「リュウグウの秘宝は、海の力の塊なのよ。それ単体では用いることができないから、かつてはこのティアラの動力源として用いたの」
「動力源? つまり、浄化の光を放つために、その力の源になったってこと?」
「ええ、そう」
神雫の宝冠が電球だとしたら、リュウグウの秘宝はそれを光らせるための電池って感じかな。
うんうん、と頷く僕に、ラファイエットさんが微笑みかける。
「──神雫の宝冠は国宝であり、この神殿から容易に出すことができないものなの。だから、効果は落ちるでしょうけれど、同じように使えるアイテムを差しあげるわね」
「えっ、いいの?」
思いがけない申し出に、目をパチパチと瞬く。
情報をもらえるだけになると思ってたんだけどな?
戸惑う僕を気にせず、ラファイエットさんは神雫の宝冠を僕の前で捧げ持つ。
「ええ。モモさん、両手を出して」
「こう?」
お椀を作るように手を出すと、そこに被せるように神雫の宝冠が載せられた。
そして、ラファイエットさんが不思議な響きの言葉で詠唱すると、不意に手のひらに微かな重みを感じる。
「──おお? なんか出てきた?」
神雫の宝冠がのけられる。手のひらには、透明感が高い金平糖のようなものが一粒載っていた。大きさは僕の握り拳くらい。
――――――
【神雫の欠片】レア度☆☆☆☆☆
神雫の宝冠から生まれた欠片
高い浄化能力を持つが、発動するためには高濃度の魔力が必要
――――――
「それをリュウグウの秘宝と使えば、ある程度の浄化をできるわ。スキルとして使う浄化よりも強力で、広い範囲に効果が出るのよ」
「すごいね!」
「そうね。でも、それを一度使うだけでは呪いの影響を無効化することは難しいでしょうから、何度も繰り返す必要があるわ」
微笑んだラファイエットさんが「神雫の欠片は一度使うとなくなってしまうから、また使う時は神殿に取りにいらしてね。職員に伝えておくわ」と言ってくれた。
なるほど、一回で呪い無効化ってわけにはいかないのか。
「友だちにも情報を教えていい? たぶんここに神雫の欠片を取りに来ると思うんだけど」
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