ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

文字の大きさ
27 / 202
1-3.もふもふダンジョンの作り方〈公開前3日目〉

27.獣人たち大丈夫?

しおりを挟む
 俺が呆れていると、難しい表情で黙っていた女性が口を開いた。

[卵から孵った古竜エンシェントドラゴンにはどう対応するの?]

 だよな! それが一番重要なはず!
 心から共感して強く頷いていたら、リルとエンドに不思議そうに見つめられた。この二体は古竜エンシェントドラゴンの影響力の強さをいまいち理解してない。

 古竜エンシェントドラゴンって災害級の魔物なんだぞ? 人里を襲えば、壊滅させること間違いなしなんだぞ? 国ごと滅びてもおかしくないんだぞ?

 ……さすがに、獣人たちはこの恐ろしさを理解してるよな?
 そこはかとない不安を感じるのはなぜだろう。

 モニターの方を確認する。
 獣人の男たちは顔を見合わせて困った顔をしていた。

[そう言われてもなぁ。ここにいないなら、俺たちじゃどうしようもないし]
[というか、ここにいたとしても逃げるしかねぇし]
[いなくて良かったじゃん]

 頷き合っている男たちはあまりにお気楽だ。
 女性も俺と同じことを思っているのか、呆れた表情をしてる。
 めちゃくちゃこの女性に同情しちゃうよ。

[バカね。私たちがきちんと報告をしなかったら、どこかの街が警戒することもできずに襲われるかもしれないでしょ。どこに行ったかわからないのよ? 報告をして、国を挙げて探すべきよ]

 正論だ。それなのに男たちは納得してなさそうな顔をしてる。

古竜エンシェントドラゴンに警戒とか、意味なくないか?]
[報告したところで、国が動いてくれるとは思えないなぁ。俺らが責任取らされる可能性すらあるぜ? 超理不尽]
[ここの監視任務だって、形骸化してただろ。どっかが襲われたら最後、諦めるしかない]
[そもそも、どこかの街が古竜エンシェントドラゴンに襲われたからって、その個体がここにあった卵から生まれたなんて証明できないし]

 彼らの言い分には一理ある。
 古竜エンシェントドラゴンとは、この世界において抗いようのない脅威であり、災厄だ。人間の対策なんて意味ない。
 まぁ、たまたま勇者が遭遇したら、討伐できるのかもしれないけど。

[でも、古竜エンシェントドラゴン被害が生じたら、必ずここに確認しに来るでしょ。虚偽報告がバレたら私たち全員が咎められるよ?]
[報告なんて一年に一回程度なんだし、そんな状況が来てから報告すればいいだろ]

 女性が口を閉ざした。表情が『確かに』と言ってるように見える。ズルに負けるな!

[……そうね]

 負けちゃった。古竜エンシェントドラゴンの情報が隠されることが決定したようだ。

 いや、俺はそれでいいんだけどさ。警戒されたら、ダンジョンにも影響あるかもしれないし。

 今後この山で魔物狩りをしても、古竜エンシェントドラゴンのせいってことで見逃してもらえるかもしれないな。
 多少警戒はされても、見に来ることはないだろう。獣人だって、古竜エンシェントドラゴンと戦いたくはないはず。

『んー……この山の中なら、自由に行動しても良さそう? マスターは人間と敵対したくないんだもんね?』
「そうだな。麓まで近づかなきゃ大丈夫かも」

 リルに答えたら、目が輝いた。エンドも嬉しそうに羽ばたいている。……やり過ぎる気がして不安だ。

『狩り、楽しみだな~』
『狩りの仕方、教えるね』
『うん? わかった。よろしく!』

 たぶんエンドは生まれながらに戦い方を知ってると思う。リルだってそうだったし。でも、きちんとリルを上位者として尊重して頷くところが大人だ。

『マスター、どうする? 彼らを消した方がいいかしら?』

 不意にアリーの声が聞こえた。すごく物騒なこと言ってる。

「いや、消すな。俺たちに不干渉な感じで不利益はないし。むしろ、きちんと卵のことを街に報告してもらって、この場と距離を置いてくれる方がありがたい」
『あら、そうなのね。わかったわ』

 頷いたアリーが飛んで移動する。獣人たちも帰るようだ。いつ古竜エンシェントドラゴンが襲ってくるかわからないんだから、山にいるのは怖いもんな。

『マスター、狩りに行ってくるね! 良いDP探してくるよ』
「えっ」

 パッと振り返った時にはリルの姿がなかった。エンドがきょとんとしてる。

『えっと……ボクも行ってきていい?』
「待て。つーか、リルも今はダメなんだけど……」

 慌ててダンジョンゲートに向かうと、すでにリルの姿は外にあった。

「あー……神狼フェンリルを目撃されたら、それはそれで騒ぎになるだろ……」

 額を押さえて俯く。
 古竜エンシェントドラゴンと比べたら、あまり脅威扱いされないとはいえ、神狼フェンリルも十分に恐れられる魔物なはずなのに。

『リルくんの気配がこっちにあるんだけれど?』
「……うん、今、そっちに狩りに行った」
『そうなの。合流した方がいいかしら?』
「頼んだ。リルが暴れて、獣人たちに見つかることがないようにしてくれ」

 アリーには荷が重いかもしれないけど、とりあえず頼んでみる。アリーがクスクスと微笑む音が聞こえた。

『できる限りがんばってみるわ——あら?』
「……何があった?」

 問いかけに答えが返るより先に、リルを目指して飛んでいたアリーの視界に驚きの光景が映った。

 リルがいる。その足元には巨大な猪のような魔物が倒れていた。早速魔物を倒していたのか。

 まぁ、それだけなら大して驚くことではなかったんだけど……

「——なんっで、リルの周りで獣人がひざまずいてんの!?」

 先ほど古竜エンシェントドラゴンの卵跡地で見た狼族獣人たちが、リルの前で両膝を地面につけ、頭を低く下げていた。まるで神に平伏ひれふすように。

 いったい、この短時間で何があったんだ……?

しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

妹が嫁げば終わり、、、なんてことはありませんでした。

頭フェアリータイプ
ファンタジー
物語が終わってハッピーエンド、なんてことはない。その後も人生は続いていく。 結婚エピソード追加しました。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...