ある辺境伯の後悔

だましだまし

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そして 1

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冬の冷え込みに備え、ラメノ領地の屋敷の二階廊下には絨毯が敷き詰められているがそれでも今日はよく冷える。
使用人に蜂蜜がたっぷり入った温かいミルクで満たされたポットを持たせて私は父の部屋を訪ねた。

「セドリック、わざわざ顔を見に来てくれたのか」
「おぉ、ラメノ侯爵様、失礼しております」
破顔する父のベッドの傍らにはレノがいる。
今日はボードゲームで遊んでいたらしい。

「もう、父上もレノも…今日は冷えるのですから程々にして早めに休んでくださいよ」
「「分かっておる」ります」

声が揃ったことに笑う様は実に楽しそうだ。
私は先程届いた報告書の封筒を父上に渡す。
内容書きを見て仲良くそれぞれ拡大鏡を使い、蜂蜜ミルクを飲みながら順番に報告書に目を通す二人を眺めながらレノが来た頃を思い出した。


「レイナーラ領から参りましたレノと申します。執事と領主代行をになっておりました」

職替えをするには年をとっているな、それがレノの第一印象だった。
あまりにも父と打ち解け仲が良かったのが逆に怪しく見え、身辺調査にかけたのは今でも二人には秘密だ。

レノはサンサーラ伯爵家の三男だった。
一番上の兄に持病があり二番目の兄が実質の後継ぎとして育てられ、レノは他家の次男がそうであるように万が一の備えとして、また次兄の補佐として領地経営について若い頃から学んでいたらしい
そうしていつでも領主にも、補佐にもなれる程の知識を得た時に新薬が開発された。
それは長兄の持病を治すもので、長兄の立場が無くなるからとレノは他家の三男同様、自身で身を立てねばならない立場へと追いやられてしまった。

王都に出て執事の職を得たが、領主経営の知識があるから代行官の補佐としてレイナーラの領地に送ったのが当時のレイナーラ辺境伯ルブランの父親だ。
その代行官が引退したにも関わらず代わりの代行官を送らなかったのがルブランあのバカ

何故ただの執事が領地経営の代行など出来ていたのかという謎も解け、また血筋の確かさも知れたので家令にレノの知識を探らせたところ、彼は舌を巻いていた。
父上はうちの領地経営に係る者たちの教育係に最適だろうと何故か自慢げだ。
レノと共にレイナーラから来た者たちも、父上の為というよりレノを慕って来てくれたように思える。
はじめは、孫が可愛くとも使用人まで引き受けるとは父はこんなにお人好しだったか?と呆れもしたが彼らはとてもよく働いてくれ、有能な人材だと認めざるを得なかった。
今ではそれぞれ後継を育てる立場として王都の邸で活躍してくれている。


「この実情を…シャロットは知っているのか?」
報告書を読み終えた父が気にかけたのはやはり彼女の事だった。
「いいえ…亡くなったことしか知らないと思います。明日か明後日にはこちらに到着する予定なのですから近況を聞かれては?」
私が馬車に丸一日揺られて領地に帰ってきたのは妹に似た可愛い姪に会うためでもある。

レノは何とも言えない表情でまだ報告書の1つを眺めていた。


報告書は2点。
旧レイナーラ領について、そしてルブラン・レイナーラについて、だ。

私が侯爵位を継いで少しした頃、レイナーラ領の一部が売りに出されると耳にした。
父がレノにどの様な土地なのか聞くと、貧しい者が多く治安が悪い小さな町と同じく貧しい村がある地域らしい。
また、現地でその周辺を治めている者の癖が強く管理が難しいから手放したのだろうと話した。
「しかし私は馴染みもありますし管理もしてきました。ご購入をお勧めします」
土地そのものは微妙だが隣国との交易の足掛かりを作るならば立地が良い、という理由だった。

国境線の大河には国交回復後に幾つか橋が架けられた。
この地域は、その橋の1つがある上に畑にするには痩せた土地だがずっと平坦で道を整備しやすく商業を始めやすいというのだ。
雇用が増え貧しさから抜ければ治安回復も期待出来るだろうと。
そしてレイナーラ領の中でもラメノ侯爵領寄りなのでシャロットに会いに行っていた邸よりは半日ほど早く着けるらしい。

飛び地になるが私には息子ばかり4人いる。
いずれ誰かを独立させて継がせても良いかと購入したところレノの話した通り治安改善は簡単に進み、同じく売りに出された周辺を買い足した結果、今や交易の中継都市と言えるほど発展した。
他家が購入した旧レイナーラ領についても報告書には書いてあるがうちの発展が群を抜いていた。

ちなみに現レイナーラ領主ロベルト・レイナーラは爵位を継いですぐにレノ宛の手紙を寄越し、アドバイスを乞うてきた。
結果領地経営を安定したものにしている。
淡々とした考えの読みにくい男だが柔軟な思考をしているらしい。
元の田舎の良さを生かし、商業都市からほど近い場所にある喧騒を忘れられる観光地として密かな人気がある。


「昔から…ずっと進言していたのですがね…」

購入した地の発展を喜びながらもそう寂しそうに話すレノと、今何も言わず読み終わった報告書を見つめているレノがなんだか重なって見えた。
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