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そして 2
レノが見つめる報告書、それはルブラン・レイナーラについて纏められたものだった。
ルブラン・レイナーラ。
彼は元 辺境伯であったにも関わらず王都にこだわり、王都で暮らし続けた。
惨めになろうとも、最後まで。
長女を亡くしたあと、ますます次女との交流に固執していたという。
しかし一度も会う約束を取り付けられなかった。
何度か押し掛けたようだがヘンドリー侯爵家が全力で守ってくれたようだ。
また旦那と他国へ行って不在も多かった。
ただ、あまりにしつこく遂にヘンドリー領への出禁を言い渡されたらしい。
ヘンドリー領は他国な上、こちらの国の王家を通されてしまったので従わざるを得なくなりシャロットの帰国を知るためだけに間者を放ったというから驚きだ。
そんな身勝手が出来なくなるからか、彼は爵位をいつまでも息子に譲ろうとしなかった。
しかし領主代行職のゼブス・バランという男が王都に戻った時、王家へレイナーラ家の実状を訴えたらしい。
結果、王命によりやっと次代へと爵位が移った。
伯爵で無くなった父をロベルトは何度も領地へと呼んだようだがルブランがレイナーラ領へ戻ることは無かった。
あんなに固執していた妻の墓参りの為にさえ。
ロベルトは私から見ても情の薄い、淡々とした男だ。
爵位を継いだ彼は父の身の回りの世話をする人間を一人しか残さなかった。
住まいも王都のタウンハウスを引き払い平民の多くが暮らすような所へ移させ、生活費は必要最低限。
嫌なら馬車で移動出来るうちに領地へ戻れ、とは報告書に書かれるほど伝えていたようだ。
金の無駄だから、と。
報告書には残した使用人は貴族として周囲に迷惑をかけないようにする監視も兼ねていたとある。
近所に住む平民たちを使用人の代わりにしようとした事があったらしい。
…貴族としての矜持すら無いとは…どこまでも最低な男だ。
そんな不便で屈辱もあるであろう生活なのに帰らない言い訳はいつも一緒。
「都落ちなど、して堪るものか」
都落ちも何も、そもそも辺境伯だったルブラン・レイナーラが王都を拠点にしている事がおかしいのだが、あの男はそれが自慢だったらしい。
確かに平和な時代だし社交シーズンに辺境伯が王都でゆっくり暮らしていても誰も異論など唱えない。
しかし年中王都にいるルブランは奇異の目で見られていたのだが…奴は羨望の眼差しとでも思っていたのだろうか?
私には理解出来ない。
そうしてゴネているうちにある日転んで足を骨折したらしい。
怪我をしたルブランを息子は安価な療養施設へと放り込んだ。
最低限な衣食住は保証されている施設だがそれだけ。
怪我を理由にベッドの住人となり文句ばかり垂れていたというルブランは、私より若いというのにやがて寝たきりなったそうだ。
そして、その先は孤独と床ずれに苦しむ日々。
先日風邪をこじらせ呆気なく死んだという。
報告書を読んで驚いたのがその先だった。
なんと葬儀どころか既に埋葬済みだとあるではないか!
報告の遅さに苛立ったが、続きを読むとそうではなかった。
死んだと知らせを受けたロベルトは早馬で遣いをやり、その者にそのまま王都の墓地への埋葬手続きをさせたというのだ。
一応本人も立ち会いの為に王都へは出て行ったらしいが葬儀をしなくてよいのか、領地へ連れ帰らなくて良いのかと戸惑う教会関係者に
「お姉様の葬儀みたいに泣いてくれる人が浮かばなかったんですよねぇ…。だから葬儀はいらないんじゃないですかね?」
「大好きな王都で眠らせてあげる僕は孝行息子だと思いませんか?」
と返してたらしい…。
特に親への恨み言も、悲しみも見せず、淡々と。
棺に花は無く、代わりに1つの宝石箱が納められたそうだ。
中身はロベルトからレノを通じて父に渡され、ラメノ侯爵家の墓がある地に既に埋葬されている。
セディナの遺髪の入っていない宝石箱など、さすがのルブランも喜ばないと思うのだが…ロベルトの思考もよく分からない。
「昔この箱をよく撫でてたから入れておいてあげて」
と、言っていたらしい。
「…大丈夫か?」
いつまでも寂しそうな視線を報告書に落とすレノに父が声をかける。
レノにとってルブランは長年仕えていたかつての主だ。
思うことも沢山あるのだろう。
「…色々考えても仕方ないのですが…まぁ、私が幸せだから哀れに思えるのでしょう」
フッと淋しげな笑顔をした後、いつもの飄々とした笑顔に戻った。
「私もレノのお陰で楽しい老後を過ごせているよ」
もう、殆ど歩けない父上。
食がとても細くなっていて、いつお迎えが来てもおかしくはない。
しかしそれはレノも一緒だ。
それでも杖をついて、時には車椅子を押してもらって父の部屋へ遊びにきているらしい。
ボードゲームやカードゲームをしてばかりいる日々のはずなのに、領地の事や王都の情勢を今だよく理解していて困った時は助言をくれる。
主従関係であり友人関係のこの二人を私は時々羨ましく思う。
もちろん私にも親友はいるし信頼出来る部下もいる。
しかし、ここまで長く共に過ごせる友人になり得るかと言われれば…難しいだろう。
「とにかく、二人とも年なんですから休み休みにしてくださいよ!シャロットが訪ねてくるとき体調を崩したらどうするんです」
怒られた子供のような顔で「一旦休むか」としょぼくれる爺さん二人。
どうか二人とも、長生きを。
そう思いながら部屋を出た私は、シャロットを出迎えるための準備を使用人たちに指示するのだった。
ルブラン・レイナーラ。
彼は元 辺境伯であったにも関わらず王都にこだわり、王都で暮らし続けた。
惨めになろうとも、最後まで。
長女を亡くしたあと、ますます次女との交流に固執していたという。
しかし一度も会う約束を取り付けられなかった。
何度か押し掛けたようだがヘンドリー侯爵家が全力で守ってくれたようだ。
また旦那と他国へ行って不在も多かった。
ただ、あまりにしつこく遂にヘンドリー領への出禁を言い渡されたらしい。
ヘンドリー領は他国な上、こちらの国の王家を通されてしまったので従わざるを得なくなりシャロットの帰国を知るためだけに間者を放ったというから驚きだ。
そんな身勝手が出来なくなるからか、彼は爵位をいつまでも息子に譲ろうとしなかった。
しかし領主代行職のゼブス・バランという男が王都に戻った時、王家へレイナーラ家の実状を訴えたらしい。
結果、王命によりやっと次代へと爵位が移った。
伯爵で無くなった父をロベルトは何度も領地へと呼んだようだがルブランがレイナーラ領へ戻ることは無かった。
あんなに固執していた妻の墓参りの為にさえ。
ロベルトは私から見ても情の薄い、淡々とした男だ。
爵位を継いだ彼は父の身の回りの世話をする人間を一人しか残さなかった。
住まいも王都のタウンハウスを引き払い平民の多くが暮らすような所へ移させ、生活費は必要最低限。
嫌なら馬車で移動出来るうちに領地へ戻れ、とは報告書に書かれるほど伝えていたようだ。
金の無駄だから、と。
報告書には残した使用人は貴族として周囲に迷惑をかけないようにする監視も兼ねていたとある。
近所に住む平民たちを使用人の代わりにしようとした事があったらしい。
…貴族としての矜持すら無いとは…どこまでも最低な男だ。
そんな不便で屈辱もあるであろう生活なのに帰らない言い訳はいつも一緒。
「都落ちなど、して堪るものか」
都落ちも何も、そもそも辺境伯だったルブラン・レイナーラが王都を拠点にしている事がおかしいのだが、あの男はそれが自慢だったらしい。
確かに平和な時代だし社交シーズンに辺境伯が王都でゆっくり暮らしていても誰も異論など唱えない。
しかし年中王都にいるルブランは奇異の目で見られていたのだが…奴は羨望の眼差しとでも思っていたのだろうか?
私には理解出来ない。
そうしてゴネているうちにある日転んで足を骨折したらしい。
怪我をしたルブランを息子は安価な療養施設へと放り込んだ。
最低限な衣食住は保証されている施設だがそれだけ。
怪我を理由にベッドの住人となり文句ばかり垂れていたというルブランは、私より若いというのにやがて寝たきりなったそうだ。
そして、その先は孤独と床ずれに苦しむ日々。
先日風邪をこじらせ呆気なく死んだという。
報告書を読んで驚いたのがその先だった。
なんと葬儀どころか既に埋葬済みだとあるではないか!
報告の遅さに苛立ったが、続きを読むとそうではなかった。
死んだと知らせを受けたロベルトは早馬で遣いをやり、その者にそのまま王都の墓地への埋葬手続きをさせたというのだ。
一応本人も立ち会いの為に王都へは出て行ったらしいが葬儀をしなくてよいのか、領地へ連れ帰らなくて良いのかと戸惑う教会関係者に
「お姉様の葬儀みたいに泣いてくれる人が浮かばなかったんですよねぇ…。だから葬儀はいらないんじゃないですかね?」
「大好きな王都で眠らせてあげる僕は孝行息子だと思いませんか?」
と返してたらしい…。
特に親への恨み言も、悲しみも見せず、淡々と。
棺に花は無く、代わりに1つの宝石箱が納められたそうだ。
中身はロベルトからレノを通じて父に渡され、ラメノ侯爵家の墓がある地に既に埋葬されている。
セディナの遺髪の入っていない宝石箱など、さすがのルブランも喜ばないと思うのだが…ロベルトの思考もよく分からない。
「昔この箱をよく撫でてたから入れておいてあげて」
と、言っていたらしい。
「…大丈夫か?」
いつまでも寂しそうな視線を報告書に落とすレノに父が声をかける。
レノにとってルブランは長年仕えていたかつての主だ。
思うことも沢山あるのだろう。
「…色々考えても仕方ないのですが…まぁ、私が幸せだから哀れに思えるのでしょう」
フッと淋しげな笑顔をした後、いつもの飄々とした笑顔に戻った。
「私もレノのお陰で楽しい老後を過ごせているよ」
もう、殆ど歩けない父上。
食がとても細くなっていて、いつお迎えが来てもおかしくはない。
しかしそれはレノも一緒だ。
それでも杖をついて、時には車椅子を押してもらって父の部屋へ遊びにきているらしい。
ボードゲームやカードゲームをしてばかりいる日々のはずなのに、領地の事や王都の情勢を今だよく理解していて困った時は助言をくれる。
主従関係であり友人関係のこの二人を私は時々羨ましく思う。
もちろん私にも親友はいるし信頼出来る部下もいる。
しかし、ここまで長く共に過ごせる友人になり得るかと言われれば…難しいだろう。
「とにかく、二人とも年なんですから休み休みにしてくださいよ!シャロットが訪ねてくるとき体調を崩したらどうするんです」
怒られた子供のような顔で「一旦休むか」としょぼくれる爺さん二人。
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そう思いながら部屋を出た私は、シャロットを出迎えるための準備を使用人たちに指示するのだった。
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