ある辺境伯の後悔

だましだまし

文字の大きさ
19 / 20

そして 2

レノが見つめる報告書、それはルブラン・レイナーラについて纏められたものだった。


ルブラン・レイナーラ。

彼は元 辺境伯であったにも関わらず王都にこだわり、王都で暮らし続けた。
惨めになろうとも、最後まで。

長女リビアナを亡くしたあと、ますます次女シャロットとの交流に固執していたという。
しかし一度も会う約束を取り付けられなかった。
何度か押し掛けたようだがヘンドリー侯爵家が全力で守ってくれたようだ。
また旦那サルヴィーノ殿と他国へ行って不在も多かった。
ただ、あまりにしつこく遂にヘンドリー領への出禁を言い渡されたらしい。
ヘンドリー領は他国な上、こちらの国の王家を通されてしまったので従わざるを得なくなりシャロットの帰国を知るためだけに間者を放ったというから驚きだ。

そんな身勝手が出来なくなるからか、彼は爵位をいつまでも息子に譲ろうとしなかった。
しかし領主代行職のゼブス・バランという男が王都に戻った時、王家へレイナーラ家の実状を訴えたらしい。
結果、王命によりやっと次代へと爵位が移った。
伯爵で無くなった父をロベルトは何度も領地へと呼んだようだがルブランがレイナーラ領へ戻ることは無かった。
あんなに固執していたセディナの墓参りの為にさえ。

ロベルトは私から見ても情の薄い、淡々とした男だ。
爵位を継いだ彼は父の身の回りの世話をする人間を一人しか残さなかった。
住まいも王都のタウンハウスを引き払い平民の多くが暮らすような所へ移させ、生活費は必要最低限。
嫌なら馬車で移動出来るうちに領地へ戻れ、とは報告書に書かれるほど伝えていたようだ。
金の無駄だから、と。

報告書には残した使用人は貴族として周囲に迷惑をかけないようにする監視も兼ねていたとある。
近所に住む平民たちを使用人の代わりにしようとした事があったらしい。
…貴族としての矜持すら無いとは…どこまでも最低な男だ。

そんな不便で屈辱もあるであろう生活なのに帰らない言い訳はいつも一緒。

「都落ちなど、して堪るものか」

都落ちも何も、そもそも辺境伯だったルブラン・レイナーラが王都を拠点にしている事がおかしいのだが、あの男はそれが自慢だったらしい。
確かに平和な時代だし社交シーズンに辺境伯が王都でゆっくり暮らしていても誰も異論など唱えない。
しかし年中王都にいるルブランは奇異の目で見られていたのだが…奴は羨望の眼差しとでも思っていたのだろうか?
私には理解出来ない。

そうしてゴネているうちにある日転んで足を骨折したらしい。
怪我をしたルブランを息子ロベルトは安価な療養施設へと放り込んだ。
最低限な衣食住は保証されている施設だがそれだけ。
怪我を理由にベッドの住人となり文句ばかり垂れていたというルブランは、私より若いというのにやがて寝たきりなったそうだ。
そして、その先は孤独と床ずれに苦しむ日々。
先日風邪をこじらせ呆気なく死んだという。

報告書を読んで驚いたのがその先だった。
なんと葬儀どころか既に埋葬済みだとあるではないか!

報告の遅さに苛立ったが、続きを読むとそうではなかった。
死んだと知らせを受けたロベルトは早馬で遣いをやり、その者にそのまま王都の墓地への埋葬手続きをさせたというのだ。
一応本人も立ち会いの為に王都へは出て行ったらしいが葬儀をしなくてよいのか、領地へ連れ帰らなくて良いのかと戸惑う教会関係者に
「お姉様の葬儀みたいに泣いてくれる人が浮かばなかったんですよねぇ…。だから葬儀はいらないんじゃないですかね?」
「大好きな王都で眠らせてあげる僕は孝行息子だと思いませんか?」
と返してたらしい…。
特に親への恨み言も、悲しみも見せず、淡々と。

棺に花は無く、代わりに1つの宝石箱が納められたそうだ。
中身はロベルトからレノを通じて父に渡され、ラメノ侯爵家の墓がある地に既に埋葬されている。
セディナの遺髪の入っていない宝石箱など、さすがのルブランも喜ばないと思うのだが…ロベルトの思考もよく分からない。
「昔この箱をよく撫でてたから入れておいてあげて」
と、言っていたらしい。


「…大丈夫か?」
いつまでも寂しそうな視線を報告書に落とすレノに父が声をかける。
レノにとってルブランは長年仕えていたかつての主だ。
思うことも沢山あるのだろう。
「…色々考えても仕方ないのですが…まぁ、私が幸せだから哀れに思えるのでしょう」
フッと淋しげな笑顔をした後、いつもの飄々とした笑顔に戻った。
「私もレノのお陰で楽しい老後を過ごせているよ」
もう、殆ど歩けない父上。
食がとても細くなっていて、いつお迎えが来てもおかしくはない。
しかしそれはレノも一緒だ。
それでも杖をついて、時には車椅子を押してもらって父の部屋へ遊びにきているらしい。
ボードゲームやカードゲームをしてばかりいる日々のはずなのに、領地の事や王都の情勢を今だよく理解していて困った時は助言をくれる。

主従関係であり友人関係のこの二人を私は時々羨ましく思う。
もちろん私にも親友はいるし信頼出来る部下もいる。
しかし、ここまで長く共に過ごせる友人になり得るかと言われれば…難しいだろう。

「とにかく、二人とも年なんですから休み休みにしてくださいよ!シャロットが訪ねてくるとき体調を崩したらどうするんです」
怒られた子供のような顔で「一旦休むか」としょぼくれる爺さん二人。


どうか二人とも、長生きを。
そう思いながら部屋を出た私は、シャロットを出迎えるための準備を使用人たちに指示するのだった。
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のラリアは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするが、非力なラリアには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。 【感謝】 第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。 ありがとうございます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪