無気力聖女は永眠したい

だましだまし

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今世の出会い

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近くで見るとレバンスはぐったりとしていた。

「あの、具合が悪そうですが大丈夫ですか?」

荷馬車の陰に隠れるように休んでいたレバンスはギョッとしたようにこちらを見上げる。

「いやー、ちょっと馬車酔いしただけで元気ですよっ」
元気を装っている。
行商人は危険と隣り合わせ。
当然の反応だろう。

魔物症は症状に波がある。
今、まさに辛い状態のタイミングだったに違いない。

「失礼します」

問答無用で治癒の、破邪の魔法をかけた。

とっさに避けれない位には弱っていたらしい。
何かを覚悟するような顔でグッと耐えるように魔法を受ける。
そして、バッとこちらを見た。

「あんた…一体…。で、幾ら取るつもりだ?」
明らかに顔色は良くなったが物凄く警戒された。

「旅を始めようとしている治癒士なんです。お代は…じゃあ大銀貨5枚ほどください」

大銀貨5枚というのは旅人向け宿の平均的な一泊食事付き分の代金だ。
お金を貰うつもりは無かったがくれるというなら貰いたい。

「!? 大銀貨5枚!? …あの、『始めようとしている』?」
レバンスは何かに驚いたようだった。
高かっただろうかと内心ドキドキしながら答える。
それでも躊躇う素振り無く大銀貨を渡してくれた。

「初めて一人で街を出たから旅はこれからで…私、逃げ出した貴族なんです」

前回はゆっくり明かしていった話しをギュッと凝縮して話す。
どう明かしていったかもう覚えていないが伝えたということは覚えていた。

しかしレバンスにとっては初対面のいきなり声をかけてきた女が、いきなり身の内を明かしたのだから驚いて当然だろう。
「あんた…!そんな事を気軽に話しちゃ危ないぞ!?俺が悪い奴ならどうすんだよ!」

大いに慌てている。
そして落ち着くと共に何か考えが浮かんだらしい。

「いや……えっと、良かったら目的地まで護衛させてくれないか!?いや、くれませんか?俺はレバンスといいます。あなたは俺の病気を楽にしてくれました!治ったのかもしれないとさえ思える。実は魔物症だったんです。なので恩返しさせて欲しい」

立ち上がり深々と頭を下げてくる。

正直少し面倒くさい。
しかし一人で徒歩より荷馬車の御者台に乗せて貰っての旅の方がうんと楽に決まってる。
迷っているとレバンスは言葉を続けた。

「それで、また調子が悪くなったら大銀貨5枚で浄化を頼みたい」

魔物症は何度も治癒浄化魔法をかけて少しづつ治る病だ。
まさか一回で治癒できる破邪を使われたと思ってもいないからこその提案だろう。
実はもう彼の魔物症は治っているがこちらとしても世話になるだけより良い。

「じゃあ…お願いします。ナーシャです」
「ありがとう!ナーシャ様!ではすぐにでも出発しましょう!」

しかしここは街の出入り口。
街に入ったあとなら宿で休むだろう。
この街に用事は無いのだろうか。

「この街には浄化の力が強い治癒士がいるっていうから来たんです。商売の目的は隣の街。あなたに浄化して貰えたからもう用はありません。ここの出口から外に出たのなら、あなたの目的地も隣の街ですよね?」

それで前回より具合が悪そうだったのかと合点がいく。
前回は治癒して貰った後だったのだろう。


「んー…私の目的地はラノの村なんです」

前回修道女になった村だ。
隣町じゃ見つかる可能性が無いとは言えない。
あと、正直新しい場所で新しい人生頑張るやる気も気力もない。
目的は前回同様のスローライフだ。

「ラノ!?広いだけで田舎の何も無い村ですよ!?そこそこ遠い場所ですが…よくご存じですねぇ」
「あー…治癒士がいない、とか…?あの…途中まででも大丈夫です…」

たしかにそれなりに旅した先にあった村だ。
遠かろう…一気に面倒臭くなる。
が、他に選択肢を考え行動するのもしんどい。
こちとら永眠し損ねたのだ。
何もしたくないのが本音だ。

…よし、別れたところの近くの適当な村で治癒士になろう。
そう考えを巡っているうちにレバンスは別のことを考えていた。

「ラノか…。そりゃ…治癒士がいなくても不思議ではない田舎ですが…。時間がかかってよければ行商の最終目的地は辺境ルーベンなんで通り道です。最後まで送りますよ」

可能なら前回のように御者台で揺られながらラノ村に行きたい。
行商の手伝いは楽しかったような気がする。
思い出補正である可能性はあるけど若かりし頃の美しい思い出だ。

「では…手伝いしますので連れてってください。あと敬語はいらないので気楽な言葉で話して下さい。それからお互い呼び捨てを希望します」


こうして無事(?)前回同様レバンスにラノの村まで連れて行ってもらえる事となった。
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