無気力聖女は永眠したい

だましだまし

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聖女の力

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隣町では暇だった。
着き次第宿を取り、その部屋で荷物番を任されたのだ。
荷物は隣のレバンスの部屋。
ナーシャが番をするのは隣のナーシャの部屋である。
正直居ても居なくても関係ない。

そういえば前回も度々宿で留守番をしていた気がする。


街頭で売るものの整理をしたり仕入れたものを売りやすいよう小分けにしたりしていたが、あれは振り返れば留守番だ。
大きい街に着くとレバンスは必ずそういう仕事をナーシャに任せて一人で何処かへ行っていた。
どんな用事か聞いたことがあったのか、聞いて忘れてしまっただけなのか…まったく思い出せない。

暇をしているから気になってしまっているだけだとは思うが一度気になると頭から離れないものだ。
待ち遠しく感じる。

そう思いゴロリと横になっているうちにウトウトとしていたのだろう。
扉をノックする音で目が覚めた。


「ナーシャ、いる?」
「! 待ってたよ」

飛び起きて扉を開ける。

「ひとつ、仕事を頼まれてくれないか?」

前回には無かった展開だ。
何処に言っていたか聞く前に言われてしまった。

「俺の知り合いなんだが、そいつも魔物症なんだ。出来たら俺と同額でナーシャの治癒魔法を頼まれてくれないか?」

了承すると宿の一階にある食堂に既にいるとのことなので降りていく。
すると護衛らしい騎士三人に囲まれた中年の厳つい男性が具合悪そうに座っていた。

「知り合いの騎士の人なんだけどかなり重くてそこらの浄化治癒魔法じゃほとんど効かないらしいんだ。」

レバンスがそう紹介すると護衛らしい一人が口を開いた。

「ここの隣町の浄化治癒魔法士が優秀と聞いて藁にも縋る思いでここまで来たんです。でもレバンスさ…んが優秀な治癒魔法士と共に旅することになったと聞きましてお願いしに立ち寄りました」

なるほど。
前回はこの街に来た時点でまだレバンスの魔物症を治癒できていたと分かっていない。
私が治癒魔法を使えると知っていた程度の関係だったからこの人たちに私を紹介する事は無かったのだろう。

「いいですよ。治しちゃいますね」

サクッと魔法をかけると見る見る男性の顔色は良くなった。

「…!本当に治ったかのようだ。いや、治ったのか!?」

魔物症の症状は全身の怠さ、息苦しさ、軋むような痛みだというが全員に分かりやすく痣などがあるわけではない。
そして症状には波がある。
治ったと即座に思えないのも無理はない。

「やだな隊長ってば。一回で治せるのは聖女とか聖者って呼ばれる特別な人間ですよ?」
護衛の一人がアハハと笑ってそう言ったので一緒に笑っておく。

「楽になられて良かったです。念のため症状が出る前に重ねてまたかけて貰って下さいね。治るかもしれませんから」

前回は自分が聖女の素質があるだなんて知らなかった。
今回も知らないまま過ごせる環境を貫きたい。
聖女として騒がれるなんてごめんだ。

しかし喜ぶ彼らを見てふとあの軽い神様の言っていたことが頭を過る。

『本当のすごい聖女は君の子孫なんだー。だから血を残して――』

今、魔物症をすぐ治せる力を持つ人は他国にしかいない。
聖女・聖者という存在はとても珍しく貴重だからだ。
しかも私は魔を押さえているとか言われてしまった。

子を…残すべきなのだろうか…。

前回と違う生き方をすることになる。
子供を作るには誰かと結婚しなくてはならない。
誰かと結婚したらそういうことをして子作りになるわけで…。



ここまで考えて頭の中はただ一つ。

うわっ、めんどう。

この一つで占められた。
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