無気力聖女は永眠したい

だましだまし

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同行のきっかけ

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馬車を止めて木陰で休んでいる人は何人かいた。

それでも目を引かれたのは不思議な縁を感じる。


前回、彼にはとても世話になった。
求婚も決して無理強いはしなかった。

今回は知り合わないと思うと少し寂しさすら感じてくる。
そう思いつつ前を通り過ぎようとして気付いた。

顔色が悪い。

そして、思い出す。


前回ー…

ナーシャは無理やり男たちに連れて行かれそうになっていた。
「ちょっとオレたちと楽しい時間過ごすか、おうちのヒトに迎えに来てもらうよう手配するかしてもらいたいだけなんだよ」
「迎えなんて無理よっ!離して下さい!」

「憲兵さん!こっちです!」
響き渡る声に男たちの動きが止まる。
「誰だっ!憲兵呼びやがったな!」
声は近かったが姿は見えない。
「いいから逃げろっ!」

それでも男たちはバタバタと走っていった。

声の主を視線で探しつつも呆然としているといつの間にか目の前に男性がいる。
「お嬢さん、大丈夫?お連れの人とかは?」

藍色の髪に爽やかな青い目をした青年だ。
返事を返せないでいると脅えているのと勘違いしたのか自己紹介をしてくれた。

「商売しながら旅してるレバンスだ。従者とはぐれたの?一人だと危ないよ」
「あの…元々一人なの…。一人で暮らしていきたくて…」

どうしようか困ってついそんなことを言ってしまったが何かを察したようだ。
「じゃあ俺を手伝ってくれる?家に帰りたくなれば送るよ」
おそらくだが家出少女と間違われたらしい。

そういって握手、と差し伸ばされた手を握ろうとして少し動きが止まってしまった。

手袋と服の間から見えた皮膚の色がズングリとした土色だったからだ。
驚いてつい視線がそこで止まっていることに気付いたのだろう。
袖をまくって腕を見せた。

「ごめん、見えちゃったね。貴族のお嬢さんには気持ち悪いよね。魔物に噛まれたあとなんだ。魔物症って言って浄化の魔法が使える人しか治せないんだよ。時々全身しんどくなるから仕事の手伝いを頼んだんだけど嫌だろう?帰った方が身のためだよ?」

少しおどけて私に帰るよう促してくる。

「浄化の効果もあるかは試したこと無いけど治癒なら私、出来るわ」

浄化や破邪と治癒の魔法はセットだ。
破邪は聖女にのみ現れるが浄化は治癒の魔法に含まれている事がある。
破邪のように強い力では無いが何度も重ねてかければ魔物の毒や瘴気を治癒し、魔物症も治す力がある。

「じゃあ…試してくれないかな?もし軽減されるようなら生活は保障するから」

その言葉に頷いて魔法をかけると何とたった一度で腕はキレイになり、苦しさも消えたという。

今から思えばナーシャは聖女だったらしいので破邪の魔法が発動したのだが当時は軽症だったのだと勘違いを起こした。

「軽症だと一度で治るのね。良かったわ」
「軽症…いや…でも…。いや、ありがとう!本当にありがとう!」



これがきっかけでそのまま行商の旅に同行させてもらい、治癒士がいないという村で修道女になると決めたのだ。


つまり、今レバンスは魔物症の症状に苦しんで休んでいるのだろう。
彼との思い出はいずれも美しい。
彼と結婚していたら…なんて考えたこともある。

助けたい。


そう思ったと同時に体が動き気が付けば声をかけていた。
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