【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

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3章

3ー2

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***

 四時間目が終わった足で談話室に行くと、先に来ていた北村が手前の席から手を振ってくれた。

 パンやちょっとしたお菓子、紙パックジュースの自販機が並ぶ横の席。談話室には何組か生徒がお昼を食べているが、勉強しながら食べている人もいるので学食ほどの騒がしさはない。

「遅れてごめん。授業がちょい延びてさ」

「気にしないでください。僕も今来たところなんで」

 わざわざ席を立って叶太を迎えてくれた北村は、叶太が座るのを見届けてから再び席に座った。

「席取っといてくれてありがとな」

「僕が誘ったんですから当たり前ですよ。それより大丈夫でしたか? 他の場所がよかったとか――」

「ないない」

 叶太が顔の前で手を振ると、北村はホッとしたように「よかった」と笑顔になった。

「それより食おうぜ。オレ今日三時間目が体育でさー」

「体育って横川先生の?」

「そうそう。このクソ暑い中外で体育とか、まじ勘弁してほしいわ。おかげでめっちゃ汗かいた」

 汗でペタペタする首元をぽりぽりと掻いてから、叶太は持ってきた弁当の包みを解いた。包みを広げると、黒の二段弁当が現れる。見た瞬間違和感に気づいた。

「あれ?」

「どうしました?」

 自身の弁当の蓋を開けていた北村が、叶太の声に反応して顔を上げた。

「箸忘れた」

 朝、弁当と一緒に入れたと思ったが、入れ忘れていたらしい。いつも包みを開けたらすぐ目に飛び込んでくる箸が、今日はなかった。

「箸ですか。購買部で割り箸買ってきましょうか?」

「いくらだっけ」

「弁当ナシなら二十円で買えます」

「北村、今財布持ってる?」

「いえ。でも教室にはあるんで、僕取ってきますよ」

「いや、今持ってないならわざわざいいよ」

 自分の方が先輩とはいえ、ミスを後輩に尻拭いさせるのはダサいと思った。

「オレちょっと教室に財布取りに行ってくるわ」

 そう言って立ち上がった、そのときだ。

 叶太の横目に、購買部から背の高い男が出てくるのが見えた。友達に囲まれていても、頭一つ分でかいので目立つ。青だった。

 青は友達二人と談話室に移動すると、購買部から最も近いテーブルに座った。購買部で買ったものだろう。手に持っている持ち帰り弁当と割り箸を、テーブルの上に置く。

 弁当の上の割り箸。

 今まさに求めているものを目の当たりにし、叶太はいいことを思いついた。

「すぐ戻ってくる」

 北村に言い残し、叶太は数メートル先にいる青のグループに歩み寄った。

「よう、何買ったん?」

 青の後ろから声をかける。青はビクッと肩を弾ませ、後ろに立つ叶太へと振り返った。不意打ちに声をかけられてビックリしたようだ。叶太を認識するまでの数秒間、目が泳いでいた。

「白身フライ? オレ、購買の弁当って食ったことないけどうまいの?」

「……おまえに関係ねえだろ」

 ちょっと間を置いたら、いつもの青に戻ったみたいだ。青は手にした割り箸を割ろうとしていた。

「ちょっ、ストップ!」

「は、なに?」

 青は割り箸を割ろうとしていた手を止め、迷惑そうな横目で叶太を睨んだ。

「その割り箸さ、あとで貸してくんない?」

「は?」

「おまえが使ったあとでいいからさ。オレ、今日箸忘れちゃったの。教室に財布取りにいくの、面倒くさいんだよねー」

 提案してから、そもそも青は弁当を買っているのだから、財布も持っているんじゃないかと思い直した。青自身、これから口つけるものだ。あとで自分が使うとはいえ、間接キスみたいで気持ち悪いか。まあ、自分は気にしないけど。

 一応青の心境を察して、「それか二十円貸して」と付け足す。

 青はチッと舌打ちして、ズボンのポケットに手を入れた。相変わらず小銭をポケットに直入れしているらしい。青のことを好きな女子に、こいつが財布をもつことを面倒くさがるタイプの男だと教えたらどんな顔をするんだろう。

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