15 / 70
3章
3ー3
しおりを挟む
青はポケットから戻した手を広げた。大きな手のひらには、一円玉が二枚と五円玉が一枚、そして十円玉が一枚の計十七円が乗っていた。
「あちゃ~十円足りないわ」
「人の金見て残念がるな」
「じゃあやっぱり箸貸してもらうしかないか」
「なんでおまえは当たり前のように貸してもらえると思ってんの?」
青は呆れながらポケットに小銭を戻した。
先週喧嘩をしたというのに、自分でもだいぶ遠慮のない頼み事だと自覚している。でも昔から自分たちはこうだった。相手が違えば失礼な頼み事も、平気で頼むことができる。
喧嘩をしても、早くて一時間後、遅くても一日経てば元通りになる。今回はちょっと時間がかかっただけで。
「え~いいじゃん。おまえが食べ終わったあとでいいから」
顔の前で両手を合わせる。すると青がチラッと叶太の後ろを見た。さっきからずっとこちらを心配そうに見ている北村に気づいたらしい。あからさまに迷惑がっている表情から、複雑そうな表情へと変わる。
「北村と食ってんの?」
「これからな。でも箸がないから食えない」
そう言うと、青の前に座っていた友達二人が「あーね」と合点がいくように笑った。二人ともサッカー部だろう。二人とも日焼けして肌が浅黒い。それに以前、叶太と同じクラスのサッカー部主将と、三年の教室の前で話しているところを見たことがある。
「なになに?」
叶太が友達二人に反応の理由を尋ねると、ワックスをつけた髪型がチャラめな方が答えた。
「オレらいつも北やんと昼メシ食ってるんすよ。でもあいつ、今日は急に別々で~とか言ってきて」
付け足すように、筋肉質な方が続きを答える。
「北村がそんなこと言ってくるの初めてだったから、彼氏ができたんじゃないかって話してたんですよ」
「あ、北やんがゲイってことは本人隠してるつもりなんで、オレらが知ってることはコレでお願いします」
チャラい方が、口の前で人差し指をクロスさせる。
どうやら北村は、自身の性的指向を友達に公言はしていないものの、しっかりとバレているらしい。
ということは、青も北村がゲイだということは知っていたのか。だから北村に告白されたことをオブラートに包んで話したにもかかわらず、青は瞬時に告白されたと見抜いたのだろう。
どちらにせよ自分は北村の彼氏ではない。告白はされたし、北村がいいやつであることもわかった。でも今は彼氏以前に、叶太の恋愛対象に入るかどうかの段階なのだ。
期待するサッカー部の二人には悪いけれど、叶太は正直に北村とは付き合っていないことを話した。告白してきたことは、北村の名誉のためにも内緒だけど。
「え~そうなんすか。ざんねーん」
チャラい方が椅子の背もたれによりかかる。
初めて話すが、なんとも話しやすい二人だ。
「残念ってなんだよ」
「だって幸せになってほしいじゃないすか。やっぱり友達には」
筋肉質な方も「男が好きってだけで、大変そうだもんな」と同意する。
「君たちめっちゃいいやつじゃん」
叶太はじーんと感動した。断れと迫ってきた幼なじみに爪の垢を煎じて飲ませたい。本来友達とはこうあるべきだろう。
「誰かさんとは大違いですねぇ、五十嵐青くん?」
座った状態の青の肩をポンポンと叩く。会話に入ろうともしてこない男は、まるで虫でも払うように叶太の手を肩からサッと払った。
そして割り箸を向けると、「持っていけよ」と言った。
「え、でもまだ青は食ってないじゃん。オレいいよ? あとでも」
「オレが嫌だ。おまえと同じ箸使うとかぜってー無理」
ぴしゃりと言い放たれ、イラッとした。まるでばい菌扱いだ。小学生まではペットボトルとかカキ氷のスプーンストローとか、お互い気にすることなく共有していたのに。ムカつくと同時に距離を感じて、ちょっとさみしい。
「あちゃ~十円足りないわ」
「人の金見て残念がるな」
「じゃあやっぱり箸貸してもらうしかないか」
「なんでおまえは当たり前のように貸してもらえると思ってんの?」
青は呆れながらポケットに小銭を戻した。
先週喧嘩をしたというのに、自分でもだいぶ遠慮のない頼み事だと自覚している。でも昔から自分たちはこうだった。相手が違えば失礼な頼み事も、平気で頼むことができる。
喧嘩をしても、早くて一時間後、遅くても一日経てば元通りになる。今回はちょっと時間がかかっただけで。
「え~いいじゃん。おまえが食べ終わったあとでいいから」
顔の前で両手を合わせる。すると青がチラッと叶太の後ろを見た。さっきからずっとこちらを心配そうに見ている北村に気づいたらしい。あからさまに迷惑がっている表情から、複雑そうな表情へと変わる。
「北村と食ってんの?」
「これからな。でも箸がないから食えない」
そう言うと、青の前に座っていた友達二人が「あーね」と合点がいくように笑った。二人ともサッカー部だろう。二人とも日焼けして肌が浅黒い。それに以前、叶太と同じクラスのサッカー部主将と、三年の教室の前で話しているところを見たことがある。
「なになに?」
叶太が友達二人に反応の理由を尋ねると、ワックスをつけた髪型がチャラめな方が答えた。
「オレらいつも北やんと昼メシ食ってるんすよ。でもあいつ、今日は急に別々で~とか言ってきて」
付け足すように、筋肉質な方が続きを答える。
「北村がそんなこと言ってくるの初めてだったから、彼氏ができたんじゃないかって話してたんですよ」
「あ、北やんがゲイってことは本人隠してるつもりなんで、オレらが知ってることはコレでお願いします」
チャラい方が、口の前で人差し指をクロスさせる。
どうやら北村は、自身の性的指向を友達に公言はしていないものの、しっかりとバレているらしい。
ということは、青も北村がゲイだということは知っていたのか。だから北村に告白されたことをオブラートに包んで話したにもかかわらず、青は瞬時に告白されたと見抜いたのだろう。
どちらにせよ自分は北村の彼氏ではない。告白はされたし、北村がいいやつであることもわかった。でも今は彼氏以前に、叶太の恋愛対象に入るかどうかの段階なのだ。
期待するサッカー部の二人には悪いけれど、叶太は正直に北村とは付き合っていないことを話した。告白してきたことは、北村の名誉のためにも内緒だけど。
「え~そうなんすか。ざんねーん」
チャラい方が椅子の背もたれによりかかる。
初めて話すが、なんとも話しやすい二人だ。
「残念ってなんだよ」
「だって幸せになってほしいじゃないすか。やっぱり友達には」
筋肉質な方も「男が好きってだけで、大変そうだもんな」と同意する。
「君たちめっちゃいいやつじゃん」
叶太はじーんと感動した。断れと迫ってきた幼なじみに爪の垢を煎じて飲ませたい。本来友達とはこうあるべきだろう。
「誰かさんとは大違いですねぇ、五十嵐青くん?」
座った状態の青の肩をポンポンと叩く。会話に入ろうともしてこない男は、まるで虫でも払うように叶太の手を肩からサッと払った。
そして割り箸を向けると、「持っていけよ」と言った。
「え、でもまだ青は食ってないじゃん。オレいいよ? あとでも」
「オレが嫌だ。おまえと同じ箸使うとかぜってー無理」
ぴしゃりと言い放たれ、イラッとした。まるでばい菌扱いだ。小学生まではペットボトルとかカキ氷のスプーンストローとか、お互い気にすることなく共有していたのに。ムカつくと同時に距離を感じて、ちょっとさみしい。
211
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。
Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」
***
地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。
とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。
料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで——
同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。
「え、これって同居ラブコメ?」
……そう思ったのは、最初の数日だけだった。
◆
触れられるたびに、息が詰まる。
優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。
——これ、本当に“偽装”のままで済むの?
そんな疑問が芽生えたときにはもう、
美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。
笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の
恋と恐怖の境界線ラブストーリー。
【青春BLカップ投稿作品】
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)
唇を隠して,それでも君に恋したい。
初恋
BL
同性で親友の敦に恋をする主人公は,性別だけでなく,生まれながらの特殊な体質にも悩まされ,けれどその恋心はなくならない。
大きな弊害に様々な苦難を強いられながらも,たった1人に恋し続ける男の子のお話。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる