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4章
4ー3
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「返事は……先輩の予定がわかってからにしましょうか」
人好きのする笑顔で、北村がこちらに有利な提案をしてくれる。自分と青のせいなのに気を遣わせてしまい、申し訳なくなる。叶太は青に文句を言った勢いで、前のめりに答えた。
「大丈夫、行ける!」
「え、いいんですか? 返事はあとでも僕は全然――」
「いいのいいの! つーかオレも行きたいし」
叶太が言うと、北村の表情は花が咲くみたいにぱっと明るくなった。
「嬉しいです!」
喜びを爆発させる北村を前に、なぜか叶太の胸にチクッと痛みが走る。
「それじゃあ僕はここで失礼します」
「あ、ああ。このあと何かあるんだっけ」
「はい。一回家に帰ってから予備校なんです」
「まじか。まだ二年なのにすげえな」
「親がうるさいだけですよ」
北村は湿度のない爽やかな声で「また学校で」と叶太に言う。その流れで、青にも「じゃあな」と声を掛けた。
「おう」
空気入れに片手を乗せたまま、青は低い声で返す。
帰っていく北村の後ろ姿が見えなくなってから、叶太は小さくはぁとため息をついた。
「意外と仲良くやってるじゃん」
叶太のため息には気付かなかったみたいだ。青は門扉に乗せた両腕の上に顎を置き、北村が帰っていった方向をぼんやりと見ていた。
「そ、そりゃ仲悪くなるようなことされてないし、言われてないからな」
「なに、エロいことでもされてんの?」
「は? 殴るぞ」
「倍やり返す」
セクハラ発言にモラハラ発言。本当にこいつがモテているのか疑いたくなる。
「ほんとにムカつくなおまえは! そもそもオレは誰かさんと違って、相手を知ろうともしないですぐ振ったりしねーの」
誘われて気が乗らなかった理由も、喜ぶ北村を見て胸が痛んだ理由も、きっとまだ自分が北村について知らないことがあるからだ。もっと北村のことを知れば、誘われたら嬉しくなるだろうし、喜ぶ相手を見てきっと自分もいい気分になるはずなんだ。叶太は自分にそう言い聞かせた。
「へえ、誰のことでしょうねー」
機械的な口調で青は言う。こいつ、絶対自分だってわかってるくせに白を切るつもりだ。
「逆に聞くけどさ。おまえはなんで告白してきてくれた子をすぐ振っちゃうの? もっと相手を知れば好きになるかもしんないのに」
「なんねえよ」
青は間髪入れずに答えた。口から下は両腕に埋めたままで見えなかった。
「すげー断言するじゃん」
「だってオレ、好きな人いるし。その人しか見てないから」
青の口から聞く事実にギョッと驚いた。
「まじ?」
「まじ」
そう言った青の目がじろりとこちらに向けられる。嘘か本気かわからない顔だ。でも青が自分から好きな人の話をしてくるなんて、出会ってからこの十数年間で一度もなかった。
周りが好きな人の話になっても、青は大体興味なさそうにスマホをいじっている――と教えてくれたのは、叶太が中学のときに入っていたバスケ部の後輩だ。そいつは青と三年間同じクラスだった。
だから今回、なんとなく青が嘘を言っているようには思えなかった。青に彼女がいた経験がないことは自分も知っている。けれど、まさか密かに好きな人がいたなんて。
人好きのする笑顔で、北村がこちらに有利な提案をしてくれる。自分と青のせいなのに気を遣わせてしまい、申し訳なくなる。叶太は青に文句を言った勢いで、前のめりに答えた。
「大丈夫、行ける!」
「え、いいんですか? 返事はあとでも僕は全然――」
「いいのいいの! つーかオレも行きたいし」
叶太が言うと、北村の表情は花が咲くみたいにぱっと明るくなった。
「嬉しいです!」
喜びを爆発させる北村を前に、なぜか叶太の胸にチクッと痛みが走る。
「それじゃあ僕はここで失礼します」
「あ、ああ。このあと何かあるんだっけ」
「はい。一回家に帰ってから予備校なんです」
「まじか。まだ二年なのにすげえな」
「親がうるさいだけですよ」
北村は湿度のない爽やかな声で「また学校で」と叶太に言う。その流れで、青にも「じゃあな」と声を掛けた。
「おう」
空気入れに片手を乗せたまま、青は低い声で返す。
帰っていく北村の後ろ姿が見えなくなってから、叶太は小さくはぁとため息をついた。
「意外と仲良くやってるじゃん」
叶太のため息には気付かなかったみたいだ。青は門扉に乗せた両腕の上に顎を置き、北村が帰っていった方向をぼんやりと見ていた。
「そ、そりゃ仲悪くなるようなことされてないし、言われてないからな」
「なに、エロいことでもされてんの?」
「は? 殴るぞ」
「倍やり返す」
セクハラ発言にモラハラ発言。本当にこいつがモテているのか疑いたくなる。
「ほんとにムカつくなおまえは! そもそもオレは誰かさんと違って、相手を知ろうともしないですぐ振ったりしねーの」
誘われて気が乗らなかった理由も、喜ぶ北村を見て胸が痛んだ理由も、きっとまだ自分が北村について知らないことがあるからだ。もっと北村のことを知れば、誘われたら嬉しくなるだろうし、喜ぶ相手を見てきっと自分もいい気分になるはずなんだ。叶太は自分にそう言い聞かせた。
「へえ、誰のことでしょうねー」
機械的な口調で青は言う。こいつ、絶対自分だってわかってるくせに白を切るつもりだ。
「逆に聞くけどさ。おまえはなんで告白してきてくれた子をすぐ振っちゃうの? もっと相手を知れば好きになるかもしんないのに」
「なんねえよ」
青は間髪入れずに答えた。口から下は両腕に埋めたままで見えなかった。
「すげー断言するじゃん」
「だってオレ、好きな人いるし。その人しか見てないから」
青の口から聞く事実にギョッと驚いた。
「まじ?」
「まじ」
そう言った青の目がじろりとこちらに向けられる。嘘か本気かわからない顔だ。でも青が自分から好きな人の話をしてくるなんて、出会ってからこの十数年間で一度もなかった。
周りが好きな人の話になっても、青は大体興味なさそうにスマホをいじっている――と教えてくれたのは、叶太が中学のときに入っていたバスケ部の後輩だ。そいつは青と三年間同じクラスだった。
だから今回、なんとなく青が嘘を言っているようには思えなかった。青に彼女がいた経験がないことは自分も知っている。けれど、まさか密かに好きな人がいたなんて。
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