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10章
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しおりを挟む予備校を出て叶太が向かったのは、家の近所にある公園。昔よく青と遊んだ場所だ。鉄棒では一緒によく逆上がりの練習をした。青が乗るブランコを後ろから激しく押しまくり、怖がらせた挙句に泣かせたこともあったっけ。
滑り台では、青が上から滑ろうとしているタイミングで駆け上がって逆走し、よく邪魔していた。
「オレ、最悪じゃん」
子どもの頃を思い出し、ふっと笑う。叶太は遊具から離れた場所にある東屋の中に一人入った。六角形になった東屋のベンチに腰掛け、木材が剥げた壁に背中を預ける。
「……はあ」
座った瞬間、体の力が抜けた。昼間に詩乃と話したあとから、自分はずっと気を張っていたんだと思い知った。
詩乃が最後に放った言葉を思い返す。
――よかったね。青くんが好きじゃない女の子にもキスできる人だって、今わかって。
瞬間、刺すような痛みがズキッと胸に走った。
青と詩乃がキスしていた動画をこの目で見てしまったのだ。そのときの光景がよみがえり、今にも吐きそうな気持ちになる。
ショックだった。二人がキスをしていた事実はもちろん、青を信じたい気持ちが木っ端微塵に打ち砕かれたことが、何よりも苦しかった。
青のことが好きだ。その気持ちは今でも変わらない。だけど……詩乃にキスした唇で、自分にもキスをしてきたんだ。
考えると、悔しくて悔しくてたまらなかった。昼間から必死に閉じ込めていた感情が一気に溢れる。溢れ出したら止まらなかった。ぼたぼたと涙がこぼれて頬を伝う。嗚咽が喉奥で爆ぜる。うう、と叶太は歯を食いしばって泣いた。
誰か嘘だと言ってくれ。詩乃が見せてきた動画は作り物だと。青のことを信じたい気持ちを、どうか奪わないでくれ。
「あお、の……っバカやろぉ……っ」
顔じゅうをぐちゃぐちゃにさせながら、叶太は東屋の下でわんわんと泣いた。
不審者に見えようと構わない。警察に通報されたって知るもんか。叶太は次から次へと制服のズボンに染みをつくる涙を、手の甲や指で拭う。「青のバカ野郎」と何度も吐き捨てた。
それは何回目かの悪態をついたあとのこと。
「こんなところで何してんだよ」
突如頭のすぐ後ろで、聞き慣れた声がした。ハッとして振り返る。斜め後ろを見上げると、叶太のすぐ後ろに青が立っていた。東屋を支える柱の間から顔を出し、背後から叶太の様子をうかがうように覗いてくる。
風呂上がりなのだろうか。髪の毛先が濡れ、Tシャツに短パン姿だ。シトラス系シャンプーのすっきりした匂いがふわっと香った。
今の今まで嫌いになりたいと願っていた男。それなのに、目が合うと一瞬でキュンとしてしまう。そんな自分の雑魚さに呆れて、叶太は笑えもしなかった。
「千佳子さん、心配してたぞ」
青はそう言いながら、建物の外をぐるっと回って出入口から中へと入ってきた。叶太が座るベンチの斜め前にある一角。そこのベンチに腰かける。長い脚を投げ出し、腹の上で指を組む。
早々に叶太が泣いていることに気づいたようだ。こちらの様子が気になるみたいで、ちらちらと視線をよこしてくる。が、うかつに声をかけられないのだろう。泣き腫らした叶太の目を見て、青は気まずそうに顎を引いた。
「……もしかして、オレのせい?」
しばらく経ってから、青はぽつりと聞いてきた。
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