【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

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10章

10-4

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 本当はわかっている。青が自分のことを好きなんだって。詩乃がそれを知っているんだってことも。でも聞かずにはいられない。ここまでの悪意を人から見せられたのは、初めてだったから。

 詩乃はさも当然とばかりに「だって嫌いなんだもん」と人懐っこい笑顔で答えた。

「椿くんさぁ、もうまじで邪魔なの。だからさっさと消えろよ」

 小動物みたいな笑顔が、語尾に向かうにつれて無表情になる。ドスのきいた声色に変化する。ゾッとした。まだ夏の名残りが香る時季なのに、叶太の肌はすっかり冷え切っている。

 通り雨だったようで、ついさっきまで土砂降りだった空はいつの間にか小雨になっていた。遠くからチャイムの音が聞こえている。

 校舎の窓から「詩乃ー、お昼食べよーっ」とこちらに向かって手を振る女子たちがいる。詩乃は窓に向かって「今行くー!」と声高に返すと、スマホを体操着のズボンポケットに入れた。

 遠巻きに女子が見ているとわかったあとだからか、詩乃にいつもの笑顔が戻る。

「でもさ、よかったね。青くんが好きじゃない女の子にもキスできる人だって、今わかって」

 そう言うと、「じゃあねっ」と叶太に手を振り、校舎の中へと駆けて行った。


***

 そのあとの記憶はほとんどない。

 帰りのホームルームが終わったあと、選択授業もなかったので、叶太はすぐに学校を出て予備校に向かった。

 授業が始まるまで予備校の自習室で過去問をやり、夕方には授業を二コマ受けた。いつもならだるいなぁと感じる予備校の授業。目の前の問題を淡々とこなし、講師の解説を聞いている時間がただただありがたかった。

 余計なことを考えずに予備校で過ごし、気づけば午後九時を迎えていた。この時間になると、叶太はいつも帰り支度を始める。

 けれど今日は椅子に貼りついたみたいに腰を上げることができなかった。

 九時を回った自習室の時計を見て、もう少し勉強していこう。九時四十分になった時計を見て、十時までやってから帰ろう。十時二十分……十時五十分……十一時を十五分過ぎたタイミングで、講師が自習室に残る予備校生たちを追い出し始めたので、叶太もようやく重たい腰を上げた。身の回りの問題集やノート、筆記用具を片付ける。

 予備校を出たのは、夜の十一時半ごろだ。スマホを見ると、母親からラインで『何時に帰ってくるの?』『夜ご飯は食べた?』と二件のメッセージが届いていた。

 既読をつけ、『もう少ししたら帰る』『メシ食った』と簡潔な返信を送る。心配……かけているんだろうなと、申し訳なくなる。自分が嫌になる。

 いつもなら真っ先に家に直帰したがる自分が、こんな夜遅くまで外を出歩いているなんて滅多にないことなのだから。

 ふと日中の出来事を思い出し、鉛のような感情が胸にのしかかる。ダメだ。今はとにかく一人になりたい。家族だとしても、誰にも会いたくない。




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