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10章
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しおりを挟む青本人に自分の気持ちを伝える準備ができておらず、叶太はそうだとも違うとも答えられなかった。うつむき加減に、砂で汚れたスニーカーの先っぽを見つめた。
「昨日あのあと……反省した。叶太にキスしたこと。まだ伝えてないことや説明できてないことがたくさんある状態なのに、自分の気持ちだけ押し付けて」
青は続けて、
「困らせてごめん」
と叶太に体を向け、頭を下げた。
まさか初手から謝られるとは思わなかった。こちらは詩乃とキスしたことを聞きたいのに、別のことで謝られている気がする。何から伝え、何から聞き出せばいいのかわからない。
「信じられないかもしれないけど、オレは詩乃さ――いや、町田先輩とは付き合ってない。でも告白はされた」
青から聞く事実にどきりとする。知っていたことだけど、青本人から直接聞くと破壊力があった。
「最初は好きな人がいるって断ったんだ。でもあの人、オレの好きな人が誰か知った上で『二番目でいいから』って言ってきてさ」
それも知っている。今日詩乃から聞いたことだ。そして詩乃の言うことが本当なら、青がそのお願いを聞いたことも。
青が続ける言葉に、叶太は無言で神経を尖らせる。
「言っとくけど、もちろん拒否ってるからな。そんなクソみたいなこと」
青の言い分に、わずかにホッとした。わかっていたけど、自分は青の口からちゃんと聞きたかったんだなと知った。
青の話によると、二番だろうが百番だろうが、詩乃と付き合う気持ちはなかったらしい。けれど青の好きな人を知っていた詩乃は、首を縦に振らない青に向かってこう耳打ちしたそうだ。
――青くんの好きな人に、青くんの気持ちコソッと教えちゃおっかなー。
脅し文句ともいえる言葉。さすがの青も動揺したという。
「それだけはやめてくれって、土下座する勢いで頭下げてさ。『じゃあわかるよね?』的な感じで、向こうもくっついてくるようになって」
青は自嘲気味に鼻で笑った。
「オレが弱かったんだよ。自分の気持ちを知られたら、今まで通りじゃいかなくなる。最悪フラれて、キモがられるってずっと一人でビビってたから」
「ずっと……?」
ふと気になったワードを復唱すると、青は「ああ、保育園の頃からずっと」と返してきた。
「そんなガキの頃から、オレは叶太のことが好きだったんだ」
顔を上げる。斜め前のベンチに座った青と目が合う。自身を『弱かった』とか、『一人でビビってた』と評したばかりの男とは思えないほど芯のある眼差しが、そこにはあった。
好き――……自分のことを、青は好きだという。
昨晩の青を見て、そうじゃないかと思った。不確定だった昨日までは、頭がぽわぽわして夢の中にいるみたいだった。でも実際いざ目の前で。青本人の声で告げられると、驚くほど自分の中でストンと腑に落ちた。
まるで昔から知っていたような、妙な納得感。思わず「知ってたよ」と言いたくなるような気恥ずかしさ。
自分も青のことが好きだと最近自覚したからだろうか。青は十年以上自分の側にいながら、こんな思いをずっと隠していたのか。青の気持ち――これまでのしんどさを考えると尊敬の念すら覚えた。
昨日の時点で好きだと言われたら、二つ返事で「オレも好きだ」と答えていただろう。でも今は……そう簡単に自分も好きだとは言えなかった。
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