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10章
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しおりを挟む「……じゃあなんでキスしてたんだよ」
ボソリと口を尖らせると、青が「は?」と眉をひそめた。
「町田とキスしたんじゃねーの。こっちは動画で見てんだよ」
不機嫌な声で決めつける。何か事情があるのかもしれないが、この目で自分は確かに見たのだ。青と詩乃がキスをしている動画を。あれがフェイク動画だとは今でも思えない。
青はすぐには答えなかった。目を左右上下に動かし、何か考えている様子だ。その姿が言い訳を考えているように見えて、叶太は不安になった。
「動画って、もしかして教室のやつ?」
心当たりがあるのか、青がピンポイントで尋ねてくる。叶太はコクンと頷き、
「ずいぶんと仲良さそうだったじゃん」
と意地悪な声で指摘した。
「まじか。やっぱりアレ撮ってたのかよ」
青は頭の後ろを乱暴に掻く。独り言のように呟いたあと、チッと舌打ちした。
「どういう風に映ってんのか知らないけど、オレは間違いなくキスなんてしてないからな」
青の説明によると、その日詩乃に呼び出された青は、また脅されては困ると思いながら渋々三年生のフロアにある多目的教室に向かった。そこで詩乃から聞かされたのは、SNSのアイコン写真を新しく撮りたいから協力してほしいという内容のものだった。
SNSなんかに自分の顔を晒されたら困る。一緒に写っている写真を載せられて、彼氏だと言いふらされたら最悪だ。
一緒に写ることだけは絶対にNGという条件付きで、青はアイコン撮影の協力をすることを決めたらしい。
詩乃のスマホを使い、青は何枚か詩乃単体の写真を撮ったという。詩乃が一緒に撮りたいと言い出したのは、青が「もういいだろ」とストップをかけた直後のことだった。
「おかしいと思ったんだよ。SNSのアイコンなんて、周りの女子とかもっと写真うまいやつに頼めばいいのにさ。ブーブー文句しか言わねえオレに頼んでくるとか」
青は参ったように額に手をやる。東屋の中の湿度が、さっきよりも上がったような気がした。
「最初からキスしてるように見せかける動画を撮ろうとしてたんだろーな。急に向こうから寄りかかってきたタイミングで、後ろからスマホの録画する音が聞こえてきたし」
怒りを通り越して呆れ返っているようだ。青は「よくやるわ」と大きなため息をついた。
青の言うことを信じたいが、叶太にはもう一つ引っかかる点があった。青がため息を吐ききる前に、叶太は言った。
「オレが見たやつじゃ、おまえの方から町田のこと抱きしめてるように見えたけど」
自分が見たあの動画はなんだったのだ。パニックになった自分が見せた幻だったのだろうか。
「先輩が顔を直前まで近づけてきたから、無理無理ってなって肩ぐらいは抱いたかもしれない。その動画って、オレの後ろから撮ったやつだよな?」
「うん……」
「じゃあもしかしたら、角度的にそう見えたのかも」
青の説明に納得している自分もいれば、まだ足りないと感じている自分もいた。うまく説明できないけれど……もう一度確認したい。でももう二度と見たくない。相反する気持ちに挟まれて、ぐちゃぐちゃになりそうだった。
こちらの釈然としない様子から、青はまだ自分が納得していないことを察したようだった。短パンの横ポケットからスマホを出すと、画面を親指で操作し始めた。
スピーカー設定にしたらしい。青のスマホから発信音が聞こえてきた。
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