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10章
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「なっ、誰に電話して――」
「町田先輩」
「はっ!?」
驚きの声ととも立ち上がる。相手の座るベンチに近寄ると、青はいたって冷静に「この人にオレから電話すんのは、これが最初で最後だから」と叶太を見上げて宣言した。
しかも青がかけたのはビデオ通話だった。発信音が消え、代わりにスマホの画面にはマスクで顔の下半分を隠した詩乃が映りだした。
『もう~びっくりしたよ。こんな夜遅くにどうしたの~?』
詩乃はそう言いながらも、仕方ないなぁというように笑う。
寝る前だからか、メイクをしていないのだろう。こんな夜遅くにかかってきた男からの電話に、ノーメイクでもマスクをして出ようとするじらしさには、ちょっと感じるものがあった。
猫なで声を出す詩乃に一切惑わされることなく、青は画面に映った詩乃に向かい、素っ気ない口ぶりで問いただした。
「昨日の夕方のあれ、動画撮ってたって本当ですか?」
その瞬間、画面の中にいる詩乃の表情が氷のように固まった。明らかにうろたえはじめたのは、それからすぐのことだ。
『な、なんのこと?』
「叶太から聞きました。昨日の放課後にオレを呼び出したのって、そういうことですよね」
『そ、そんな動画、私は知らな――……っ』
「じゃあ叶太に見せた動画ってなんですか。取り巻きに撮らせたんですか。オレにも送ってくださいよ」
毅然とした態度の青に圧され、詩乃は言葉に詰まっていた。
「大体、昨日オレ言いましたよね。そもそもオレら付き合ってないけど、もう終わりにしましょう、つーか終わりにしてくださいって。昨日わかったって、先輩言ってたじゃないですか。なのに叶太に絡むとか、どういう神経してるんですか?」
まくし立てるうちに、青の中でも徐々に気持ちがヒートアップしていったのだろう。語尾に向かうにつれて早口になっていった。
「最初に先輩の告白をハッキリ断らなかったオレが全部悪いです。オレのことは誰に何を言ってもいいです。でも叶太は……今後叶太を傷つけるつもりで近づいたら、オレは一生あんたを許しませんから」
怒涛の勢いで言い放つ。ビデオ通話の向こうでは、詩乃が全身をわなわなと震わせていた。髪の毛の先を落ち着かない手で触っている。何か反論したそうに見えたが、もしかするとそれ以上に言い返せない理由があるのかもしれない。たとえば青が今明かしたことがすべて事実で――とか。
一応逃げ道を作ろうとしたのか、何も言い返さない詩乃に青は、
「言い返したいことがあれば、ここで聞きますけど」
と投げる。
けれど詩乃はそれ以上通話を繋げていたくないとばかりに『ねえよ』と乱暴に言葉をぶつけると青を睨んだ。画質が荒くて涙までは見えなかった。でも鼻をすする音と喉を詰まらせる声が聞こえてきたので、きっと泣いているんだろうなと思った。
相手が先輩だろうと女の子だろうと容赦しない青に、こっちの方が心配になってくる。叶太は適当なところで「もういいから」と青の腕に手を乗せた。
詩乃だって一人の女の子として青を好きになった。付き合いたいと願った。やり方を間違えたかもしれないが、元々そこにあるものは純粋な気持ちだったはずだ。叶太にはどうしても青のように責めることはできなかった。
「オレは大丈夫だから。青も町田も落ち着いて……」
次の瞬間、スピーカーから『急に勝ち誇った気になってんじゃねーよ!』と割れたヒステリックな声が飛んでくる。女の人の甲高い声はすごい。耳がキーンとなる。三半規管が混ぜられたような気分だった。
「ああっ!?」
青が応戦しようと、咆えてスマホを握り直すと、ビデオ通話はいつの間にか切れていた。向こうが切ったのか、青の指が間違えて押したのか。どちらにせよ、最後のあれが彼女の捨て台詞になったというわけだ。
「町田先輩」
「はっ!?」
驚きの声ととも立ち上がる。相手の座るベンチに近寄ると、青はいたって冷静に「この人にオレから電話すんのは、これが最初で最後だから」と叶太を見上げて宣言した。
しかも青がかけたのはビデオ通話だった。発信音が消え、代わりにスマホの画面にはマスクで顔の下半分を隠した詩乃が映りだした。
『もう~びっくりしたよ。こんな夜遅くにどうしたの~?』
詩乃はそう言いながらも、仕方ないなぁというように笑う。
寝る前だからか、メイクをしていないのだろう。こんな夜遅くにかかってきた男からの電話に、ノーメイクでもマスクをして出ようとするじらしさには、ちょっと感じるものがあった。
猫なで声を出す詩乃に一切惑わされることなく、青は画面に映った詩乃に向かい、素っ気ない口ぶりで問いただした。
「昨日の夕方のあれ、動画撮ってたって本当ですか?」
その瞬間、画面の中にいる詩乃の表情が氷のように固まった。明らかにうろたえはじめたのは、それからすぐのことだ。
『な、なんのこと?』
「叶太から聞きました。昨日の放課後にオレを呼び出したのって、そういうことですよね」
『そ、そんな動画、私は知らな――……っ』
「じゃあ叶太に見せた動画ってなんですか。取り巻きに撮らせたんですか。オレにも送ってくださいよ」
毅然とした態度の青に圧され、詩乃は言葉に詰まっていた。
「大体、昨日オレ言いましたよね。そもそもオレら付き合ってないけど、もう終わりにしましょう、つーか終わりにしてくださいって。昨日わかったって、先輩言ってたじゃないですか。なのに叶太に絡むとか、どういう神経してるんですか?」
まくし立てるうちに、青の中でも徐々に気持ちがヒートアップしていったのだろう。語尾に向かうにつれて早口になっていった。
「最初に先輩の告白をハッキリ断らなかったオレが全部悪いです。オレのことは誰に何を言ってもいいです。でも叶太は……今後叶太を傷つけるつもりで近づいたら、オレは一生あんたを許しませんから」
怒涛の勢いで言い放つ。ビデオ通話の向こうでは、詩乃が全身をわなわなと震わせていた。髪の毛の先を落ち着かない手で触っている。何か反論したそうに見えたが、もしかするとそれ以上に言い返せない理由があるのかもしれない。たとえば青が今明かしたことがすべて事実で――とか。
一応逃げ道を作ろうとしたのか、何も言い返さない詩乃に青は、
「言い返したいことがあれば、ここで聞きますけど」
と投げる。
けれど詩乃はそれ以上通話を繋げていたくないとばかりに『ねえよ』と乱暴に言葉をぶつけると青を睨んだ。画質が荒くて涙までは見えなかった。でも鼻をすする音と喉を詰まらせる声が聞こえてきたので、きっと泣いているんだろうなと思った。
相手が先輩だろうと女の子だろうと容赦しない青に、こっちの方が心配になってくる。叶太は適当なところで「もういいから」と青の腕に手を乗せた。
詩乃だって一人の女の子として青を好きになった。付き合いたいと願った。やり方を間違えたかもしれないが、元々そこにあるものは純粋な気持ちだったはずだ。叶太にはどうしても青のように責めることはできなかった。
「オレは大丈夫だから。青も町田も落ち着いて……」
次の瞬間、スピーカーから『急に勝ち誇った気になってんじゃねーよ!』と割れたヒステリックな声が飛んでくる。女の人の甲高い声はすごい。耳がキーンとなる。三半規管が混ぜられたような気分だった。
「ああっ!?」
青が応戦しようと、咆えてスマホを握り直すと、ビデオ通話はいつの間にか切れていた。向こうが切ったのか、青の指が間違えて押したのか。どちらにせよ、最後のあれが彼女の捨て台詞になったというわけだ。
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