それだけは絶対にお断りします!

きんのたまご

文字の大きさ
3 / 26

3

しおりを挟む
あれから夫は忙しくなりこの1週間私達が起きる前に仕事に行き私達が寝てから帰ってくる生活になった。それに伴い私達は離縁について話し合う?いや、離縁状にサインをして貰う時間も無くなった。
夫の机に置いておいてもいいのだけれど…誰かに見られたらいけないから駄目か…。
一刻も早く離縁したいのだけれど、世の中上手くいかないものだ。



婚約者に好きな人がいると知った日私は一晩中悩みに悩んだ。翌日婚約者を呼び出す。
「昨日も会ったのに…どうしたの?」
「ごめんなさい、突然呼び出して」
「いや、僕達は婚約者なのだからいいんだけど……何か大事な用事かな?」
婚約者はそう言って優しく笑ってくれた。
他に好きな人がいるのに私にまで優しくしてくれるなんて…。
「婚約を無かった事にしましょう」
本当はこんな事言いたく無い、だけど私と結婚してこの優しい婚約者が不幸になるくらいなら私は潔く身を引きたい。
「…僕が何か気に触る事をしてしまったかな?」
私は無言で首を振った。今は一言でも話をすると泣いてしまいそう。
「じゃあ他に好きな人が出来た?」
私はまた首を振る。
「僕が嫌な訳では無い?」
私はコクリと頷いた。すると優しい婚約者は私の頭をなでなでしてくれた。
「僕が嫌いで言ったのではなければ婚約解消はしないよ」
そう言って優しい優しい婚約者は帰って行った。



「また懐かしい夢…」
そう呟いて隣で眠る愛しい息子の顔を見る。
「あの時婚約を解消していたらこの子とも会えなかったのね」
私は息子が起きないようにそっとべっとを降りる。
バルコニーに出る。今は5月寒くもないのでこのまま少し外を見ていようかしら。手すりにもたれて空を見上げる。そこには綺麗な星空が広がっていた。
すると下から馬の蹄の音…。
「旦那様…」
こんな夜中に何処へ…って分かっているでしょう?彼女の所へ行くのだ。今までも私達が寝静まった後に家を出ていたのかしら…私達に気付かれないように。
「ふふっ変な気遣い…」
そう言って笑った私の頬に一筋涙が落ちた。


この間の離縁状を綺麗にたたみ封筒に入れる。
その封筒を持ち私は部屋を出た。向かう先は先程外へ出た夫の部屋。
すると部屋の前には執事がいた。
ああ、旦那様がお出掛けになる準備を手伝っていたのね。
こちらを向いた執事がびっくりした顔をした。
「奥様、このような時間にどうされました?」
「少し夫の部屋に用事があって」
「旦那様は今ー」
「分かっているわ、いらっしゃらないのは。この手紙を置いてくるだけ」
そう言って私は夫の部屋の扉を開ける。
そして机の1番上の引き出しにそっと離縁状を入れた。
「旦那様から奥様にお伝えするようにと言われていた事をお伝えしても宜しいでしょうか?」
「…なに?」
「明日起きたらでいいと仰っておられたのですが、暫く屋敷には戻れないかもしれないと」
「………そう、分かりました」
ついに屋敷にお帰りになるのも辛くなられたのね。
「先程の手紙は必ず旦那様に見て頂いて。いつになっても構いません。もしあまりにもお帰りにならなくて、貴方が旦那様の居場所を知っているならば、いつになっても構いません。旦那様に届けて返事を頂いて来て下さい」
「……畏まりました」
執事は何か言いたそうな顔をしていたがそれだけ言って深々と頭を下げた。
「旦那様の執事である貴方が私にまで頭を下げなくていいわ」
そう言うと私はその場を離れた。
しおりを挟む
感想 369

あなたにおすすめの小説

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完】お望み通り婚約解消してあげたわ

さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。 愛する女性と出会ったから、だと言う。 そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。 ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...