それだけは絶対にお断りします!

きんのたまご

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「旦那様お食事の後お話したい事がありますので少しお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
私はもうすぐ食事が終わるというタイミングで夫にそう言った。
「…ああ」
「ありがとうございます。では後ほどお部屋に伺いますわ」 
そして私は食後のお茶を飲み干した。


夫は昼間は貿易の仕事をしている。公爵家の息子である夫は本当ならばそんな事をしなくも領地の経営だけでやっていけるのだが先代から公爵家を引き継いですぐに会社を立ち上げた。
「やはり彼女の為…」
私は立ち上がり夫の部屋へ向かう。
コンコン。ノックをすると中から返事が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼致します」
そう言って中に入ると夫は机で仕事をしている様だった。
「お忙しい時に申し訳ありません」
「いや、構わない…で?話とは?」
夫は書類から目を上げずそう言った。
そして私は1枚の書類を仕事をする夫の机に置く。
「これは……離縁状?」
そこで夫ははじめて顔を上げた。
「はい、お忙しいと思いますのでここにサインだけしていだけたら結構です」
そう言って夫側の欄を指さした。ちなみに妻の欄は記入済み。これで夫の手を煩わさずスムーズに離縁出来る。記入さえして頂いたらこちらで出せますし。
そう思い夫の手元をじっと見ていたが夫がサインをする様子が一向に無い。
どうしたのだろうかと夫の手元から夫の顔に目線を上げるとじっとこっちを見ていた夫と目が合った。
「……どうされたのですか?」
全く動かない夫を不審に思いそう問いかける。
「どうして……」
ポツリと夫がそれだけ言って私は一瞬何の事だか分からなかった。
「どうしてとは?」
「この離縁状」
ああ!この離縁状は一体どのようにして用意したのかと言う事か!
「大丈夫です!これは自分で貰いに行きましたから。こちらの使用人をそんな用事で使ったりは致しませんわ、ご安心下さい。さあ、どうぞこちらにサインを、他の書類にするようにささっとして頂けたら結構ですので」
「いや、私が言っているのはそういう事では…」
コンコン。そこにノックの音が聞こえる。
「っな、何だ!」
夫がノックの主に返事をしている間に私は机の上の離縁状を素早く手に取り小さく折り畳む。
拳に握り込みこれで他者からは気付かれないだろう。
私の名前だけが記入済みの離縁状なんて見られたら私が夫の事を嫌になって離縁を迫っているように見えてしまう。
私との離縁が夫の醜聞になってはいけない。あくまでも私が悪くて夫から離縁されたと周りからは思われなければならない。
「申し訳ありません仕事の事で少々トラブルがありまして」
「入れ」
もう夫は仕事をする時の顔をしていた。
「あっ奥様申し訳ありません!」
入って来た夫の部下はそれはもう悪い事をしたと言わんばかりに小さくなって部屋へと入って来た。私と夫の事を邪魔してしまったと思っているのね。実際は私が夫の仕事の邪魔をしていただけ…。
「では、旦那様お邪魔致しました」
そう言って私は夫の部屋から出る。
「また、時間のある時に」
そう言った夫はもう私の方をむいてはいなかった。
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