透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第三章 子供たちと隠れ里

091 ヒトの世界、魔物の世界

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「妖精と霊獣をテイムした【色無し】の魔物使い……ホントにいたんだ」

 メラニーの呟きは、五人の子供たち全員が一致させていた気持ちでもあった。
 森の中で遭遇した少年が、噂に聞いた人物そのものだった。まさか本当にいたとは思わなかったと、驚きを隠せない。
 それだけ信じていなかったことを意味するのだが、無理もないと言えるだろう。
 野生の魔物が懐くか否かはともかくとして、滅多にお目にかかれないと言われている妖精や霊獣を次々と従えるなど、信じるほうが馬鹿馬鹿しいと思うのは、至って自然なことだからだ。
 無論、マキト自身にそんな自覚は微塵にもなかったが。

「ハ、ハハッ……ぼ、僕を騙そうとするなんて、いい度胸じゃないか」

 サミュエルは無理やり笑顔を取り繕い、震えた声で言う。

「その群がっている魔物たちも、きっとマキトが小さい頃から育ててきた魔物に違いないさ。いや、きっとこの森に住んでいる全ての魔物がそうなんだよ! 野生の魔物がヒトに懐くなんてあり得ないからね! アレクだって、こんな光景は見たことがないだろう!?」
「た、確かに……少なくともシュトル王国では、見たこともないな……」

 くわっと見開かれた目で問いかけてくるサミュエルに、アレクは思わず押されながらも頷いた。
 目の前の光景は、にわかにも信じがたい。何か裏があるのではないか――むしろそうであってほしいと願いたくなる。それぐらいアレクも、内心では戸惑いに満ちていたのだった。

「けどよぉ……」

 しかしそこに、腕を組みながらジェイラスが首を傾げてきた。

「冒険者のパーティが、森で魔物狩りをして帰ってきたところを確かに見たぞ?」
「あ、あぁ、そう言えばそうだったな」

 ネルソンたちに連れられて、森の村に入った時だった。冒険者パーティが、巨大な猪の魔物を仕留め、どうだ凄いだろうと意気揚々と笑っていたのだ。
 ――突然襲い掛かって来てビビっちまったが、このとおり仕留めてやったぜ。
 確かにそう言っていた。
 シュトル王国でも度々見かけられた光景であり、この森でも冒険者は活発に活動しているんだと――そう思ったのだった。

「ということは、サミュエルの理論は成り立たない……ということか?」
「あたしでもそうとしか思えないわね」

 戸惑うアレクの問いかけに、メラニーが同意する。

「どうやってあんなでっかい魔物を仕留めたのか、この目で見てみたかったって思っちゃったわよ」
「ちょ、ちょっとメラニー! よりにもよってここでそんなこと……」
「――あっ!」

 リリーに慌てて指摘されたところで、メラニーもようやく拙いことを口走ってしまったと気づいた。
 理屈はどうあれ、魔物たちとまったりと仲良くしている場面なのは確かだ。下手をすれば、自分たちがここにいる魔物を仕留めようと思われかねない。むしろそう判断するのが自然だとすら思えてくる。
 しかし――

「確かに、でっかい魔物さんを仕留める人って凄いのです」
「どうやって仕留めてるんだろうな?」
「ある意味不思議なこと」
「キュウッ」

 マキトたちも、そしてラティたち魔物も、気にしている様子はなかった。むしろメラニーの意見に同意すらしている。
 そんな、なんともあっけらかんとしている反応に、メラニーは戸惑っていた。

「ね、ねぇ……あたし、アンタたち魔物を倒すみたいな発言したんだけどさ……」

 恐る恐るメラニーが尋ねると、ラティがきょとんとした表情で振り向く。

「えぇ、それがどうかしたのですか?」
「どうかしたって……その、なんか嫌な気分にさせたかなって……」

 視線を右往左往させ、しどろもどろになるメラニー。
 それに対して、ラティは――

「気にすることはないのですよ。魔物の世界では、弱肉強食が基本ですから」

 笑顔であっけらかんと答えるのだった。

「確かにわたしからすれば、魔物さんは立派な同胞なのです。でも倒されたからといって、倒した相手を恨むことはしないのです。倒された魔物さんが弱かっただけの話なのですから」

 例え罠に嵌められようと不意打ちを受けようと、倒されたほうが負け。倒されずに逃げるか返り討ちにするかすれば勝利――それだけの話である。
 これはロップルやフォレオも、全くの同意見であり、その場にいる魔物たちの総意とも言えていた。
 故に、メラニーの言葉で嫌な気分になることは決してない。
 そんなドライさを見せつけた魔物たちに対し、アレクたちは改めて驚いてしまうのだった。
 するとここで、サミュエルがハッと気づいた反応を示す。

「で、でもでもっ! それと魔物たちが懐くことは別問題だよねっ! 話をすり替えようとしたってそうはいかないよっ!!」

 サミュエルはそう捲し立て、改めてマキトにビシッと指を突き立てた。

「そうやって魔物が懐いているのは、キミが小さい頃から魔物を育ててきているからじゃないと――本気でそう言うつもりか!?」
「うん」

 険しい表情で糾弾するように叫ぶサミュエルに対し、マキトはあっさりと頷く。

「だって俺、この森に来たの、ついこないだのことだし」
「言いがかりもいいところなのです」
「キュッ」
『しつれいなひとだよね』

 ラティとロップル、そしてフォレオまでもが、半目でサミュエルを睨む。その圧を感じた彼は、軽く息を飲みながら身を硬直させた。
 するとここでラティが、ふんっと息を鳴らしながら口を開く。

「マスターが魔物さんに懐かれているのは、マスターの魔物使いとしての力が、存分に発揮されているからなのです」
「そ、その力とやらが、魔物を惹きつけているとでも?」
「なのです!」

 戸惑いながら問いかけるサミュエルに、ラティが腰に手を当てながら、誇らしそうに頷いた。

「現にマスターがいなくなった瞬間、それまでのんびりしていた魔物さん同士がケンカを始めることだって、そう珍しいことじゃありませんし」
「あぁ、なんかそう言ってたよな」

 マキトも話には聞いていたため、それほど驚かず苦笑していた。流石に自分が立ち去った後のことは、その目で見ることはできない。

「随分と割り切ってるのね? 争ってほしくないとかって思わないの?」

 メラニーがマキトに疑問を投げかける。魔物使いであれば、魔物同士が争うのも嫌うのではないか――そんな率直な考えが浮かんでのことであった。
 するとマキトもまた、軽く笑いながら答える。

「そりゃあるよ。ケンカしてるとこなんて見たくもないさ」

 でも――と、マキトは続ける。

「魔物たちにとっての普通は、俺らみたいなヒトの普通とは違うんだろうから、仕方のない部分も多いって思うようにはしているよ」

 どこかで割り切らないといけない――そうマキトは思っていた。魔物と心を通じ合わせることができるとはいえ、魔物は魔物であることに変わりはない。大きな考え方の違いがあることは、分かっているつもりであった。
 もっともこう考えるようになったのも、ラティやユグラシアから指摘されたおかげでもあるのだが。

「……ところで、皆さんはどこから来たのですか?」

 不意にラティが問いかける。それに続いて、ノーラもコクリと頷いた。

「ん。それはノーラも気になってた。この森の人じゃない感じ」

 ジッとまっすぐ見つめてくるノーラの視線は、まるでアレクたち五人を射抜こうとしているかのようであった。
 サミュエルやメラニー、そしてリリーは言葉を詰まらせる。

(ど、どうしよう? この子たちが課外活動に直接関係あるとは思えないけど)

 メラニーの額から冷や汗が一筋流れ落ちる。

(バカ正直に言うのもなぁ……抜け出してきてることは間違いないし)

 サミュエルが思わず視線を逸らす。平然を保とうと意識しすぎているが故に、表情が完全に硬直しており、むしろ違和感満載となっていることに、当の本人はまるで気づいていない。

(何も答えないのも、それはそれで怪しまれるよねぇ……)

 リリーも視線を逸らしながら気まずそうにする。上手い言い訳が、全くといっていいほど思い浮かばなかった。
 すると――

「俺たちはシュトル王国から来たんだ。冒険者見習いとしてね」

 アレクが爽やかな笑顔でマキトたちにそう言った。

「それで今は、皆でこの森を探索している途中なんだよ。たまたま見かけたスライムを追いかけていたら、キミたちがいたってワケさ」
「へぇ、そうだったのか」
「なるほどですね」

 マキトたちも、その説明にすんなりと納得する。確かに言っていること自体に間違いはない――そうこっそりと、メラニーとリリーで耳打ちし合っていた。

「それはともかくとして、マキト君。同じヒトとして忠告させてもらうけど――」

 するとアレクは、突然表情を厳しくしてきた。

「そうやって魔物とばかり仲良くなるのは、正直止めたほうがいいよ」

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