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第三章 子供たちと隠れ里
090 森の探検と新たなる出会い
しおりを挟むアレクたち五人は、意気揚々と森の中を歩いていく。
魔物と出くわしたら戦う気でいたが、あいにく魔物が通りすがることはあれど、襲われるような事態に陥ることはないままである。
故に五人は、ただ薄暗い森の中を歩いているだけの状態であった。
どこを見渡しても木が広がっているだけ。それはシュトル王都の郊外の森にて、散々見てきた光景と何ら変わりがない。
(知らない土地で不安だったけど……意外と安全な森なのかも?)
周囲をキョロキョロと見渡しながら、リリーは少しだけ安心感を覚える。
(危険な思いをせずに済むかもしれないよね? 戻ったら叱られるだろうけど、魔物に襲われるよりは、全然マシだもん)
むしろ叱られるだけで済めば、それもまた幸運だと言えるだろう。予想もしていない大きなペナルティが与えられたとしても不思議ではない。冒険者の厳しさを叩きこむことが目的の課外活動ならば、むしろ普通にあり得ると考えるべきだ。
リリーはまだ、そこまで考えが至らなかった。
経験値が極めて浅い以上、無理もないと言えばそれまでだが、甘さが許されない意味を考えることぐらいはできたはずである。
その点では、色々と詰めが甘いと言わざるを得ないのも、また確かであった。
「心配しなくても大丈夫よ、リリー!」
隣を歩くメラニーが、笑顔で力強く励ましてきた。
「魔物が出たら、あたしが魔法でチャチャッと追っ払ってあげるからさ♪」
「う、うん……」
それはそれで確かに的外れではないため、リリーはひとまず頷く。やはり帰るという選択肢はないのかと、改めて思い知らされた瞬間だった。
他の三人も意気揚々と歩き続ける。どこからそんな自信が湧いてくるのかと、そう言いたくなるほどに。
(これはもう、私が何を言ってもムダなんだろうなぁ……)
リリーは密かに肩を落とす。仮にここで勝手な行動は良くないと進言した場合、アレクならば一応、受け入れてはくれるだろう。しかしその上で彼は、前に進み続けることを選択するのは目に見えていた。
冒険者として勇敢な行動を示すのも大切なことだ、もし何かあっても俺たちなら乗り越えられる――そんな勇敢らしさを前面に出した言い訳を述べた上で。
(確かにアレクらしいとは言えるけど……今回の場合はどうなんだろう?)
そんな疑問がリリーの頭の中を駆け巡る。
望ましいのは、それをここで口に出すことであったが、如何せん彼女の中で、長年の経験と引っ込み思案さが邪魔をしてしまい、ただ黙って彼らに付いて行くという結論を導き出してしまう。
(ここまで来たら、どうせ怒られちゃうワケだし……これ以上、波風を立てないようにしておいたほうがいいよね?)
もっともらしい逃げの言い訳を、心の中で呟くリリー。その度に情けない自分を嘆くのだが、それもまた諦めの境地であった。
――私が大人しくしていれば、誰にも迷惑をかけることはないから。
争い事を嫌い、波風を立てない選択肢を選び続けてきた彼女は、いつしかその考えを当たり前のように扱うようになった。
流石にこのままではいけないことぐらい分かっている。でも、刻み込まれたそれを簡単に取り除くことはできず、ここまでズルズルと引きずり続けていた。
変わりたい、けど簡単には変われない――諦めに等しい気持ちを抱きながら。
「へっ、ただ追っ払うだけじゃ甘いってもんだぜ!」
するとその時、ジェイラスが拳をパキパキと鳴らしながらニヤッと笑う。
「魔物は倒してナンボだ。飛び出してきた魔物を片っ端から倒してこそ、冒険者ってもんじゃねぇか?」
「あぁ、俺もジェイラスには同意だな」
アレクも目を閉じながら、フッと笑った。
「魔物ってのは、基本的に凶悪な存在だからな。倒して然るべきだ」
「今回は話が合うみてぇだな」
「全くだ」
顔を見合わせ笑みを深め合う二人。喧嘩腰になりやすいジェイラスと、冷静に物事を進めるタイプのアレクは、普段から意見が分かれることが多い。しかし時たまこのように、驚くほど噛み合うこともある。
そうなったときの二人は、良くも悪くも止められない。
これがシュトル王都の中であれば、これから何かが起きるのかと、ワクワクして見ていられたかもしれない。しかし今は、何が起こってもおかしくない場所のど真ん中にいるも同然。呑気に楽しむことなどできるはずもなかった。
少なくともこの場では、リリーがそれに該当していた。
「ね、ねぇ! それならさ!」
このままでは危険だ――そう思ったリリーが、慌てて話に割り込む。
「それなら、魔物使いはどうなるの?」
「そんなの決まってるじゃん。あれは単なる見せかけだよ」
サミュエルが肩をすくめながら、サラッと答える。
「そもそも野生の魔物が、ヒトに懐くこと自体があり得ない話さ。魔物使いが連れている魔物は、卵から孵った雛や生まれたての赤ん坊から育てていって、親だと刷り込ませているだけに過ぎないんだよ。それを野生の魔物を懐かせたと偽って、大々的にアピールしているんだ。あくまで僕の個人的なカンだけどね」
両手を広げながら、気持ち良さそうな表情で語るサミュエル。それに対して他のメンバーたちは、こぞって呆けた表情を浮かべていた。
「……珍しくマトモなこと言ってるじゃない」
最初に口を開いたのはメラニーだった。
「アンタ一体どうしちゃったのよ? いつものサミュエルじゃないわ!」
「し、失礼だな! むしろ僕ほどのマトモな男はいないと言ってもいいくらいさ。アレクもそう思うだろ?」
「まぁ、それについてはなんとも言えないが……」
「うおおおぉぉーい、幼なじみぃーっ!」
涙目で突っかかるサミュエルを、アレクは華麗に流す。ジェイラスも相手にする気がないと言わんばかりに、澄ました表情で腕を組んでいた。
「バカバカしい。んなつまんねぇことでいちいち騒いでんじゃねぇよ」
「つ、つまらないだとぉ? いくらジェイラスでも、言っていいことと悪いことがあると思うけどねぇ!」
「そもそも魔物が懐くかどうかなんざ、俺には何の興味もねぇ。魔物は片っ端からぶっ飛ばす。それが俺のやり方だ」
「ぐぅ……ジェイラスらしい意見に、何も言い返せない僕がいる……」
悔しそうな表情を浮かべ、サミュエルは拳を強く握り締める。そんな彼に苦笑していたアレクは、気を取り直しがてら四人を見渡した。
「とにかくだ。サミュエルの言うことも一理はあるだろう。特別な育て方をした魔物以外は、基本的に倒すべきなのは間違いない」
その声にサミュエルとメラニーは頷き、ジェイラスも当たり前だと言わんばかりに目を閉じている。
しかしリリーは不満そうであった。今回ばかりは、アレクの言葉にどうしても納得ができなかったからだ。
「でもそれなら、この大森林にいるという魔物使いの男の子は? その男の子は、野生の魔物とたくさん友達になったって聞いたよ?」
必死に訴えるリリー。彼女がそれだけ本気で尋ねてきていることは、その場にいる誰もがよく分かっていた。
争い事も戦いも好きではない。戦闘が一切できない、回復系の錬金術師に選ばれた時は、それはもう心から喜んでいた。
それがリリーという少女なのだと、アレクたちも心の中では認めていた。
否定するつもりはない。むしろ彼女らしくていいじゃないかと。
だからこそ今回も、リリーの意見に怒りこそ抱きはしなかったが、ため息はついてしまっていた。
「リリー。キミが優しい心の持ち主なのは分かる。でも所詮はウワサなんだよ」
アレクは優しい口調で、諭すように言う。
「野生の魔物が自ら群がり懐くというだけでも信じられないのに、妖精や霊獣を次々と従える? いくらなんでもあり得なさ過ぎる話だよ。根も葉もないウワサに惑わされてばかりいたんじゃ、立派な冒険者にはなれないことぐらい、リリーだって分かっているだろう?」
言葉は優しいが、意見は完全に否定されてしまった。しかしリリーは、何も言い返すことができなかった。証拠がないのも確かだったからだ。
俯いて顔をしかめるリリーに、メラニーが背中をポンポンと叩いて慰める。
それ自体は暖かい気持ちに駆られたが、心は落ち着かないままだった。
「――キィッ♪」
するとその時、一匹のスライムが茂みの中から飛び出してくる。ちょうどアレクたちの目の前に出てきた形であり、自然とスライムの視線と、アレクたちの視線がぶつかり合うのだった。
「何だぁ? スライムが俺たちとやろうってのか? 面白れぇ……」
ニヤリと笑いながら、ジェイラスが拳を構える。
しかし――
「……キィキィッ」
スライムは襲うこともなく、そのままアレクたちを横切って、森の奥へと飛び跳ねていってしまった。
「なっ! お、おい、テメェっ! 逃げんのかよ!?」
ジェイラスがスライムの後を追って、駆け出してしまう。
「待てよ、ジェイラス! 勝手な行動をするな!」
アレクも慌てて彼を追いかけ出し、他のメンバーもそれに続く。ジェイラスは聞く耳を持たず、スライムを逃がすまいと走っていた。
当のスライムは、そんなジェイラスなど全く眼中にないと言わんばかりに、鼻歌交じりでピョンピョンと飛び跳ねていく。しかも飛び跳ねる大きさがどんどん増していっており、ジェイラスから段々距離を引き離していく。
「くそぉっ、スライム如きが……俺様を舐めんじゃねぇってんだ!!」
ジェイラスが更に走る速度を上げる。なんとしてでもあのスライムを――それ以外に何も考えられずにいた。
スライムが茂みの奥へと姿を消す。ジェイラスも迷わずそこに続いた。
すると――
「キィーッ、キィキィキィーッ!」
目の前に『塊』があった。森が開けており、中央に存在する大き目の切り株らしき場所に座る形で。
森の魔物たちが集まって形成された『塊』からは――
「分かった分かった。ちゃんと順番に撫でてやるから、ちょっと待ってろって」
確かにヒト――それも自分たちと同年代くらいの男の子の声が聞こえた。
「な、何なんだ、アレは……?」
追いついたアレクたちも、その姿を見て呆気に取られている。そこにその『塊』がモゾッと動き、その正体が判明した。
「えっ? お、男の子?」
メラニーが呆然としながら呟く。確かにそれは、魔物に埋もれた同年代の男の子に他ならない。
断じて襲われている様子ではなく、むしろその真逆としか思えない。
しかも少年の周りには――
「んー、やっぱりロップルはもふもふ♪」
「キュウ……」
「ノーラさんは相変わらずなのです」
『くわぁ~』
少し年下の少女に、見たことのない魔物らしき生物たち。そして図鑑でしか見たことのない、羽の生えた小人らしき姿の妖精。
――妖精や霊獣をテイムする【色無し】の魔物使い。
もしかしてアレがそうなのかと、アレクたちは驚きを隠せなかった。
「あや?」
「ん?」
すると妖精がアレクたちの存在に気づき、魔物たちに埋もれた少年も、つられる形で振り向く。
森の魔物たちが離れ出し、頭にバンダナを巻いた少年が、姿を現してきた。
「――あ、えっと……こんにちは」
ペコリとお辞儀をする少年に対し、アレクたちはしばらく唖然としたまま、その場で硬直していたのだった。
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