透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第四章 本当の親子

144 復讐劇の終わり

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「……なんという力だ」

 フェリックスがよろめきながら起き上がる。その表情からは余裕が消え失せ、現れたメイベルに対し、恐怖に等しい戸惑いを抱いていた。

「明らかの普通の魔法ではなかったぞ?」
「流石はフェリックスだね。アリシアの魔力ポーションのおかげだよ」

 彼女の後ろでアリシアがウィンクしながらブイサインをする。それを見て、フェリックスはすぐさま理解した。

「そういうことか。やはりセアラの娘だけあって、ただ者ではなかったようだな」
「お母さんはこの際関係ないでしょ。あくまでアリシアの実力ってことを、間違いないでほしいもんだね」
「フン……まぁ、それはどちらでもいい」

 メイベルの指摘に、フェリックスも忌々しそうに舌打ちをする。

「人数が増えたところで、どうということはない。僕の力を見せてやるよ!」

 フェリックスは再び右手を掲げた。すると中指に装着された指輪の赤い宝石が、眩く光り出す。
 それは瞬く間にオーラと化してフェリックスを包み込む。やがて彼の表情は、自身に満ち溢れた笑みとなった。

「――なんだかよく分からないけど、来ないならこっちから行くよ!」

 そう叫びながら、メイベルは魔法を繰り出す。それが当たるとは思っておらず、彼が何をしたいのかを確かめる意味を兼ねての発動だった。
 しかしフェリックスは、涼しそうな余裕の態度を崩すこともなく、よけようともせずにその場に立ち尽くしていた。
 そして彼は、スッと右手を前方に伸ばし――

「ふっ!」

 ばしぃん、と片手で魔力を受けとめ、そのままメイベルに投げ返してしまう。

「なっ――!」

 メイベルはそのまま直撃を受け、後方に吹き飛ばされる。あまりの出来事に驚いてしまい、ガードをすることもできなかった。

「おいおい……あれって、明らかにヤバいレベルでパワーアップしてないか?」

 呆然としながらマキトが呟くと、隣にいるラティも険しい表情を浮かべていた。

「恐らくあの指輪なのです。なんだか禍々しい魔力を感じるのです!」
「ん。ノーラも感じた」

 ノーラがマキトの隣で頷く。先日の一件が尾を引いているのか、彼を守らんとばかりに距離が近い。

「多分、あの指輪が発動している限り強いまま。だから……」
「アレさえ壊せば弱くなる?」
「可能性大」

 そんなマキトとノーラのやり取りは、魔物たちやアリシア、そしてメイベルの耳にもしっかりと届いていた。

「つまり、無理にフェリックスを倒す必要はないってことになるね」
「それが分かっただけでも十分だよ」

 アリシアに支えられながらメイベルが起き上がる。たくさんのかすり傷を負ってしまったが、その表情にはまだ、闘志の炎がメラメラと燃え盛っていた。

「お母さんは下がってて。ここは私たちでやるから」
「そ、そんな……そんなのダメよ!」

 前を向いたまま呼びかけるメイベルに、セアラは必死に叫ぶ。

「あなたたちだけじゃ危険だわ。ここは私も……」
「どーせお母さんは、フェリックスに本気で攻撃なんてできないでしょ? さっきもヤケになって特攻を仕掛けようとしていた感じだったし」
「……っ!」
「やっぱり図星だったか。まぁ、今のお母さんらしい気はするけど」

 思わず反応だけで返事をしてしまったセアラに対し、メイベルは怒りや苛立ちを見せることもなく、ただ苦笑するばかりであった。

「――ゴチャゴチャ騒いでんじゃねぇ! 全員まとめてぶっ飛ばしてやる!」

 フェリックスが叫ぶと同時に、魔力のオーラが禍々しく吹き荒れる。彼の感情がそのまま具現化されているようにしか見えず、なんとも分かりやすいなぁと、マキトは思わず感心してしまうほどだった。

「覚悟しやがれ!」
「させない!」

 魔法を発動しようとしたフェリックスに、すかさずメイベルが魔法を放つ。その速度は間違いなく彼を越えており、攻撃は躱されたものの、発動は見事にキャンセルされたのだった。

「ラティ、フォレオ! 今だ!」
「はいなのです!」
『いっくよー』

 マキトの掛け声に、二匹の魔物たちは体を光らせる。ラティは背中に羽根を生やした大人の女性スタイルに。そしてフォレオは、立派な四足歩行の獣型へと、それぞれ姿を変えた。
 ラティとフォレオが、勇ましい表情とともにフェリックスへ立ち向かう。
 真正面から切り込むフォレオにフェリックスは魔法を放つ。それを直撃で受けてしまったフォレオだが、それは魔物たちによる作戦。フォレオと入れ替わるようにラティが躍り出て、小さな魔弾を数発連続で打ち込んでいく。
 乱射で一発でも命中させ、そこから更なる隙を生み出そうとしたのだった。
 しかし、その全ての魔弾をフェリックスは涼しい表情で躱してしまう。強化されたのは反射神経も含まれていたらしい。
 もっともそれは、全くの無意味ではない。それをメイベルはチャンスに変えた。
 躱しきったところを狙って、彼の足元に魔法を打ち込む。見事それがフェリックスの体制を崩し、その隙にフォレオが渾身の体当たりを繰り出し、彼を思いっ切り吹き飛ばすことに成功した。

「ぐぅ……っ!」

 胴体に鈍い痛みが襲い掛かるフェリックス。しかし致命傷には至らず、体制を大きく崩しながらも、しっかりと後方にいるセアラたちを捕らえていた。

「はぁっ!」

 フェリックスがセアラたちに向かって、魔弾を連続で数発解き放つ。ラティがやったのをやり返したかのようであり、まんまとラティたちをすり抜けた攻撃を許してしまう形となった。
 しかし――

「キューッ!」

 ロップルが防御強化を発動し、セアラへのダメージは無効化される。更にロップルの能力もまた、魔力スポットによって能力強化していた。
 今までは一発受ければ消えていた効果が、少しだけ継続するようになっており、続けて飛んできた魔弾も連続して無効化している。
 意表を突いたはずが、逆に意表を突かれる形となった。
 フェリックスが一瞬驚く様子を見せたが、それが立派な隙となった。

「――今!」

 ノーラが魔法を狙い撃ちする。完全にノーマーク状態であり、更なる意表を突かれる形となった。
 マキトと同じく非戦闘者だと思い込んでいたのが、仇となってしまった。
 しかもノーラの魔法は、普通の魔導師が扱う魔法とは違うことも、彼は全く知る由もなかった。
 ――ピシッ!
 放たれた魔法が微かに指輪をかすり、宝石にヒビが入る。
 その直後、フェリックスは体に異変が生じた。

「ぐわっ!」

 フェリックスは胸を抑えながら悶える。体の中に馴染んでいた何かが、急に暴れ出したのだった。
 指輪の赤い光が点滅しており、明らかに普通ではない。

「ま、まだまだあぁーーっ!」

 しかしフェリックスは、負けじと大量の魔力を一つの塊として生成していく。もはやそれは、気合いと根性で行っているに過ぎず、彼の中にちゃんとした意識があるかどうかすら怪しく見えてきた。
 早々に決着をつけないと、本当に彼が危険な状態に陥ってしまう。
 メイベルは瞬時にそう悟りつつ走り出した。

「ラティ、フォレオ! 援護して!」
「はいなのです!」
『おぉっ!』

 指示を受けたラティたちも、メイベルに続いて動き出す。
 フェリックスの頭上で生成された塊から、いくつもの魔弾が飛び出してくる。それを躱しつつ、ラティが魔力をたっぷりと込めた魔弾を撃ち込む。更にフォレオが魔弾に被せるように、大きな口から魔力のブレスを放つ。
 二つの魔力が強大な一つとなって、塊に命中。不安定な塊は暴発し、真っ白な煙幕となって周囲に広がった。

「ぐっ……な、何も見え……」

 胸を抑えながら、フェリックスは苦悶の表情を浮かべる。生成した魔力の塊が破壊され、更に体に負担が生じたのだ。
 すると白い煙の中から、スッと人影が現れる。

「今、楽にしてあげる」

 目の前にメイベルが現れた瞬間、周囲の時間の流れが遅くなった気がした。そして何故かその言葉だけは、しっかりとフェリックスの耳に届いていた。

「ふっ!」

 メイベルはフェリックスの装着している指輪を直接掴み、魔力による圧をかけて更にヒビを増やしていく。
 ――パキィンっ!
 とうとう指輪が粉々に砕け散った。同時に纏っていた力を失い、その反動がフェリックスに襲い掛かる。

「がああああぁぁぁーーーーっ!」

 体ごと意識が乱暴にかき混ぜられる感覚に陥り、フェリックスは絶叫する。そしてそのまま限界を超え、彼はそのまま意識を失いながら倒れてしまった。
 煙幕も晴れ、ようやく静かとなる。魔法具によるスプリンクラーの効果がようやく出てきたらしく、屋敷の炎上も大分収まってきていた。これ以上、余計な被害が広がる心配はない。

「終わった、のか?」

 マキトが戸惑いながら呟いたその時、ラティとフォレオの体が再び光り出す。それぞれ元の小さな姿へと戻り、そのままマキトの元に駆け寄ってきた。

「マスターッ!」
『ぼくたちかったよー♪』

 そして思いっきり真正面から抱き着いてきたのを、マキトは受け止めた。

「よしよし。よく頑張ってくれたな」

 優しく頭を撫でると、ラティとフォレオが気持ち良さそうにする。
 それを見ていたロップルとノーラが――

「キュウキュウ!」
「ん。ノーラも頑張った。マキトはご褒美に頭を撫でるべき」

 除け者にするなと言わんばかりにくっ付いてきた。その圧の強さに、マキトは思わず苦笑を浮かべてしまう。

「分かった分かった。撫でてやるから、ちょっと待てって」

 つい数分前まで緊迫した状況だったというのに、もう自分たちの楽しい世界に入り込んでいる。
 そんなマキトたちを、メイベルたちは微笑ましそうな表情で見守っていた。

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