透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第四章 本当の親子

145 魔物使いとしての姿

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「お疲れさま、メイベル」

 セアラが近づきながら、娘にねぎらいの言葉をかける。

「あなたも強くなっていたのね。母として、現当主として、誇りに思うわ」
「お母さん……」

 メイベルは思わず目を見開いていた。ここまで割と情けない姿や暴走している姿ばかり見ていたせいか、こうも真面目な上の立場らしい姿を見るのが、随分と新鮮に思えてならない。

(――いや、むしろコレこそが普通なんだよね)

 状況状況だからこそ、トップとしての姿を披露することは大切だろう。
 故にメイベルも、ここで自分が取るべき反応は、少なくとも娘として母に抱き着いたりすることではないと、そう思っていた。

「そんなことよりも、早く後処理を」
「えぇ。そうね」

 メイベルにそう進言されたセアラは、表情を引き締めながら頷き、後ろに控えている老執事のほうを振り向く。

「爺や。兵士たちとともに皆さんの介抱を。それから屋敷の鎮火の確認も急いで」
「はっ! 直ちに」

 威勢のいい返事とともに、老執事は即座に動き出す。
 意識を失っているフェリックスを老執事が抱えて運んでいき、兵士たちが屋敷の確認がてら、瓦礫の撤去を行っていく。
 あとは任せておけば大丈夫――メイベルはそう思っていたその時、なにやら断続的な音が鳴り響く。

「ゴメンなさい、通信が入ったみたいだわ」

 セアラが右手に装着している腕輪を軽く掲げ、光が淡く点滅している宝石のような部分に手をかざす。

「お待たせしました、セアラです」
『――私だ』

 腕輪から重々しい老人のような声が聞こえてきた。

『フェリックスの起こした騒ぎは、無事に阻止できたようだな』
「お父様……」

 セアラが軽く目を見開く。その言葉を聞いて、相手がメイベルの祖父なのだと、マキトたちも気づいた。

「はい。屋敷や使用人たちに多少の被害は出てしまいましたが、娘とその友人たちのおかげで、事なきを得ました」
『うむ。メイベルはそこにいるのか?』

 そう問いかけられたのが聞こえたメイベルは、セアラの元へ近づき、腕輪に向けて話しかける。

「おじい様、メイベルです」
『此度は多大な活躍をしたようだな。よくやった。これからも次期当主として、精進していくように』
「――はい!」

 お褒めの言葉をもらったメイベルは、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

『ディアドリーとフェリックスの二人は、もう好きにはさせん。あとの措置はお前たちに任せる。話は以上だ』

 言い終わると同時に、通信は一方的に切られてしまう。その結果に、メイベルはため息をつきながら苦笑していた。

「おじい様も相変わらずね。きっと私たちの様子も覗き見てたんだわ」
「……そうね」

 セアラも同じことを考え苦笑する。同時に少しだけ、娘にバレないよう顔を背けてしまった。
 今、恐らく自分は、寂しそうな表情を浮かべているだろうから、と。

(さっきの通信……お父様は私のことを見ていなかった)

 無論、それが自業自得であることは分かっている。今回は間違いなく自分の失態が招いたこと。それを自分で後始末することもできずに、結局はメイベルとマキトたちに全て押し付ける形となってしまった。
 ――やろうと思えばできた。あと少しの覚悟があれば自分にだって。
 そんな言い訳が頭の中に浮かび、セアラは自己嫌悪に陥る。
 見苦しいにも程がある。まるで叱ってくる親や先生に対して、小さな子供が必死に言いくるめようとしている姿ではないか。
 今、こうして寂しい気持ちになっているのも、何で娘ばかりという嫉妬心からくるものに過ぎない。
 お父様ことウォーレスは、間違いなく今回の様子を見ていたのだろう。
 戦いが終わってすぐに通信が入ったのがいい証拠だ。タイミングとしては、あまりにも出来過ぎている。一息ついて落ち着いたところを見計らった――そうとしか思えなかった。
 その理論が正しいとするならば、セアラのことも把握しているに違いない。
 彼女の失態も、そしてフェリックスとの戦いで、殆ど何もできず、ただ見ているしかできなかったことも。

(全て見ていたのだとしたら、お父様がそうするのも分かる。結果を出していない者を評価するなど、できるハズもないものね)

 ウォーレスが直接口には出したわけではなかったが、恐らく自分への評価も限りなく下がっただろうと、セアラは実感する。
 メイベルに期待の言葉をかけていたのがいい証拠だ。
 もっとも、それは正しいと言える。自分は当主に向いてなかったことぐらい、ちゃんと把握している。
 それでもセアラは当主の座で頑張り続けてきた。名家としての使命を果たそうとしたのも、伝統を守るためなどではない。
 実のところ、彼女は先代当主のこともどうだって良かったのだ。

(所詮は独りよがりの償い……だったのかしら?)

 セアラはチラリとアリシアを見る。駆け回る兵士たちに、体力回復のポーションをいくつか渡し、役立ててほしいと声をかけていた。
 屋敷の人々もすっかり彼女を受け入れていた。
 ずっと夢見てきた光景の一つであった。この時のために頑張ってきた――そういっても過言ではない。
 しかし、本当に望んでいるものは、果たして手に入るのだろうか。
 その不安は未だ尽きない。だが全く望みがないわけではない。わずかな可能性だろうと縋り続ける。
 そうでもしなければ、自分を保てるかどうかも自身がないから。

「アオオオォォーーーンッ!」

 するとその時、狼の遠吠えが聞こえてきた。セアラは我に返り、目を見開きながら周囲をキョロキョロと見渡す。
 それはマキトたちも、同じであった。

「――マスター!」

 ラティが指をさした先――表門の前に、狼の群れが集結していた。

「アイツら……あの狼たちだよな?」
「はいなのです。きっとあの屋敷を抜け出して来たのですよ!」

 呆然とするマキトに、ラティも狼たちを見つめながら頷く。
 即座に狼たちの元へ駆けていき、ラティとフォレオの通訳により、狼のリーダーが呼びかける形で、ディアドリーの屋敷からやって来たことが判明した。
 このまま残っていても始末されるだけ。ならば最後に、世話になった少年に少しでも恩返しができればというのが、狼たちの心からの気持ちだった。

「――そっか、俺たちを心配してきてくれたのか」
「ウォフッ♪」
「はは、ありがとうなー」

 話を聞いたマキトは、純粋に嬉しく思い、狼リーダーの頭を撫でる。他の狼たちも撫でてと言わんばかりに群がり、あっという間にマキトは、たくさんの狼で体が埋もれてしまった。

「……驚いたわ。狼の群れが、ここまで人に懐くだなんて」

 遠くからそれを見ていたメイベルは、信じられない気持ちでいっぱいであった。

「アリシアから聞いていたあの子の凄さってのが、少し分かった気がするよ」
「ふふっ、でしょー?」

 まるで自分のことのように喜ぶアリシア。それはもう完全に、可愛い弟を想う優しい姉の姿にしか、メイベルには見えないのだった。
 そして彼女たちも狼の元へ赴く。
 検査をする必要はあるが、狼たちは本家で引き取るよう、メイベルがセアラに進言したのだった。
 その言葉に反対する者はいなかった。
 護衛や警備を務める者たちも、今回の一件で多くが怪我人と化してしまい、回復するまでしばらくの休養を余儀なくされた。そこで代わりの警備役を用意しなければならなくなり、狼たちはうってつけの存在として見なされたのだった。
 ヒトよりも気配察知に優れ、なおかつ頭が良く逞しい狼たちに、老執事は指導のし甲斐があるとやる気を見せている。兵士の中にも獣好きが何人かおり、相棒として一緒に仕事がしたいという声がチラホラと出ていた。
 意外だったのがメイドたちの反応である。
 怖がるかと思いきや、可愛くてカッコイイという声が多かった。
 この広い名家の屋敷で働くだけあって、メイドも逞しい人たちが多いのだと、マキトたちは改めて実感する。

「これで狼たちも、悪いようにはされないよな」
「ん。これで一安心」

 狼やラティたちとじゃれ合いながら、笑顔を浮かべ合うマキトとノーラ。そこにユグラシアが歩いてきた。

「マキト君。今日は本当に大変だったわね。お疲れさま」

 そしてユグラシアは、マキトの頭にポンと優しく手を乗せた。

「こんなにもたくさんの狼さんを救っちゃうなんて、本当に凄いわね」
「いや、偶然こうなっただけだから」
「運も実力のうちよ。私もあなたの保護者として誇りに思うわ♪」

 優しく頭を撫でながら笑顔を見せるユグラシア。その表情はとても輝いていて、誰もが見惚れてしまうほどであり、男女問わず喜びないし照れの反応を示すことは容易に想像できる。
 しかしマキトの反応は、そのいずれでもない。純粋にきょとんとしながら首を傾げるばかりであった。

「……ほごしゃ?」
「えぇ。だって私の家で一緒に暮らしながら面倒見ているんだもの。私が保護しているという意味は十分成り立つわよ?」
「そっか……俺ってユグさんに保護されてたのか」
「そういうこと。ちなみに――」

 そしてユグラシアは両手を目いっぱい広げ、マキトごとラティたちやノーラも一緒に抱きしめる。

「魔物ちゃんたちやノーラもだからね。私の子供みたいなモノなんだから♪」
「ん。ユグラシア苦しい」
「ふやぁー、でも温かいのですぅ♪」
「キュウ♪」
『あったかー』

 反応はそれぞれ。しかし暖かい雰囲気は共通していた。その光景は周りを自然と笑顔にさせる。
 それはアリシアも例外ではないが――

(いいなぁ、あーゆーの……)

 彼女の場合は、どこか羨ましそうな表情と言ったほうが正しいだろう。実際、その気持ちは本人も自覚しており、むしろようやくちゃんと向き合えたような気さえしているほどだった。

(もう、いい加減に決着をつけないと……だよね)

 決意を固めたかのように、アリシアは表情を引き締めていた。

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