透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

161 ラティたちの反撃

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 受付嬢は唖然とする。ラティだけでなく、他の魔物たちもこぞって怒りを向けてきていることに、ようやく気付いた。
 しかし時すでに遅し――ラティたちの怒りは、もうとっくに爆発していた。

「わたしたちはちゃんと、こちらにいるマスターにテイムされたのですっ! ドラゴンちゃんは違いますけどマスターを慕ってるのです! 何も知らないくせに勝手なことを言わないでほしいのですっ!」
「キュウキュウッ!!」
『そーだそーだ! ますたーをわるくいうなーっ!』
「くきゅーっ!」

 魔物たちの反撃に、受付嬢は成す術もない。助けを求めようと周囲に視線を向けたことで、彼女はやっと気づく。
 周りから途轍もなく奇怪な視線を向けられていることに。

「スゲェな……あの魔物たちが、こぞってあの少年を庇ってるぞ」
「それだけ慕ってるってことなんだろうな」
「あのチビドラゴンも……テイムしてねぇのにやりやがる」
「アイツ、油断できねぇかもしれねぇぞ」
「人を見た目で判断するなってか……勉強になったぜ」

 冒険者たちのひそひそ声が聞こえてくる。視線はしっかりと集中しており、マキトたちには同情と感心を、そして受付嬢には軽蔑の類が向けられ、それは当の本人も強く感じていた。

「あ、あぁ……」

 一瞬にして転落していく感覚に陥る。このままここにいたら、自分は破滅するだけだと受付嬢は察する。
 少しでも最悪の事態を避けなければ――そう思った受付嬢の行動は早い。
 パパパッ、とテーブルの上の水晶玉を片付け、そして綺麗になったことを確認してマキトたちにバット頭を下げた。

「しっ……失礼しましたあああぁぁーーーっ!」

 そして叫びながらギルドの奥へと逃げ去ってしまうのだった。残されたテーブル席のマキトたちは、呆然としたままその方角を見る。

「何だったんだろうな?」
「さぁ? とりあえずマキトの結果が見れて、ノーラとしては満足♪」

 むふーと鼻息を鳴らすノーラに、マキトは思わず苦笑する。そこにラティが、頬を膨らませながら飛びあがった。

「――全く、マスターを疑うなんて、失礼しちゃうのです」
『ほんとだよねー!』

 フォレオに続き、ロップルや子ドラゴンも憤慨していた。その理由はもはや考えるまでもない。マキトは穏やかな表情で、魔物たちの頭を撫でていく。

「皆、俺を庇ってくれて、ありがとうな」

 それは、心からの気持ちだった。感謝を伝えずにはいられない――それぐらい嬉しくて仕方がなかった。
 すると魔物たちはきょとんとしながら顔を見合わせ、そして笑顔を浮かべ、マキトを見上げる。

「いいのですよ。わたしたちは当然のことをしたまでなのですから♪」
「キュウッ!」
『とーぜんとーぜん』
「くきゅ!」

 魔物たち皆が笑顔を向ける。マキトは普通に嬉しいと思うし、いつも一緒にいるノーラからすれば、微笑ましい限りである。
 しかし、ディオンを含む周りは、微笑ましくもあり驚きでもあった。
 ここまで魔物に慕われている魔物使いが、果たしてどれだけいるのだろうかと。
 珍しい魔物だからとか、そういう問題ではないことぐらい分かる。もしマキトがスライムなどのありふれた魔物しか連れていなかったとしても、恐らく同じような光景が見られただろう。
 果たしてそれは、マキトの人柄故なのか。それとも他に何かあるのか。
 いずれにしてもこのやり取りを経て、マキトに対する冒険者たちの評価が、大きく更新されたことは間違いない。

「でも、流石になんか疲れた感じがする」
「そうだな。今回ばかりは、俺も全くの同感だ」

 項垂れるマキトに、ディオンは空を仰ぎながら笑う。ずっと黙ってはいたが、実のところ彼もかなり苛立っていたのだ。

「勝手に驚き、勝手に疑われ、そして自分が不利になったかと思いきや、一方的に逃げ去ってしまう……受付嬢以前に人としてどうかと思うな」

 自分は女性だから多少のことは許される――それを悪い方向で捉えている典型的な姿に思えてならなかった。
 仕事柄、そういった女性の姿も、ディオンは何回か見てきている。
 大抵最後は何かしらの痛い目を見ることになり、あの受付嬢も恐らく例外ではないだろうと予測する。
 目撃者はたくさんいるのだ。そしてこのテーブル席には、魔法具による監視装置も備わっている。果たしてさっきの受付嬢は、それに気づいているのだろうか。

(まぁ、別に俺の知ったことではない話なんだがな)

 ディオンは目を閉じ、フッと小さく笑う。ここで考えたところで、何の意味もなさないと結論付けたのだった。
 そこに――

「ディオン? アンタいつの間に子供なんてできたワケ?」

 呆れたようなハスキーボイスが聞こえてきた。マキトたちが一斉に振り向くと、一人の女性がそこに立っていた。
 小さな角が頭の左右に生えており、魔人族であることが分かる。赤毛の長いポニーテールに、割とボディラインが出ている全身スーツ状の装いが特徴的で、とても活発そうな冒険者という雰囲気を醸し出していた。
 ディオンはその女性を見上げるなり、軽く驚きを交えた笑顔を見せる。

「やぁ、イライザ。やっと来たな」
「ずっと前からいたわよ。そしてしっかり見させていただきました。すっかり保護者めいたことしちゃってんじゃないのよ、アンタってば」
「ハハッ、耳が痛いな……っと、スマンスマン」

 ディオンは目を丸くしているマキトたちに気づき、申し訳なさそうに苦笑する。

「紹介するよ。彼女はイライザ。俺と同じ魔人族でドラゴンライダーさ」
「どうもー♪」

 イライザと呼ばれた女性は、手をヒラヒラとかざしながらニカッと笑う。

「キミがディオンの話していた魔物使いくんだね? マキト君、だったかな?」
「え? あ、は、はい……」
「そっかそっか。ちなみにあたしに対しても敬語はいらないからね。遠慮せずにため口で話してくれたまえ」
「あ、えっと……うん、分かった」
「よろしい。あ、勿論そっちの子たちもね」

 満足そうにイライザが笑い、ノーラたちにも同じようにしてくれと促す。その勢いに付いて来れておらず、コクコクと頷くことしかできなかったが、イライザは嬉しそうであった。

「あたしの同僚がすっかりお世話になってるようで、本当にありがとうねー」
「おいおい。その言い方はないだろう?」
「別に間違ってはないでしょ」

 笑いながら言ってのけるイライザは、ディオンよりも五歳以上年下だ。しかし、彼とは対等の立場を保てるほどの実力者であり、冒険者ギルドでもイライザの名はかなり知られているほうなのだ。

「さてと……無事に合流もできたことだし、場所を変えて話そうか?」
「あぁ。そうしよう」

 ディオンは立ち上がりながら頷く。そしてマキトたちを連れて、冒険者ギルドを後にするのだった。
 それからしばらくの間、ロビーは彼らの話でもちきりとなっていた。
 ついでに――ギルドの奥から怒鳴り声と、受付嬢らしき女性の間抜けな叫び声が聞こえてきたが、それは皆揃って聞かなかったことにした。

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