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第五章 迷子のドラゴン
162 二人のドラゴンライダー
しおりを挟むイライザに連れられて、裏路地の小さな食事処へやって来たマキトたち。夕食を兼ねて子ドラゴンについてのことを話し合うことになったのだ。
そこも魔物同伴での食事が可能であり、ラティたちも無理なく店に入れていた。
「うんまぁ~い♪」
「ん、んっ!」
久しぶりとなるちゃんとした料理に、マキトとノーラは目を輝かせ、一心不乱に食べ続けている。普段は魔物たちのほうが食べるのに夢中となり、マキトたちがその面倒を見ることが多いため、逆パターンは珍しかった。
それ故に、引率者であるディオンでさえも、今の状況は少し驚いていた。
「はは……なんだかんだで、年相応な部分もあるってことか」
「当たり前でしょ。むしろそれがないほうが問題だわ」
「確かに」
ごもっともなイライザからの指摘を、ディオンは素直に認める。
「旅をしている間は、基本的にずっと野営だったからな」
「村や町には寄らなかったの?」
「物資の調達とか、本当に最低限の滞在に留めてた。竜の子供の存在を、あまり大っぴらにしたくないからな」
「……まだ、狙われているってこと?」
小声とともに顔を近づけてくるイライザに、ディオンは表情を引き締め頷く。
「恐らく盗賊たちは、まだ諦めていないだろう。そのために遠い距離を、再び引き返すように行動しているらしい」
「それも、ディオンたちの進行ルートに沿うような形で、だよね?」
「あぁ」
ディオンとイライザの視線が、子ドラゴンに向けられている。ちょうど一口サイズの木の実を口の中に入れ、甘酸っぱい味を心から幸せそうな笑顔で堪能しているところであった。
「あの竜のおチビちゃん、マキト君がテイムしちゃえばいいんじゃないの?」
「それができれば、手っ取り早いんだがな……」
イライザの疑問はもっともだと思いつつ、ディオンは頭を抱える。そしてマキトの事情を軽く話すと、イライザは怪訝そうな表情を浮かべた。
「――何それ?」
「信じられないだろうが事実だ。俺も未だに納得はしていない」
何故かスライムなど普通の魔物はテイムできず、妖精や霊獣といった、精霊を司る魔物はすぐにテイムできる。子ドラゴンも例外ではなく、旅の途中で何度か試してはみたが、無理だったことも明かされた。
ここに来て冗談でも言っているのかとイライザは思う。しかしディオンの真剣な表情が、そうではないということを嫌でも理解させられてしまう。
なによりディオンは、そんなつまらないことを言うような男ではない。
それは誰よりも自分が理解していることだと、イライザは自信を持って言えた。故に受け入れるしかないのだと、判断せざるを得ない。
「マキト君……マジで何者なのかしら?」
「さぁな。それこそ、俺にもよく分からんよ」
「何日も一緒に旅してるのに?」
「だからこそ、と言うべきかもしれん」
「何それ?」
「それが分かれば、お互いにこうして疑問に思うこともないだろうさ」
「むぅ……言ってること分かんないのに何も言い返せない」
平然と肩をすくめるディオンに、イライザは口を尖らせる。しかしすぐに二人揃って笑みを浮かべ合った。
そんなどこまでも自然なやり取りを、ジッと注目している者がいた。
「――うわっ?」
ノーラが無言でジッと見つめてきていることに気づき、イライザは思わず声を上げながら仰け反りそうになる。しかしノーラはそれに構うことなく、無表情のままディオンとイライザの二人を凝視していた。
そして数秒後、小さな口を動かす。
「ふたりはラブラブな関係?」
一言、そう尋ねてきた。するとイライザが急激に顔を真っ赤に染まらせ、勢いよく立ち上がりながら、激しく慌てふためく。
「な、なななな何言ってんのよ、ノーラちゃんっ! そ、そんなワケが……」
「違う違う。俺とイライザはそーゆーのじゃないから」
しかしディオンはどこまでも冷静に、なおかつ穏やかな笑顔で否定してきた。その瞬間、慌てていたイライザの表情がスーッと落ち着きを取り戻し、やがて半目を伴う無表情と化していった。
「……何よアンタ? 少しくらいは照れてもいいんじゃないのかね?」
「別に照れる理由はないだろう」
これもまた、しれっと冷静に答えたものであった。そんなディオンの反応に、イライザは何故か苛立ちを抑えきれず、頬を思いっ切り膨らませる。
「何さ何さ! 澄ました笑顔しやがってさ! そんなんじゃアワアワしていたあたしがバカみたいじゃんかー!」
「いや、違うもんは違うとしか言いようがなかっただけだよ」
「それはそうかもしれないけどさー!」
どこまでも淡々と応対するディオンに、イライザは不満を募らせる。確かに怒ってはいるのだろうが、それは嫌悪というより甘えのほうが強い。
ノーラは二人をの様子を見比べ、首を傾げていた。
いつも自分がマキトに接する態度となんとなく似ているように思えていたが、それとはまた少し違うような気もしていたのだ。
とりあえずノーラは、これだけは確認しておこうと思った。
「――で? ラブラブな関係じゃないの?」
「だから違うって」
ディオンがすぐさま否定する。そこまであっさりなのかと、イライザが不貞腐れそうになったその時、ディオンは笑みを深めた。
「イライザはあくまで、俺の可愛くて大切な、頼れる素晴らしい後輩だよ」
「なっ……っ!」
再び顔を真っ赤にするイライザ。見事な不意打ちを喰らってしまい、何か言葉を発したいのに、上手く喉の奥から出てこない。
結局、慌てふためきながら、口をパクパクと動かすことしかできなかった。
そしてその視線は、ノーラに向けられている。果たして彼女は、それに対してどんな反応を示すのだろうか、と。
ニヤリと笑いながら、「やっぱりラブラブ」とでもからかってくるのだろうか。もしかしたら説教をするかもしれない。「大切に思っているのなら、ちゃんと恋愛的に見なきゃダメ!」と言う姿が浮かんでくるようだった。ああ見えて、年頃の女の子らしい一面を持っている可能性こそあるだろうと。
いずれにせよ、イライザからしてみれば、公開処刑じみた展開に変わりはなく、これから自分はどうなるのだと、そんな不安が押し寄せてきている。
ふとここで彼女は、この場にいる他の子たちの存在を改めて思い出した。
子供は何気に目ざとい。今のやり取りの一部始終を、無言でしっかりと見ている可能性はあるだろう。
そう思いながらイライザは、真っ赤な顔のまま、恐る恐る視線を向けてみた。
すると――
「くきゅくきゅーっ!」
「え? もっと食べたいってのか?」
「くきゅっ」
「分かった分かった。食べ過ぎには気をつけろよー」
肉料理に夢中となっている子ドラゴンを、マキトが苦笑しながら宥めていた。
そして――
「キュウキュウッ!」
『それはぼくがとっておいたのー!』
「あぁもう! まだ残ってるから、ケンカは止めるのですーっ!」
デザートに出されたフルーツの取り合いをするロップルとフォレオを、ラティが声を上げながら仲裁していた。
早い話が、マキトたちは誰もイライザとディオンのほうを見ていない。
今しがた展開されていた話題は、何一つ聞いている様子もなく、彼女の視線に気づいたマキトは、きょとんとした表情で振り向いた。
「……何? どうかしたの?」
「いや、なんでもないわ」
ため息交じりに視線を逸らすイライザに、マキトは首を傾げる。そしてノーラも話題に興味をなくしたらしく、騒いでいる魔物たちのほうに戻っていった。
マキトも再び魔物たちのほうに視線を戻し、それ以上何かを問いかけてくることはなかった。
「はぁ……なんか変な形で話が中断されちゃったわね」
疲れたようにため息をつくイライザに、ディオンがニヤッと笑う。
「今の話を続けたかったのか?」
「まさか! むしろ解放されて清々してるわよ」
肩をすくめるイライザは、ディオンの問いかけを軽く流す。これ以上不毛な言い合いをするつもりはないという意思表示であった。
気が付いたら二人とも、ジョッキの中が空っぽになっていた。
ウェイターに追加注文を済ませ、白い泡が零れそうなジョッキが運ばれる。冷えたそれを二人で喉に流し込み、染み渡る冷たさを改めて体中で味わう。
程よい満足感を堪能したところで、イライザは一つ思い出したことがあった。
「そうそう、ディオン。一つ話しておきたいことがあるんだけど――」
軽く周囲を見渡しつつ、声を小さくして顔を寄せてくるイライザに、ディオンも何かしらを察し、注意深く耳を傾ける。
「数日前、人間族の盗賊が集団で、オランジェ王国に侵入したらしいのよ」
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