透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第五章 迷子のドラゴン

163 突入!オランジェ王国

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「なんだと……?」

 ディオンの表情が険しくなる。そして続きを話せという無言の圧をかけ、イライザはそれを受け、静かにコクリと頷いた。

「あくまで、他の冒険者たちから仕入れた情報なんだけどね――」

 人間族の盗賊集団が、オランジェ王国の国境を越えた。問題はその集団が、数週間前にもオランジェ王国から出てくる場面を目撃されている点である。
 要するにその盗賊たちは、一旦オランジェ王国を去ったにもかかわらず、程なくして戻ってきた形を取っているのだ。わき目も降らず、大切な忘れ物を取りに戻るような行動を集団で取る――それがなんとも奇妙に見えてしまう。
 それが、イライザの中でまとめ上げた情報であった。

「今のところ事件性はないらしいんだけど、あたしもちょっと気になってね」

 イライザの視線が、子ドラゴンのほうに向けられる。お腹いっぱいになって満足そうな笑顔を浮かべており、マキトが微笑ましい表情を浮かべ、その体を優しく撫でているところだった。

「あのドラゴンちゃんの件と無関係だと思う?」
「そう判断できなくもないが……いささか苦しいところだな」
「やっぱりそう思うよねぇ」

 ディオンとイライザが小さく頷き合う。
 盗賊たちの再入国と、子ドラゴンの一件は大きく関係している――そう捉えたほうが自然だと、お互いに思っていることが分かった形だ。

「念のために一つ聞くけどさ――」

 イライザが人差し指をピッと立てながら切り出す。

「ここ数日の旅とやらで、あのドラゴンちゃんが狙われたってことは?」
「いや、なかった。本当に平和なもんだったよ」

 結果だけ見れば喜ばしいことだが、ディオンの表情は重々しい。あからさまに納得できていないと言わんばかりであった。

「だからこそ怖いところだな」
「嵐の前の静けさ的な?」
「そんな感じだ」

 察してくれて助かるという気持ちを込めて、ディオンは大きく頷いた。

「いずれにせよ、いい情報だった。提供してくれて感謝する」
「フフッ、仲間として、当然のことをしただけよ」
「そうか」

 ディオンが小さく笑いつつ、そしてジョッキの中身を一気に飲み干していく。そしてゴトンと重々しい音をテーブルから鳴り響かせたところで、はたと思い出したような反応を見せた。

「――ところでイライザ」
「んー?」
「さっきお前、ノーラから何か言われた時、顔を真っ赤にしてたようだったが?」
「余計なことを思い出すんじゃない!」

 つまみの煎り豆が一粒、ディオンの脳天に直撃した。流石に突然過ぎて驚きを隠せない彼の前では、イライザが顔を真っ赤にして息を乱していたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝――マキトたちはイライザと別れ、旅立った。
 別れ際にイライザとディオンが軽く話していた際に、イライザが顔を真っ赤にして何かを叫んでいたが、その詳細をマキトたちが知ることはなかった。
 ディオンがはぐらかしたというのもあるが、それ以上にマキトたちが興味を示さなかったからだ。子ドラゴンの故郷が目の前まで来ている――そっちのほうが気になって仕方がない様子を見せていた。
 マキトたちらしい反応だと思いながらも、少しだけ助かったとイライザが思ったのはここだけの話である。
 それから大きなトラブルもなく、マキトたちはオランジェ王国に突入した。

「へぇ、これがオランジェ王国の平原か」

 獣姿のフォレオにまたがって疾走しながら、マキトは周囲の景色を見渡す。

「なんてゆーか……今までの平原とは、全然違う感じがする」
「雰囲気が新しいのです」
「ん。それだけノーラたちが、遠くまで来たということ」

 ラティやノーラも物珍しそうに周囲を見渡している。ロップルも興味津々と言わんばかりにキョロキョロとしており、顔は見えないが恐らくフォレオも似たような感じなのだろうと、マキトはほくそ笑んでいた。
 すると――

「くきゅきゅー、くきゅくきゅーっ♪」

 子ドラゴンのご機嫌な鳴き声が聞こえてきた。慣れ親しんだ空気が、自然と元気を湧き上がらせているのだ。
 その姿は、並行して走っているマキトたちをも笑顔にさせる。

「やっぱり故郷が一番いいんだな」
「ん。遠い距離を連れてきて正解だった」
「ここまで来たら、絶対にあの子をお父さんたちの元へ帰してあげるのです!」
「キュウッ!」
『それしかないよねー!』

 マキトとノーラ、そして魔物たちの気持ちが、改めて一つとなった。
 異変が起きている以上、何が起こったとしても不思議じゃない――ディオンからそう言われたことをマキトは思い出す。
 楽しみながらも油断はしない。全ては子ドラゴンを親元へ帰すために。
 まだ故郷の大陸に足を踏み入れただけだというのに、ここまで踊るように喜んでいるのだ。あと一歩というところで悲しませるようなことだけは、何が何でも避けなければならない。

「それにしても……」

 マキトは改めて、周囲を注意深く見渡した。

「景色だけじゃなくて、住んでる魔物も明らかに違うもんなー、ここ」

 キラータイガーを細く大きく狂暴化したようなストロングパンサー。他にも巨大な熊の魔物や、ドロドロに溶けたようなスライムなど、狂暴な肉食系の魔物が非常に多く確認できるのが、オランジェ王国の大きな特徴であった。
 現に少し見渡しただけでも、チラホラとその姿が確認できるほどだ。

「国境を越えただけで、こうも変わるもんなのか」
「ん。ノーラも本で読んだことはあるけど、まさかここまでとは思わなかった」

 マキトたちの場合、国境を越えたこと自体、今回が初めてである。
 国が違えば生息する魔物も違う――それを実際に目の当たりにした今、素直に驚かずにはいられなかった。
 森と平原の違いなど些細なことだと、そう思えてしまうほどだった。

「気をつけないと、あっという間に襲い掛かって来るかもなのです」
「だな」

 ラティの言うとおりかもしれないと、マキトは顔をしかめる。

(野生の魔物との戦いもできる限り避けろって、ディオンさんも言ってたし)

 確かにラティたちは、日々の特訓と魔力スポットの効果も相まって、着々と力を増してきている。しかし実戦経験はそれほど多くない。もし狂暴な大型肉食系の魔物が襲い掛かってきたとしても、果たして冷静に対処できるかどうか――その保証がないことも確かであった。

(余計なことをして、チビスケを送り届けられなくなるってことだけは、絶対に避けなきゃだし……そういえば!)

 マキトはふと気になり、今乗っているふさふさな毛並みの背中を撫でる。

「フォレオ、調子はどうだ?」
『うん。ぜんぜんだいじょうぶー! でも、きゅうにどうしたの?』
「この国に入って、急に感じが変わってきたからな。色々とビックリして力が出てないんじゃないかと思って、ちょっと心配になったんだ」
『むー! ますたーひどーい! ぼくをばかにしないでよー!』
「悪い悪い。大丈夫なら良かったよ」

 背中を優しく撫でながら苦笑するマキト。しかしフォレオは満足しておらず、むしろ苛立ちが増したのか、走る力が少し強くなった。

『しんじてないなー? だったらいまから、ぼくがしょうこをみせてあげるよ!』

 フォレオはそう宣言した。一体何をするつもりなのかと尋ねようとしたその時、走る速度が少しだけ弱まってきていた。
 そして――

「グワオオオオオォォォォーーーーーッ!」

 前方に向けて凄まじい雄叫びが放たれたのだった。

「なっ……」

 マキトは思わず息を飲む。ノーラやラティたち、そして子ドラゴンも、急に何事かと言わんばかりに呆然としてしまう。

「見て、マキト」

 ノーラが何かに気づき、前方を指さした。

「近くにいた魔物たちが逃げてく」
「……ホントだ」

 目を凝らしてみると、確かに一目散に逃げていく姿があちこちで確認できる。そしてフォレオの走るスピードも元に戻った。

『どーお、ますたー? ぼくのきあいもすごいでしょー♪』

 走りながら誇らしげに言うフォレオ。それに対してマキトは、表情を引きつらせることしかできなかった。

「あぁ、凄いな」
「周りの魔物さんたちが驚いて襲ってこなくて、ホント良かったのです」
『え、なになにー? なんのはなし?』
「「…………」」

 マキトとラティは言葉を失う。本当にただ気合いを見せただけで、魔物たちを追い払ったのは、たまたまの結果だったということか。
 するとそこに、大きなドラゴンがマキトたちの元に降りてくる。

「おーい、さっきのは何だったんだ? 凄い雄叫びだったようだが?」

 ディオンが心配して様子を見に来てくれたようであった。
 とりあえずフォレオは全然大丈夫そうだと思いつつ、ディオンにどう説明したものかと、マキトは頭を悩ませるのだった。

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