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家族がいて友達がいて
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「大叔父さんの葬式?」
朝食を食べながら聞かされた話は、あまりにもピンと来ないものだった。
「そう、詳しく言うと蒼の父方のおじいちゃんの妹の旦那さん、ね。昨日亡くなったからお通夜とお葬式に行ってくるわ」
「姉ちゃんと俺は行かなくていいの?」
「翆も蒼も、大叔父さんのことも大叔母さんのことも知らないでしょ。泊まってくるから翆と一緒に留守番してて」
知らないも何も、そんな存在今初めて聞かされたのだ。そもそも蒼の祖父でさえ彼が小学生の頃に亡くなったのだ。祖父に妹がいたなんて知る由もない。
(そういえば、じいちゃんには弟もいたような気がするけど生きてるのかな? そっちも会ったことないからよく分からん)
蒼は首を傾げながらご飯をかき込んだ。
「分かった。明日休みだし、友達家に呼んで泊まってもらってもいい? こないだから約束してたんだ」
「みっちゃんも一緒? ならいいけど」
「充も誘うよ。でも分かんない。あいつまた彼女出来たらしいし」
「みっちゃんモテるもんねぇ」
母・美穂子がほぅ、と息をつきながら言う。美穂子は蒼が充を初めて家に連れて来た時に『あら将来楽しみなイケメンね~』と恥ずかしげもなく本人に向かって言っていた。充は蒼の友人の中でも別格中の別格でこの家の女性陣のお気に入りだ。充が来ると前もって分かっていると、用意されるお菓子もランクが上がるし、夕飯もえらく手の込んだものが出て来る。しかも「いつも蒼がお世話になっているから」と、充の親宛に手土産まで持たせる始末。そのせいか充の母と美穂子は子供抜きでも仲がいい。十年前からの知り合いだから、というのもあるが。
末永家の母姉双方をあっさりと手なづけた男恐るべし、と、当時の蒼は幼心に思ったものだ。
「それは俺がモテないと言いたいの?」
「被害妄想はいかんぞ、蒼」
誰の口調を真似しているのか知らないが、美穂子が声を低くして言った。そのすぐ後に声色を戻し、
「いつか蒼にも『この人じゃなきゃ!』っていう大事な人が出来るわよ、きっと! お父さんとお母さんみたいにね」
と、ニヤニヤしながらのろけてきたので、蒼は一言「キモイ」と言い捨てた。
「蒼、今日友達呼ぶのぉ?」
翆があくびをしながらリビングに入ってきた。長い髪に少し寝ぐせをつけたまま、女子の間で人気があるというブランドのもこもこしたルームウェアを着ている。ショートパンツから伸びる脚は蒼よりも長くてまっすぐだ。身長も蒼より高い。そもそも末永家は割と背が高い家系で、父も一八〇センチ近くあるし、母も一六八センチ。姉に至っては一七二センチのモデル体型で、町でスカウトされたこともあるほどだ。絶世の美女というわけではないが、コケティッシュで愛嬌のあるタイプなのが逆にいいのか、彼氏が途切れたことがほとんどない。
この家では蒼だけが突然変異のように背が低い。牛乳もパックごと飲んだし、バスケもなわとびも――背が伸びると言われているものは一通り試してはみたが、効果はなかった。翆は「蒼はそれでもいいのよ。可愛い私の弟。だーいすき」と、語尾にハートマークをつけながらいつも抱きしめてくれる。「弟を私色に染めるの楽しすぎ!」と言っては蒼の服を買って来るのも翆の役目だ。曰く「蒼のコーディネートは私のライフワーク!」だそうだ。父も母も息子を箱入り娘同然に大切にしてくれる。
蒼は家族の愛情過多を少しだけ恥ずかしいと思いながらも、だからこそ自分の状況に卑屈にならずにいられることをちゃんと分かっていた。
「みっちゃんが来るなら呼んでもいいよぉ、友達」
と、母とまったく同じことをもう一つあくびをしながら言う翆。
(二人ともどんだけ充を気に入ってるんだよ)
やれやれと麦茶を飲みながら、
「凪と涼真だよ。姉ちゃん会ったことあるだろ?」
蒼が言った。
「あぁ~、あのちまこいのと人畜無害のね。まぁ、あの子たちならいいわ」
“ちまこい”のが相島凪で、“人畜無害”なのが名良橋涼真だ。凪は蒼と変わらない身長で可愛らしい雰囲気を持っているが、見た目に反していろいろな面で強い。涼真は充と同じくらいの背丈でいつもニコニコしていて何事にも動じない。二人とは高校に入ってから知り合ったのだが、ゲームが趣味ということで蒼と気が合い、更には凪と充が小中学生の頃同じ空手道場に通っていたことで顔見知りだったこともあり、四人でつるむようになった。
「大体、どうして友達を呼ぶのに姉ちゃんの許可がいるんだよ。俺の友達なんだからいいだろ?」
「ん~、だって私の大事な大事な蒼の部屋に変なヤツなんて入れたくないもの」
「はいはい、分かったよ。俺、腹痛いからトイレ行って来る!」
翆には何を言っても無駄だと分かっているので、蒼もこれ以上の深追いはしない。凪と涼真を呼ぶことにOKをもらっただけでもよしとした。
「行く行く! 僕【ファイナルチェイサー3】買ったから持ってく!」
学校へ着くや否や、今日泊まりに来ないかと誘ってみたところ、凪は目を輝かせて身を乗り出した。新作のゲームを手に入れたばかりで、早く協力プレイをしたくて仕方がなかったらしい。
「俺は【超戦国ファイター】買ったよ」
「涼真マジで? 俺それ買おうか悩んでた! やりたい!」
「いいよ、持って行くよ」
「おまえたちほんとゲーマーだな」
蒼の隣でため息をつく充。彼はゲームにはほとんど興味がない。つきあい程度には参戦してくれるのだが、これがまた結構強いから蒼にとっては非常に腹立たしい。同じように思っている凪が手をシッシッと振り、
「んじゃ、みっつんは来なくていいよ~」
そっけなく言った。【みっつん】とは凪限定の充のあだ名だ。二人が空手道場に通っていた頃、凪自らが命名したらしい。
「あーダメダメ! 充が来ないと姉ちゃんに怒られる」
「え、蒼の姉さんは充が好きなの?」
蒼が慌てて口を挟むと、涼真が首を傾げて尋ねた。
「そんなんじゃないよ、姉ちゃん彼氏いるし。でも気に入ってることは確か。こいつうちの母さんと姉ちゃんに超気に入られてんの。年上キラーなんだよ」
「俺、品行方正だからな~」
充はフフンと自慢気に笑った。蒼と凪がジト目で充を睨む。
「自分で言うなよ充」
その時、涼真が突然身を乗り出し、蒼の目の前で鼻を鳴らした。
「なぁ蒼、香水か何かつけてる?」
「え、つけてないけど」
「ほんのりいい匂いする。すごく近づかないと分からないけど」
涼真が言い出したことに、充が頷き、
「おまえも気づいた? 甘い匂いするよな?」
昨日のように蒼の後頭部を嗅ぐ。
「充がそう言うから昨日シャンプー見てみたけどさ、いつものと同じだったんだよなぁ」
蒼は思わずくんくんと自分の匂いをあちこち嗅いでしまった。
「洗濯の洗剤とか柔軟剤じゃないの? 最近匂い重視のやつとか結構あるし。あれもあまりに使い過ぎると公害なんだよねぇ」
「凪おまえよく知ってるな」
充が感心したように言う。
「だって僕洗濯とかするし」
今時男だって家事くらい出来なきゃダメだからね? と、凪がにっこり笑って言う。妙に説得力のある態度に、
「おまえのその笑顔怖ぇよ、凪……」
蒼が軽くたじろいだ。充はかぶりを振りながら、
「んー……でも服じゃないんだよな……」
ごくごく小さな声で呟いた。そしてやおら立ち上がり、制服のポケットから携帯電話を取り出しながら席を離れていく。
「おーい、充! どこ行くんだよ?」
「ちょっと彼女に電話ー」
充は携帯をいじりながら、空いている手をひらひらと振って教室を出て行った。
「何あれいきなり彼女って! 意味分かんない」
「羨ましそうに言うなよ凪」
涼真が凪の肩をぽんぽんと叩く。
「羨ましくないよ。僕彼女いるも~ん」
そうなのだ。この翆曰く“ちまこい”凪には年上の彼女がいる。蒼たちも何度か会ったことがあるが、目の覚めるような美人でそれこそ鳴海の隣が似合いそうな雰囲気を持っている大学生だ。そんな大人っぽい美女が凪にメロメロだというのだから、世の中分からないものだ。
(普段は小悪魔みたいな態度取るくせに、彼女といる時の凪ってすげぇ可愛くて幸せそうなんだよなぁ)
目の前で拗ねながら次の授業の用意をする凪を眺めながら、蒼は思った。
ちなみに涼真には彼女はいない――が、つい二ヶ月前までは同い年の子と遠距離恋愛をしていたので、同じ彼女いない者同士でも蒼とは全然違う。涼真の彼女は今年の春に父親の仕事の都合で海外に越してしまったのだ。離れ離れになってからしばらくは遠距離恋愛をしていたのだが、彼女に現地の日本語学校で好きな人が出来てしまい、別れを切り出されたという。
「まぁ、高校生で遠距離恋愛なんて滅多に続くもんじゃないよね」と、涼真は言っていた。
(みんなちゃんとリア充してるよなぁ~)
蒼が頬杖をついてしみじみ思っていると、右側が急に暗くなった。
「?」
見ると、またしても鳴海が壁のように立ちはだかっていた。蒼にだけ無表情──は相変わらずだと感じたが、どことなくいつもとは違う雰囲気が漂っていた。
蒼はふと昨日ことを思い出した。今度鳴海がこうしてきたら「俺のことが気に入らないのならはっきり言え」と言ってやろうと決意したことを。
(よし言う)
「あのさ鳴海、俺のことが──」
「ちょっといいかな?」
蒼の決意を遮り、鳴海が切り出した。
(喋った。鳴海が喋った!)
これが蒼と鳴海の、ほぼ初会話だった。
「え? あ? 俺に用?」
突然の新展開に口調がしどろもどろになってしまった。鳴海は動じることなく頷き、教室のドアを指差した。場所を変えたい、ということだろうか。鳴海は風紀委員であるのだしフルボッコにされることはないだろう。蒼はそう考え、
「いいよ、行こう」
と、立ち上がった。その様子を凪と凉真だけではなく、クラス中が不思議そうに見ていた。
朝食を食べながら聞かされた話は、あまりにもピンと来ないものだった。
「そう、詳しく言うと蒼の父方のおじいちゃんの妹の旦那さん、ね。昨日亡くなったからお通夜とお葬式に行ってくるわ」
「姉ちゃんと俺は行かなくていいの?」
「翆も蒼も、大叔父さんのことも大叔母さんのことも知らないでしょ。泊まってくるから翆と一緒に留守番してて」
知らないも何も、そんな存在今初めて聞かされたのだ。そもそも蒼の祖父でさえ彼が小学生の頃に亡くなったのだ。祖父に妹がいたなんて知る由もない。
(そういえば、じいちゃんには弟もいたような気がするけど生きてるのかな? そっちも会ったことないからよく分からん)
蒼は首を傾げながらご飯をかき込んだ。
「分かった。明日休みだし、友達家に呼んで泊まってもらってもいい? こないだから約束してたんだ」
「みっちゃんも一緒? ならいいけど」
「充も誘うよ。でも分かんない。あいつまた彼女出来たらしいし」
「みっちゃんモテるもんねぇ」
母・美穂子がほぅ、と息をつきながら言う。美穂子は蒼が充を初めて家に連れて来た時に『あら将来楽しみなイケメンね~』と恥ずかしげもなく本人に向かって言っていた。充は蒼の友人の中でも別格中の別格でこの家の女性陣のお気に入りだ。充が来ると前もって分かっていると、用意されるお菓子もランクが上がるし、夕飯もえらく手の込んだものが出て来る。しかも「いつも蒼がお世話になっているから」と、充の親宛に手土産まで持たせる始末。そのせいか充の母と美穂子は子供抜きでも仲がいい。十年前からの知り合いだから、というのもあるが。
末永家の母姉双方をあっさりと手なづけた男恐るべし、と、当時の蒼は幼心に思ったものだ。
「それは俺がモテないと言いたいの?」
「被害妄想はいかんぞ、蒼」
誰の口調を真似しているのか知らないが、美穂子が声を低くして言った。そのすぐ後に声色を戻し、
「いつか蒼にも『この人じゃなきゃ!』っていう大事な人が出来るわよ、きっと! お父さんとお母さんみたいにね」
と、ニヤニヤしながらのろけてきたので、蒼は一言「キモイ」と言い捨てた。
「蒼、今日友達呼ぶのぉ?」
翆があくびをしながらリビングに入ってきた。長い髪に少し寝ぐせをつけたまま、女子の間で人気があるというブランドのもこもこしたルームウェアを着ている。ショートパンツから伸びる脚は蒼よりも長くてまっすぐだ。身長も蒼より高い。そもそも末永家は割と背が高い家系で、父も一八〇センチ近くあるし、母も一六八センチ。姉に至っては一七二センチのモデル体型で、町でスカウトされたこともあるほどだ。絶世の美女というわけではないが、コケティッシュで愛嬌のあるタイプなのが逆にいいのか、彼氏が途切れたことがほとんどない。
この家では蒼だけが突然変異のように背が低い。牛乳もパックごと飲んだし、バスケもなわとびも――背が伸びると言われているものは一通り試してはみたが、効果はなかった。翆は「蒼はそれでもいいのよ。可愛い私の弟。だーいすき」と、語尾にハートマークをつけながらいつも抱きしめてくれる。「弟を私色に染めるの楽しすぎ!」と言っては蒼の服を買って来るのも翆の役目だ。曰く「蒼のコーディネートは私のライフワーク!」だそうだ。父も母も息子を箱入り娘同然に大切にしてくれる。
蒼は家族の愛情過多を少しだけ恥ずかしいと思いながらも、だからこそ自分の状況に卑屈にならずにいられることをちゃんと分かっていた。
「みっちゃんが来るなら呼んでもいいよぉ、友達」
と、母とまったく同じことをもう一つあくびをしながら言う翆。
(二人ともどんだけ充を気に入ってるんだよ)
やれやれと麦茶を飲みながら、
「凪と涼真だよ。姉ちゃん会ったことあるだろ?」
蒼が言った。
「あぁ~、あのちまこいのと人畜無害のね。まぁ、あの子たちならいいわ」
“ちまこい”のが相島凪で、“人畜無害”なのが名良橋涼真だ。凪は蒼と変わらない身長で可愛らしい雰囲気を持っているが、見た目に反していろいろな面で強い。涼真は充と同じくらいの背丈でいつもニコニコしていて何事にも動じない。二人とは高校に入ってから知り合ったのだが、ゲームが趣味ということで蒼と気が合い、更には凪と充が小中学生の頃同じ空手道場に通っていたことで顔見知りだったこともあり、四人でつるむようになった。
「大体、どうして友達を呼ぶのに姉ちゃんの許可がいるんだよ。俺の友達なんだからいいだろ?」
「ん~、だって私の大事な大事な蒼の部屋に変なヤツなんて入れたくないもの」
「はいはい、分かったよ。俺、腹痛いからトイレ行って来る!」
翆には何を言っても無駄だと分かっているので、蒼もこれ以上の深追いはしない。凪と涼真を呼ぶことにOKをもらっただけでもよしとした。
「行く行く! 僕【ファイナルチェイサー3】買ったから持ってく!」
学校へ着くや否や、今日泊まりに来ないかと誘ってみたところ、凪は目を輝かせて身を乗り出した。新作のゲームを手に入れたばかりで、早く協力プレイをしたくて仕方がなかったらしい。
「俺は【超戦国ファイター】買ったよ」
「涼真マジで? 俺それ買おうか悩んでた! やりたい!」
「いいよ、持って行くよ」
「おまえたちほんとゲーマーだな」
蒼の隣でため息をつく充。彼はゲームにはほとんど興味がない。つきあい程度には参戦してくれるのだが、これがまた結構強いから蒼にとっては非常に腹立たしい。同じように思っている凪が手をシッシッと振り、
「んじゃ、みっつんは来なくていいよ~」
そっけなく言った。【みっつん】とは凪限定の充のあだ名だ。二人が空手道場に通っていた頃、凪自らが命名したらしい。
「あーダメダメ! 充が来ないと姉ちゃんに怒られる」
「え、蒼の姉さんは充が好きなの?」
蒼が慌てて口を挟むと、涼真が首を傾げて尋ねた。
「そんなんじゃないよ、姉ちゃん彼氏いるし。でも気に入ってることは確か。こいつうちの母さんと姉ちゃんに超気に入られてんの。年上キラーなんだよ」
「俺、品行方正だからな~」
充はフフンと自慢気に笑った。蒼と凪がジト目で充を睨む。
「自分で言うなよ充」
その時、涼真が突然身を乗り出し、蒼の目の前で鼻を鳴らした。
「なぁ蒼、香水か何かつけてる?」
「え、つけてないけど」
「ほんのりいい匂いする。すごく近づかないと分からないけど」
涼真が言い出したことに、充が頷き、
「おまえも気づいた? 甘い匂いするよな?」
昨日のように蒼の後頭部を嗅ぐ。
「充がそう言うから昨日シャンプー見てみたけどさ、いつものと同じだったんだよなぁ」
蒼は思わずくんくんと自分の匂いをあちこち嗅いでしまった。
「洗濯の洗剤とか柔軟剤じゃないの? 最近匂い重視のやつとか結構あるし。あれもあまりに使い過ぎると公害なんだよねぇ」
「凪おまえよく知ってるな」
充が感心したように言う。
「だって僕洗濯とかするし」
今時男だって家事くらい出来なきゃダメだからね? と、凪がにっこり笑って言う。妙に説得力のある態度に、
「おまえのその笑顔怖ぇよ、凪……」
蒼が軽くたじろいだ。充はかぶりを振りながら、
「んー……でも服じゃないんだよな……」
ごくごく小さな声で呟いた。そしてやおら立ち上がり、制服のポケットから携帯電話を取り出しながら席を離れていく。
「おーい、充! どこ行くんだよ?」
「ちょっと彼女に電話ー」
充は携帯をいじりながら、空いている手をひらひらと振って教室を出て行った。
「何あれいきなり彼女って! 意味分かんない」
「羨ましそうに言うなよ凪」
涼真が凪の肩をぽんぽんと叩く。
「羨ましくないよ。僕彼女いるも~ん」
そうなのだ。この翆曰く“ちまこい”凪には年上の彼女がいる。蒼たちも何度か会ったことがあるが、目の覚めるような美人でそれこそ鳴海の隣が似合いそうな雰囲気を持っている大学生だ。そんな大人っぽい美女が凪にメロメロだというのだから、世の中分からないものだ。
(普段は小悪魔みたいな態度取るくせに、彼女といる時の凪ってすげぇ可愛くて幸せそうなんだよなぁ)
目の前で拗ねながら次の授業の用意をする凪を眺めながら、蒼は思った。
ちなみに涼真には彼女はいない――が、つい二ヶ月前までは同い年の子と遠距離恋愛をしていたので、同じ彼女いない者同士でも蒼とは全然違う。涼真の彼女は今年の春に父親の仕事の都合で海外に越してしまったのだ。離れ離れになってからしばらくは遠距離恋愛をしていたのだが、彼女に現地の日本語学校で好きな人が出来てしまい、別れを切り出されたという。
「まぁ、高校生で遠距離恋愛なんて滅多に続くもんじゃないよね」と、涼真は言っていた。
(みんなちゃんとリア充してるよなぁ~)
蒼が頬杖をついてしみじみ思っていると、右側が急に暗くなった。
「?」
見ると、またしても鳴海が壁のように立ちはだかっていた。蒼にだけ無表情──は相変わらずだと感じたが、どことなくいつもとは違う雰囲気が漂っていた。
蒼はふと昨日ことを思い出した。今度鳴海がこうしてきたら「俺のことが気に入らないのならはっきり言え」と言ってやろうと決意したことを。
(よし言う)
「あのさ鳴海、俺のことが──」
「ちょっといいかな?」
蒼の決意を遮り、鳴海が切り出した。
(喋った。鳴海が喋った!)
これが蒼と鳴海の、ほぼ初会話だった。
「え? あ? 俺に用?」
突然の新展開に口調がしどろもどろになってしまった。鳴海は動じることなく頷き、教室のドアを指差した。場所を変えたい、ということだろうか。鳴海は風紀委員であるのだしフルボッコにされることはないだろう。蒼はそう考え、
「いいよ、行こう」
と、立ち上がった。その様子を凪と凉真だけではなく、クラス中が不思議そうに見ていた。
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