7 / 10
7、机上の空論では何を言っても人には届かない
しおりを挟む
もう隠す気すら失せて「ハッ!」と鼻で笑ってやりました。
「ねえ、これまでお教えいたしましたでしょう?【机上の空論では何を言っても人には届かない】のだと。そこまでおっしゃるからには、あなたの頭の中以外にも私に非があるという確固たる証拠があるのでしょうね?」
ハク、と空気を飲むアレックス様に向かって優雅に小首をかしげてダメ押しです。
「まさか無いだなんておっしゃいませんわよね?まさか、何の証拠もなしにこの筆頭公爵家ジーニアスの娘である私を責めるなどあり得ませんものね?」
うふふ。もう返す言葉すらないようですわね。
「ちなみに、私にはございましてよ?あなたの不貞の証拠も、横領の証拠も。ね?つまり、あなたからの婚約破棄など認められないのです。可能なのは、私から父と陛下に婚約破棄を申し出ること。その逆はありませんの。
今回の件、私から陛下と父に婚約破棄を願い出ます。よろしいですね? と申しましても、肯定以外の答えは認められませんけれども」
悔しそうに唇を噛みしめる殿下から、ギリィ、と歯ぎしりが聞こえました。
「あら、はしたない。せっかくの美貌が台無しでしてよ?ハンカチをお貸しいたしましょうか?」
「煩いっ!お前のそういうところが私は大嫌いなのだっ!この悪女めっ!必ず痛い目をみせてやるからなっ!」
「まあ!恐ろしい!今度は脅迫ですか?」
大げさに怯えて見せると、何人かの紳士がガタリと立ち上がるのが見えました。殿下とは違い、貴族として矜持をお持ちの方もいらっしゃるのです。
「ご令嬢。どなたかは存じませんが、そちらの男性が『痛い目をみせる』という不穏な言葉を口にされたのが耳に入りまして……。私の手は必要でしょうか?」
ああ。あくまでも「第一王子」ではなく「誰だかわからない一貴族とご令嬢のもめごと」とするのだと、そういうことなのですね。
エクセレント!素晴らしいご判断ですわ。
「ありがとうございます。あなた様は……」
「ロレイン伯爵家が三男、トーマス・ロレインと申します。あちらの方の紳士とは思えぬ暴言が聞くに耐えず、僭越ながらお声を掛けさせていただきました」
中立派と言われるロレイン家のご子息だわ。これはつまり「中立派もジーニアス側につく」ということなのかしら?
軽く目を合わせ「ロレイン伯爵家の方でいらしたのね。私の味方をしてくださるの?」と確認してみました。
すると「ええ。我々は正しき側の味方です」との言葉と共に、私に向かって貴族の礼をしてくださいます。
つまりはそういうこと。ジーニアスが王家に反意を示すような事態とならば、中立派も王家を見限る、と。
彼はここでわざわざそれを伝えてくださったのです。
場の空気を読む力、判断力、行動力、全て申し分ないわ。三男、ということは家を出るのね。公爵家に欲しいわね。お父様の側近候補にどうかしら?
「大丈夫ですわ。このような公の場所で脅迫など、本気のはずがございませんもの。お気遣いに感謝致します。今は名乗れぬ無礼をお許しくださいませ。ロレイン様とはまたぜひお話させて頂きたく存じます」
軽く頭を下げて目配せをすれば、私の意を汲み「ならばこの場は引きましょう。何かあればお声をおかけください」と引き下がってくださいました。引き際も心得ているのね。
私は我が意を得たりとにっこりと微笑んで見せた。
アレックス殿下が怖いわけではございませんが、味方がいるというのは心強いものですわね。なんだか肩の力が抜けたような気が致します。
するとあちこちから「私も協力致しますわ」「紳士たるもの、ご令嬢への暴力は許しがたいですからね」などの声が上がりました。どうやらみなさま、私に助力するタイミングを見計らっていてくださったようです。
相手が第一王子だと気付いたでしょうに。王家を覗けばこの国もまだ捨てたものではございませんわね。
彼らのためにも、決断しなければなりません。私はひそかに決意を固めました。
「みなさま、ありがとうございます。婚約者、いえ、もう元婚約者、と言った方がいいのかしら?彼のあまりな仕打ちに私のか弱い胸は張り裂けそうなほどに傷んでおりましたの。ですが、みなさまのお心遣いに大変励まされました。本日のお代は私からのお礼とお詫びとさせてくださいませ。場を乱してしまい申し訳ございません。どうぞお茶をお楽しみください」
そう言って謝意を示せば、みなさま軽く頭を下げ、何事もなかったかのように会話に戻られました。
でも、「見ておりますわよ」「ご令嬢に何かすれば我らが出るぞ」と釘を刺すかのように時折殿下に厳しい視線を投げかけてくれております。
殿下とご令嬢は急にオドオドし始めました。
自分たちに向けられるとても好意的とは言い難い視線に、「ここにいる観客たちは『真実の愛に生きる恋人たち』に優しくはない」とようやく気付いたのでしょう。
「あ……ど、どうして私たちをあんな目で見るの?悪役は彼女のはずよ!」
「どういうことだ?舞台ではみなが二人に協力してくれていたのに……!真実の愛なのだぞ?」
まだ分からないのかしら。
私は物わかりの悪い生徒に、優しく教えてあげました。
「答えを教えてさしあげましょう。ここが舞台ではなく現実だからですわ」
「ねえ、これまでお教えいたしましたでしょう?【机上の空論では何を言っても人には届かない】のだと。そこまでおっしゃるからには、あなたの頭の中以外にも私に非があるという確固たる証拠があるのでしょうね?」
ハク、と空気を飲むアレックス様に向かって優雅に小首をかしげてダメ押しです。
「まさか無いだなんておっしゃいませんわよね?まさか、何の証拠もなしにこの筆頭公爵家ジーニアスの娘である私を責めるなどあり得ませんものね?」
うふふ。もう返す言葉すらないようですわね。
「ちなみに、私にはございましてよ?あなたの不貞の証拠も、横領の証拠も。ね?つまり、あなたからの婚約破棄など認められないのです。可能なのは、私から父と陛下に婚約破棄を申し出ること。その逆はありませんの。
今回の件、私から陛下と父に婚約破棄を願い出ます。よろしいですね? と申しましても、肯定以外の答えは認められませんけれども」
悔しそうに唇を噛みしめる殿下から、ギリィ、と歯ぎしりが聞こえました。
「あら、はしたない。せっかくの美貌が台無しでしてよ?ハンカチをお貸しいたしましょうか?」
「煩いっ!お前のそういうところが私は大嫌いなのだっ!この悪女めっ!必ず痛い目をみせてやるからなっ!」
「まあ!恐ろしい!今度は脅迫ですか?」
大げさに怯えて見せると、何人かの紳士がガタリと立ち上がるのが見えました。殿下とは違い、貴族として矜持をお持ちの方もいらっしゃるのです。
「ご令嬢。どなたかは存じませんが、そちらの男性が『痛い目をみせる』という不穏な言葉を口にされたのが耳に入りまして……。私の手は必要でしょうか?」
ああ。あくまでも「第一王子」ではなく「誰だかわからない一貴族とご令嬢のもめごと」とするのだと、そういうことなのですね。
エクセレント!素晴らしいご判断ですわ。
「ありがとうございます。あなた様は……」
「ロレイン伯爵家が三男、トーマス・ロレインと申します。あちらの方の紳士とは思えぬ暴言が聞くに耐えず、僭越ながらお声を掛けさせていただきました」
中立派と言われるロレイン家のご子息だわ。これはつまり「中立派もジーニアス側につく」ということなのかしら?
軽く目を合わせ「ロレイン伯爵家の方でいらしたのね。私の味方をしてくださるの?」と確認してみました。
すると「ええ。我々は正しき側の味方です」との言葉と共に、私に向かって貴族の礼をしてくださいます。
つまりはそういうこと。ジーニアスが王家に反意を示すような事態とならば、中立派も王家を見限る、と。
彼はここでわざわざそれを伝えてくださったのです。
場の空気を読む力、判断力、行動力、全て申し分ないわ。三男、ということは家を出るのね。公爵家に欲しいわね。お父様の側近候補にどうかしら?
「大丈夫ですわ。このような公の場所で脅迫など、本気のはずがございませんもの。お気遣いに感謝致します。今は名乗れぬ無礼をお許しくださいませ。ロレイン様とはまたぜひお話させて頂きたく存じます」
軽く頭を下げて目配せをすれば、私の意を汲み「ならばこの場は引きましょう。何かあればお声をおかけください」と引き下がってくださいました。引き際も心得ているのね。
私は我が意を得たりとにっこりと微笑んで見せた。
アレックス殿下が怖いわけではございませんが、味方がいるというのは心強いものですわね。なんだか肩の力が抜けたような気が致します。
するとあちこちから「私も協力致しますわ」「紳士たるもの、ご令嬢への暴力は許しがたいですからね」などの声が上がりました。どうやらみなさま、私に助力するタイミングを見計らっていてくださったようです。
相手が第一王子だと気付いたでしょうに。王家を覗けばこの国もまだ捨てたものではございませんわね。
彼らのためにも、決断しなければなりません。私はひそかに決意を固めました。
「みなさま、ありがとうございます。婚約者、いえ、もう元婚約者、と言った方がいいのかしら?彼のあまりな仕打ちに私のか弱い胸は張り裂けそうなほどに傷んでおりましたの。ですが、みなさまのお心遣いに大変励まされました。本日のお代は私からのお礼とお詫びとさせてくださいませ。場を乱してしまい申し訳ございません。どうぞお茶をお楽しみください」
そう言って謝意を示せば、みなさま軽く頭を下げ、何事もなかったかのように会話に戻られました。
でも、「見ておりますわよ」「ご令嬢に何かすれば我らが出るぞ」と釘を刺すかのように時折殿下に厳しい視線を投げかけてくれております。
殿下とご令嬢は急にオドオドし始めました。
自分たちに向けられるとても好意的とは言い難い視線に、「ここにいる観客たちは『真実の愛に生きる恋人たち』に優しくはない」とようやく気付いたのでしょう。
「あ……ど、どうして私たちをあんな目で見るの?悪役は彼女のはずよ!」
「どういうことだ?舞台ではみなが二人に協力してくれていたのに……!真実の愛なのだぞ?」
まだ分からないのかしら。
私は物わかりの悪い生徒に、優しく教えてあげました。
「答えを教えてさしあげましょう。ここが舞台ではなく現実だからですわ」
262
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました
あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。
そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。
平民出身のヒロインの「善意」、
王太子の「優しさ」、
そしてそれらが生み出す無数の歪み。
感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。
やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。
それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。
なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。
これは、
「断罪される側」が最後まで正しかった物語。
そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。
誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。
無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。
ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。
「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。
アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。
そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?!
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています
婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる