9 / 10
9、もう手遅れです
しおりを挟む
お父様は数秒目を閉じ、大きく息を吐きました。これは、何か大きな決断をする前にお父様がよくなさる仕草です。
案の定。お父様は腹をくくったようです。
顔を上げたお父様が陛下に向けた視線にはあからさまな侮蔑が含まれておりました。
その声はとても低く地を這うかのよう。断固とした響きで告げられたそれは、提言でもなんでもなく筆頭公爵家からの「決意表明」。
「陛下。もう手遅れです。アレックス殿下の側近になろうというものなど、おりませぬ。貴族としての誇りのあるもの、良識のある者、能力のあるものは、誰一人として殿下に付こうなどとは思わないでしょう」
「…なっ!貴様、いくらなんでも不敬であるぞ!改めよ!」
「ご不満ならば断罪でもなんでもなさってください。しかしその前に、我々が今王家の方々をどう思っているのか、不敬を承知で申し上げます。
夫である陛下に裏切られ、女性としての誇りも名誉も傷つけられ、思うところがおありだったでしょう。それでも『後継を産む』というお役目を立派に果たし、王配として国のために尽くす正妃様。
そしてそのお子として、正妃様と共に幼き頃より修練を重ね、その能力も品格も疑うものないと言われる第二王子殿下。
一方、貴族でありながら、婚約者のいる高位貴族、しかも王族を誘惑し子を宿すという淑女にあるまじき行い。さらには、召し上げられて後も、陛下の寵愛をいいことに国を混乱に貶め、国庫を食い荒らすだけの側妃様。
そして、幼き頃より王配となるべく厳しい教育を受け、人柄も能力も申し分のない婚約者の信頼を裏切り、可愛いだけの女に手を出したあげく孕ませた。それが陛下、あなたです。
『真実の愛』とやらのために、不貞の相手を側妃とし、その寵愛を隠そうともせず散財と横暴を許した陛下。
婚約者のいる王族を誘惑して側妃という地位を手に入れたあげく、陛下の寵愛の基、王族としての一切の責務を放棄し好き放題に国庫を食い荒らす側妃様。
自らの無能を棚に上げ、その虚言により有能な忠臣を次々と退職に追い込んだ第一王子。
これが我々の目から見た今の王族の姿です。
このような物言いが不敬だと仰るのであれば、どうぞ私を処分なさってください。
しかし、さすればこの国にもう希望などありませぬ。苦言を呈す忠臣を次々と切り捨て、甘言を口にするもののみを重用するような王家に誰が付いてゆきたいと思うでしょう?
望んだわけではございませんが、我が国の貴族への唯一の抑止力となっていたのが、我がジーニアス。その後ろ盾を失い、このまま最後の王となられるおつもりですか?
王家が生き残る道はただ一つ。陛下、どうか正しきご判断を」
「王であろうと異論は許さぬ。愚かな王として打ち取られるか、黙ってその場所から去るか、どちらかを選べ」
父は陛下に突き付けたのです。
陛下は最後のあがきのように自分の味方である「陛下の忠臣たち」に視線を送りました。
しかし向けた視線を受けるものはおりませんでした。
父の言葉を裏付けるかのように、この場にいる宰相からも「陛下の側近」からも父を諫める声の一つも上がらなかったのでした。
彼らとて分かっているのです。父の言葉は真実であると。
ここで声を発すれば最後、一応「王族」である陛下とは違い、甘言により重用されたにすぎない彼らは容赦なく狩られることになるのだと。ここで下手をすれば一族断絶も有り得るのだと。
案の定。お父様は腹をくくったようです。
顔を上げたお父様が陛下に向けた視線にはあからさまな侮蔑が含まれておりました。
その声はとても低く地を這うかのよう。断固とした響きで告げられたそれは、提言でもなんでもなく筆頭公爵家からの「決意表明」。
「陛下。もう手遅れです。アレックス殿下の側近になろうというものなど、おりませぬ。貴族としての誇りのあるもの、良識のある者、能力のあるものは、誰一人として殿下に付こうなどとは思わないでしょう」
「…なっ!貴様、いくらなんでも不敬であるぞ!改めよ!」
「ご不満ならば断罪でもなんでもなさってください。しかしその前に、我々が今王家の方々をどう思っているのか、不敬を承知で申し上げます。
夫である陛下に裏切られ、女性としての誇りも名誉も傷つけられ、思うところがおありだったでしょう。それでも『後継を産む』というお役目を立派に果たし、王配として国のために尽くす正妃様。
そしてそのお子として、正妃様と共に幼き頃より修練を重ね、その能力も品格も疑うものないと言われる第二王子殿下。
一方、貴族でありながら、婚約者のいる高位貴族、しかも王族を誘惑し子を宿すという淑女にあるまじき行い。さらには、召し上げられて後も、陛下の寵愛をいいことに国を混乱に貶め、国庫を食い荒らすだけの側妃様。
そして、幼き頃より王配となるべく厳しい教育を受け、人柄も能力も申し分のない婚約者の信頼を裏切り、可愛いだけの女に手を出したあげく孕ませた。それが陛下、あなたです。
『真実の愛』とやらのために、不貞の相手を側妃とし、その寵愛を隠そうともせず散財と横暴を許した陛下。
婚約者のいる王族を誘惑して側妃という地位を手に入れたあげく、陛下の寵愛の基、王族としての一切の責務を放棄し好き放題に国庫を食い荒らす側妃様。
自らの無能を棚に上げ、その虚言により有能な忠臣を次々と退職に追い込んだ第一王子。
これが我々の目から見た今の王族の姿です。
このような物言いが不敬だと仰るのであれば、どうぞ私を処分なさってください。
しかし、さすればこの国にもう希望などありませぬ。苦言を呈す忠臣を次々と切り捨て、甘言を口にするもののみを重用するような王家に誰が付いてゆきたいと思うでしょう?
望んだわけではございませんが、我が国の貴族への唯一の抑止力となっていたのが、我がジーニアス。その後ろ盾を失い、このまま最後の王となられるおつもりですか?
王家が生き残る道はただ一つ。陛下、どうか正しきご判断を」
「王であろうと異論は許さぬ。愚かな王として打ち取られるか、黙ってその場所から去るか、どちらかを選べ」
父は陛下に突き付けたのです。
陛下は最後のあがきのように自分の味方である「陛下の忠臣たち」に視線を送りました。
しかし向けた視線を受けるものはおりませんでした。
父の言葉を裏付けるかのように、この場にいる宰相からも「陛下の側近」からも父を諫める声の一つも上がらなかったのでした。
彼らとて分かっているのです。父の言葉は真実であると。
ここで声を発すれば最後、一応「王族」である陛下とは違い、甘言により重用されたにすぎない彼らは容赦なく狩られることになるのだと。ここで下手をすれば一族断絶も有り得るのだと。
196
あなたにおすすめの小説
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
愛する人の手を取るために
碧水 遥
恋愛
「何が茶会だ、ドレスだ、アクセサリーだ!!そんなちゃらちゃら遊んでいる女など、私に相応しくない!!」
わたくしは……あなたをお支えしてきたつもりでした。でも……必要なかったのですね……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる