没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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盗まれた魔道具編

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ユルミルの突き出した刀の切先がマークの心臓を背中から貫くことはなかった。

それよりも先にマークがその刀を剣で弾いたのである。

それと同時にマークはユルミルの下腹部に蹴りを入れ、ユルミルは衝撃によって透明になる魔道具が無効化され、膝をついた形で姿を現した。

それから、恨めしそうにマークのことを睨んだ。


「なぜ……なぜわかった……」


その言葉にマークは頭をかきながら小さくため息をつく。


「アンタ、確かにすごい魔道具を持ってはいるけど戦闘で使ったことあんまりないだろ? 呼吸も荒いし、興奮して視野も狭くなってる」


マークはそう言うと剣で当たりをちょいちょいと指し示す。

その動きに誘導されてユルミルは視線を周りに向ける。

そして、ハッとした。

姿を隠す二つの魔道具の力。そのうちの一つであった霧が既にないのだ。

すっかり晴れてしまっている。


「一体どうやって……」


魔道具を解除しない限り霧は晴れない計算だった。

霧の魔道具を起動させるように命じたシュリが倒され、魔道具が解除されたのか? いや、それにしてもタイミングが良すぎる。


ユルミルにはその理由がわからない。
そして、その疑問を表情に出しすぎたのだろう。代わりに解説をしたのはマークだった。


マークは剣を持っていない方の手で炎の魔法を作り上げる。

それはただの火球だったが、マークはそれを手のひらの上で自在に動かし始めた。


「俺の体の中には火の精霊が住んでてな。ソイツと過ごすうちに俺は火の魔法が得意になった。つまり、アンタが相手にしていたのは王国でもそれなりに高い腕を持った炎系の魔法使いってわけだ」


マークは魔法により周囲の温度を変えていたのだ。

それにより、霧は蒸発し姿を消してしまった。

ユルミルはそれに気が付かなかった。
マークの言う通り、戦闘の経験が浅く気づけなかったのだ。

なにしろ彼らは盗賊団である。

本職は盗む方で、戦うことではない。
今までも陽動のための集団戦や逃げる際の囮などの経験はあったが、一対一での戦いは滅多になかった。

それ故に霧と姿を隠す魔道具という二段重ねで挑んだのだが、マークには通用しなかった。

「まぁ、後は簡単だ。その透明になる魔道具、明るいところだと空間がゆらめくからよく見れば反応できる。それに、わざわざ姿を消して近づくんだ。正面より背後から襲ってくるのは想像できたからな」


マークはそう説明するとユルミルににじり寄っていく。


ユルミルは刀を再び握るが、彼に残された魔道具は手に持った「斬撃を飛ばす」刀の魔道具のみ。

正面から戦ったのでは分が悪いとわかっていたからこそ搦手を使ったのだ。

勝敗は既に目に見えていた。

それでもユルミルは決して自分から投降はしなかった。

最後まで刀を握り、マークに向かっていったのである。

その後の勝負は一瞬でついた。

マークがユルミルの刀を弾き、それから魔法であっという間に拘束して終わりである。


「最後まで諦めずに向かってきたところだけは褒めてやるよ」


手足を魔法で拘束されて、床に這いつくばって悔しそうに睨みつけるユルミルにマークは言った。

それから廊下の来た道と先の道を交互に見やり、音に耳を澄ましてからため息をつく。


「しっかし……中々厄介な魔道具を持ってるみたいだな。仲間の姿を見えなくするだけじゃなくて、どこかに移動させてしまうなんて」


霧が晴れた時、そこにルイズ達の姿はなかった。

ユルミルが襲ってきたことを考えても、霧がかかってからそんなに長い時間は経っていないはずだ。

そのわずかな時間で残りの三人をどこにやったというのか。


耳を澄ませて見たが、それらしい戦闘音は聞こえてこない。

仕方なくマークはユルミルの意識を魔法で奪って古城の外に出ることにしたのだった。
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