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盗まれた魔道具編

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姿を隠す「透明」の魔道具は一見するとただの上着の様にしか見えない。

効果を発動しなくても闇に紛れられる様に色は黒色で、フードまでついている。

魔力を通しやすい素材と、糸に織り込まれた魔力石の結晶の力によって「魔法」を発動するわけだが、当然簡単に手に入れられる様な代物ではなかった。

にもかかわらず盗賊団の古株達、いわゆる幹部は全員がこのジャケットを所持している。


「どう見ても既製品じゃねぇよな。そんな危ないもん、販売に制限がかけられて当然だ。一体どこで手に入れやがった?」


剣を打ち交わしたマークはユルミルが着ているそれを一眼で魔道具だと見抜いた。

対するユルミルも姿を消す魔道具を発動した上で、それを見破ったマークに警戒心を強める。


「簡単にこっちの手の内を明かすとと思うか? 聞きたいんなら、まずは腕前を見せてもらわねぇとな!」


ユルミルは手に持っていた刀でマークの剣を弾くと、すぐさま下段からの切り上げによって攻撃を仕掛ける。

マークはそれを見切り、後ろにステップしてかわそうとしたが違和感に気づいた。

マークはすぐに横に体を流して危険から身を退ける。


「斬撃が飛んだ……なるほどな、持ってる物は全部魔道具ってわけか」


マークが察知した危険とはユルミルの振る刀へのものだった。

普通ならばマークが後ろにステップした時点でユルミルの初太刀はかわせている。

しかし、刀にも特別な能力が備わっていた。

振った斬撃は全て進行方向まっすぐに進み続けるのである。

つまり、飛ぶ斬撃。
マークが横に体を流さなければ、斬撃はマークの体を捉えていただろう。

事実、マークの少し後ろの壁には太刀によってできたと思われる斬撃跡ができていた。


「ますます興味が出てきたぜ。その魔道具を作ったやつにな。お前ら全員捕まえて、誰から手に入れた物か吐かせてやる」


魔道具は基本的には魔法使いが生活を豊かにするために自作するものである。

攻撃のために使うのならば自分で魔法を使ったほうが早いため、武器としての魔道具はあまり表には出てこない。

では、武器としての魔道具を使う利点があるのは魔法を使えない者だけだ。

防衛や戦争といった戦いの全てを魔法使いが担っているこの世界で武器として使える魔道具を求めるのは当然何か良からぬことを考える者達。

売るのも同様である。
マークは魔法騎士団の一つの隊を預かる隊長としてここでユルミルらを見逃すわけにはいかなかった。


「謝るよ、あんたのことを少し舐めてた。反射神経と勘の良さは魔法関係なく一級品だ。だが、俺達を捕まえる? ソイツは無理だろうぜ」


ユルミルは不敵に笑う。
それと同時に霧がまた深くなってくる。

マークは一度ユルミルを捉えてから距離を離さないように心がけていた。

少しでも距離を開ければ霧によって姿を見失ってしまうからだ。

一度姿を見失えば、相手は透明になる魔道具を再び作動させるかもしれない。

そうなれば厄介だとマークは思っていた。

だから相手を見失わない様にしていたのに、濃くなった霧は簡単にユルミルの姿を隠してしまった。


仕方なくマークは息を深く吐く。
もう一度音にだけ集中する。

視界が効かないなら意味はないと今度は目まで閉じる。



「おいおい正気か? それで俺の攻撃を交わせんのか?」


ユルミルの声が聞こえた。
声は反響していて、出どころはわからない。

さっきとは違い、音だけでも判別できないように何か手を打ったようだ。

しかし、マークは焦っていなかった。


霧の中だというのにユルミルにはマークのいる場所が手に取るようにわかる。

「温熱視野」という魔道具の効果である。
目薬の形をしたそれは使用すると一定時間、対象の姿を熱で感知できるようになるのだ。

ユルミルはそれを使い、マークの背後から忍び寄った。

微かな足音、それから衣擦れの音。
人間が動く以上音を完全に無にするのは不可能なことだ。

マークならばそのわずかな音にも反応できる。

しかし、声と同じようにそのわずかな音でさえも反響してユルミルの姿を隠す。

背後をとったユルミルは刀を突きの構えにして、マークの心臓部分を狙った。
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