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14. 人を魅了すること
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照明が薄紫に染まった劇場の空気は、緊張と期待で張り詰めている。
幕が開くと、主演の桐生翔が現れた。
仮面をつけた青年貴族。孤独と苦悩を胸に抱えた瞳が、客席を刺すように見つめる。
『貴方の瞳に、私は映っているのでしょうか……』
舞踏会の夜。禁断の愛を求め、誰にも言えない欲望を仮面と共に剥ぎ取る。
その表情にハツとする。
肌の熱、吐息、揺れる指先――。全てが、あの夜の情熱と重なって、オレの理性を揺さぶる。
桐生の手が誰かの手をそっと握るたび、演技と現実がオレの中で溶け合っていく。体の奥でまだくすぶっている熱が、舞台の光で呼び覚まされる。
『ああ、わたしはどうしても貴方が欲しい!』
息を呑むシーン。
視線を逸らすこともできない。胸の奥がざわつき、下腹部が小さく疼く。オレは知らずに、掌をぎゅっと握り締めた。
圧巻の演技だった。
幕が閉じるまで、オレは桐生の目を追い続けた。
人を魅了するとは、こういうことか。
カーテンコール、一礼する桐生さんの視線がこちらに向いたきがしたのは、気のせいだろうか。ほんの一瞬だったけれど、その視線は、舞台の光よりも熱く、身体の奥に刺さる。
鳴りやまない拍手と歓声。
「すごいな、桐生さん。役に入りきって、一瞬さえ桐生翔という人間が見えなかった」
興奮冷めやらぬ伊勢の言葉。
「NGが許されない舞台で圧巻の演技か」
「うん、すごかったね」
「俺たの舞台はドームのステージだからな。負けてられないよな」
伊勢の言葉は、オレの心臓に鋭い針となって突き刺さった。『うん』と即答できない不甲斐ない自分を、改めて思い知らされた。
「やるだろ?片倉」
「え?」
「質問を変えるか」
拍手は鳴り止み、一瞬の静けさが訪れた。
「ドームツアー、絶対に成功させるぞ」
もう高校生だったオレじゃない。ただ伊勢の隣に立つためじゃない。
湊さんの言葉が蘇る。
『TOMARIGIを取り巻く全員が大切です』
オレに欠けていたものを、桐生さんの舞台が思い出させてくれた。
ドームツアーを成功させなきゃいけないんだ。
観客席に灯りが灯される。演劇という夢から覚める時間だ。ザワザワと帰り支度をはじめ、席を立つ観客たち。
「よし。片倉、桐生さんの楽屋に挨拶に行こうぜ」
オレの心臓が、まるで停止したかのように静まり返った。
「え、いや……いいよ」
「芸能界の先輩に招待してもらって、あいさつも無しに帰れないだろう」
伊勢の言うことは当然で、断わる理由が見つからなかった。
「でも、オレは」
すると、少し前方からざわめきが聞こえた。
「ねえ、あれ、TOMARIGIの二人じゃない?」
「伊勢くん!片倉君もいる!」
一斉に視線がオレたちに向く。手が振られ、画像を撮ろうとスマホが向けられる。その声は段々と広がって行く。
「ほら、片倉がもたもたするからバレたじゃないか」
「ごめん」
「まぁ、仕方ないか。俺たちも有名になった証拠だ」
オレと伊勢は、アイドルスマイルで前方に手を振った。こういう時は、刺激しない方がいいからだ。
「きゃーーー!」
黄色い歓声が一気に巻き起こり、周囲のざわめきは止まらない。まるで嵐の中心に立っているようだ。
「俺と桐生さんの映画も見てね」
ちゃっかり宣伝する伊勢。そして、
「みんな、気を付けて帰ってね!」
伊勢はそう言うと、オレの腕をそっと引く。
「ほら、行くぞ!」
関係者席だから一般客とは出口は別だ。観客席の騒ぎを背に、オレたちは静かな廊下へと足を進めた。
腕に触れた伊勢の手のぬくもりが、痣のように疼いた。
幕が開くと、主演の桐生翔が現れた。
仮面をつけた青年貴族。孤独と苦悩を胸に抱えた瞳が、客席を刺すように見つめる。
『貴方の瞳に、私は映っているのでしょうか……』
舞踏会の夜。禁断の愛を求め、誰にも言えない欲望を仮面と共に剥ぎ取る。
その表情にハツとする。
肌の熱、吐息、揺れる指先――。全てが、あの夜の情熱と重なって、オレの理性を揺さぶる。
桐生の手が誰かの手をそっと握るたび、演技と現実がオレの中で溶け合っていく。体の奥でまだくすぶっている熱が、舞台の光で呼び覚まされる。
『ああ、わたしはどうしても貴方が欲しい!』
息を呑むシーン。
視線を逸らすこともできない。胸の奥がざわつき、下腹部が小さく疼く。オレは知らずに、掌をぎゅっと握り締めた。
圧巻の演技だった。
幕が閉じるまで、オレは桐生の目を追い続けた。
人を魅了するとは、こういうことか。
カーテンコール、一礼する桐生さんの視線がこちらに向いたきがしたのは、気のせいだろうか。ほんの一瞬だったけれど、その視線は、舞台の光よりも熱く、身体の奥に刺さる。
鳴りやまない拍手と歓声。
「すごいな、桐生さん。役に入りきって、一瞬さえ桐生翔という人間が見えなかった」
興奮冷めやらぬ伊勢の言葉。
「NGが許されない舞台で圧巻の演技か」
「うん、すごかったね」
「俺たの舞台はドームのステージだからな。負けてられないよな」
伊勢の言葉は、オレの心臓に鋭い針となって突き刺さった。『うん』と即答できない不甲斐ない自分を、改めて思い知らされた。
「やるだろ?片倉」
「え?」
「質問を変えるか」
拍手は鳴り止み、一瞬の静けさが訪れた。
「ドームツアー、絶対に成功させるぞ」
もう高校生だったオレじゃない。ただ伊勢の隣に立つためじゃない。
湊さんの言葉が蘇る。
『TOMARIGIを取り巻く全員が大切です』
オレに欠けていたものを、桐生さんの舞台が思い出させてくれた。
ドームツアーを成功させなきゃいけないんだ。
観客席に灯りが灯される。演劇という夢から覚める時間だ。ザワザワと帰り支度をはじめ、席を立つ観客たち。
「よし。片倉、桐生さんの楽屋に挨拶に行こうぜ」
オレの心臓が、まるで停止したかのように静まり返った。
「え、いや……いいよ」
「芸能界の先輩に招待してもらって、あいさつも無しに帰れないだろう」
伊勢の言うことは当然で、断わる理由が見つからなかった。
「でも、オレは」
すると、少し前方からざわめきが聞こえた。
「ねえ、あれ、TOMARIGIの二人じゃない?」
「伊勢くん!片倉君もいる!」
一斉に視線がオレたちに向く。手が振られ、画像を撮ろうとスマホが向けられる。その声は段々と広がって行く。
「ほら、片倉がもたもたするからバレたじゃないか」
「ごめん」
「まぁ、仕方ないか。俺たちも有名になった証拠だ」
オレと伊勢は、アイドルスマイルで前方に手を振った。こういう時は、刺激しない方がいいからだ。
「きゃーーー!」
黄色い歓声が一気に巻き起こり、周囲のざわめきは止まらない。まるで嵐の中心に立っているようだ。
「俺と桐生さんの映画も見てね」
ちゃっかり宣伝する伊勢。そして、
「みんな、気を付けて帰ってね!」
伊勢はそう言うと、オレの腕をそっと引く。
「ほら、行くぞ!」
関係者席だから一般客とは出口は別だ。観客席の騒ぎを背に、オレたちは静かな廊下へと足を進めた。
腕に触れた伊勢の手のぬくもりが、痣のように疼いた。
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