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♯1
17. ベッドに行きませんか?
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唇が離れる。
桐生さんはオレの額にコツンと、自分の額を合わせた。
「理久……」
その声は優しくて、甘酸っぱい紅茶よりも、深くオレの心に染み入る。
「やっと泣き止んだな」
「すみません。オレ……泣きすぎましたね」
「目が腫れてしまうかもしれないな。明日の仕事は大丈夫か?」
「蒼真には呆れられて、伊勢には怒られて、湊さんには心配されますね」
オレが恥ずかしくなって顔を逸らそうとすると、桐生さんは両手でオレの頬を包んだまま、それを許さなかった。
「泣いてもいい。ここでは、『アイドルの片倉理久』じゃなくていいんだ」
オレは完全に委ねていた。
「翔……」
オレはもう一度、その名前を呼んだ。心で呼ぶと、より強く、より甘く響く。
「そうはいっても、泣きはらした目でアイドルの仕事はできないよな。少し冷やした方がいい。タオルを濡らしてこよう」
桐生さんはそう言って立ち上がろうとした。その瞬間、オレは反射的に桐生さんの腕に抱きついた。
「だめ……!」
桐生さんが驚いたように動きを止めた。
「理久、どうした?」
「離れないでください」
今はただ、この温かい体温に触れていたい。たった数秒でも離れたくない。
この広い世界で、オレの弱さも罪も全て受け止めてくれる、たった一人の男に抱きついていたかった。
桐生さんは、小さく息を吐くと、オレの背中に腕を回し、優しく抱きしめ返した。
「ああ、わかったよ」
彼の顎が、オレの頭頂部に乗せられる。
「このままでいよう。理久が満足するまてま、ずっとそばにいる」
彼の胸から伝わる温もり、かすかに残る舞台の熱が、こんなに安心できるなんて。
「ただね、理久。困ったことがあって」
「え?」
「こんなに抱きしめられていると、理性が持たないんだ。理久が思うほど、俺は大人でいられなくて、なんだか悪いんだけどな」
オレは桐生さんの胸に顔を埋めたまま、腕にぎゅっと力を込めた。
「ベッド、行きませんか?」
自分でも驚くセリフだったけど、桐生さんにはもっと驚かれたらしい。なかなか返事が無い。
「だ、だめですか?」
「君は、俺を昂らせる天才なのかな」
「あっ!」
少し強引なキスに腰を引いてしまう。が、すぐに強い力で抱き寄せられた。
「ベッドまで持たない」
「あ、明るいのは、ちょっと、まだ……」
「舞台の後は、いつもより昂るんだ。この前より、優しくできないかもしれない」
「んっ、ん!」
「理久、煽ったのは君だからなーー」
この夜、桐生翔という大人の男への、心も身体も溺れてしまった。
桐生さんはオレの額にコツンと、自分の額を合わせた。
「理久……」
その声は優しくて、甘酸っぱい紅茶よりも、深くオレの心に染み入る。
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「目が腫れてしまうかもしれないな。明日の仕事は大丈夫か?」
「蒼真には呆れられて、伊勢には怒られて、湊さんには心配されますね」
オレが恥ずかしくなって顔を逸らそうとすると、桐生さんは両手でオレの頬を包んだまま、それを許さなかった。
「泣いてもいい。ここでは、『アイドルの片倉理久』じゃなくていいんだ」
オレは完全に委ねていた。
「翔……」
オレはもう一度、その名前を呼んだ。心で呼ぶと、より強く、より甘く響く。
「そうはいっても、泣きはらした目でアイドルの仕事はできないよな。少し冷やした方がいい。タオルを濡らしてこよう」
桐生さんはそう言って立ち上がろうとした。その瞬間、オレは反射的に桐生さんの腕に抱きついた。
「だめ……!」
桐生さんが驚いたように動きを止めた。
「理久、どうした?」
「離れないでください」
今はただ、この温かい体温に触れていたい。たった数秒でも離れたくない。
この広い世界で、オレの弱さも罪も全て受け止めてくれる、たった一人の男に抱きついていたかった。
桐生さんは、小さく息を吐くと、オレの背中に腕を回し、優しく抱きしめ返した。
「ああ、わかったよ」
彼の顎が、オレの頭頂部に乗せられる。
「このままでいよう。理久が満足するまてま、ずっとそばにいる」
彼の胸から伝わる温もり、かすかに残る舞台の熱が、こんなに安心できるなんて。
「ただね、理久。困ったことがあって」
「え?」
「こんなに抱きしめられていると、理性が持たないんだ。理久が思うほど、俺は大人でいられなくて、なんだか悪いんだけどな」
オレは桐生さんの胸に顔を埋めたまま、腕にぎゅっと力を込めた。
「ベッド、行きませんか?」
自分でも驚くセリフだったけど、桐生さんにはもっと驚かれたらしい。なかなか返事が無い。
「だ、だめですか?」
「君は、俺を昂らせる天才なのかな」
「あっ!」
少し強引なキスに腰を引いてしまう。が、すぐに強い力で抱き寄せられた。
「ベッドまで持たない」
「あ、明るいのは、ちょっと、まだ……」
「舞台の後は、いつもより昂るんだ。この前より、優しくできないかもしれない」
「んっ、ん!」
「理久、煽ったのは君だからなーー」
この夜、桐生翔という大人の男への、心も身体も溺れてしまった。
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