【完結】ドジな新人マネージャー♂に振り回される、クールなアイドルの胸キュン現場 <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう

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4.夏フェス参戦

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夏の夕暮れ。

真っ赤に染まる空の下、野外フェスのステージ裏は熱気に包まれていた。


「湊さん、キョロキョロし過ぎ」

「い、伊勢くん!」


いつの間に後ろにいたんだ。


「だって、だって!有名人がいっぱいいる!」

「芸能界で働く人間が、何を今さら言ってんだか」

「あ!らぶり~ファイブだ!」


視線の先にいたのは、制服風の衣装を身につけた、5人組の女性アイドルグループだった。彼女たちは、キラキラと笑顔を振りまきながら、僕らの前を通り過ぎていく。


「わ、笑った?僕に向けて?」

「へぇ、湊さんはああいうのがタイプなの?意外とロリコンだね」

「いや、ちがうよ!」


そのとき、遠くからライブスタッフの声がする。


「TOMARIGIさん!準備お願いします」

「はい!」


伊勢くんは、振り返り笑顔で返事をしたあと、僕の耳元に顔を寄せた。


「俺らの出番も、ちゃんと見てろよ」

「う、うん。もちろんだよ!」

「よそ見すんな、マネージャー」

「い、痛ッ!」


カプっと、耳たぶを噛まれた。驚きと動揺、伊勢くんの熱い息が首筋にかかり、自分の顔が真っ赤に染まるのがわかった。


「な、なにを……!」

「行ってくる」


何事も無かったように、飄々と立ち去っていく後ろ姿を、僕は呆然と見送った。




何万人もの観客で埋め尽くされた会場。その熱気は、ステージ裏にまで伝わってきた。


今日はTOMARIGIにとって、初めての大型フェス出演。


この場に立てることがどれほどの意味を持つか、誰より僕が知っている。


「3分前です!」


スタッフの声が響くと、3人は真剣な表情で頷き、円陣を組んだ。


「行くぞ」伊勢くんの短い声。

「楽しもうぜ!」片倉くんが拳を突き上げる。

「爪痕残してやる」蒼真くんの瞳は真っ直ぐだった。


その輪の外で、僕は小さく呟いた。


「……頑張ってください」


ライトが落ち、歓声が爆発する。名前を呼ぶ声、揺れるサイリウム。
音楽が鳴り響き、3人がステージに飛び出していく。

客席を埋め尽くす観客の熱狂に、思わず背筋が震えた。
スクリーン越しに映る伊勢くんの笑顔は、まるで別人のように輝いている。

蒼真くんの力強いダンス、片倉くんの煽りに、観客はさらに沸き立つ。


「すごい……」


思わず漏れた声は、歓声にかき消された。


曲が進むにつれ、僕は妙な胸騒ぎを覚えた。
ステージ袖で見守っていると、視線の端で世界が揺らぐ。

興奮か、暑さか、汗が止まらない。

手に持ったペンライトを握り直す指が震える。


――まずい。


けれど、彼らが歌い、踊り、歓声を浴びている姿を見ると、足を止めることができなかった。

マネージャーとして、最後まで立ち会わなくちゃ。

それが、僕の役目だから。


TOMARIGIの出演は、30分が予定されている。

しかし、最後の曲が終わっても、アンコールの声が止むことはない。


「またまだ行けるぜ!」


急遽、追加された曲に、観客の熱は最高潮に達し、炎の演出がステージを包んだ。


フェスならではの、夏の暑さも味方にするような、灼熱のステージだった。


熱気と光に眩みながらも、3人は最高の笑顔で歌い切った。


「ありがとうございました!」


3人の声に、観客が大歓声で応える。

ステージ袖に戻ってきた彼らの顔は、汗に濡れながらも輝いていた。みんな笑顔だ。


「おつかれさま!」


僕はその姿を見届けて、ほっとした瞬間――視界が暗転した。


「湊さん!」


遠くで伊勢くんの声が聞こえた。
次の瞬間、全身から力が抜け、熱い闇に沈んでいった。
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