5 / 20
#1
4.夏フェス参戦
しおりを挟む
夏の夕暮れ。
真っ赤に染まる空の下、野外フェスのステージ裏は熱気に包まれていた。
「湊さん、キョロキョロし過ぎ」
「い、伊勢くん!」
いつの間に後ろにいたんだ。
「だって、だって!有名人がいっぱいいる!」
「芸能界で働く人間が、何を今さら言ってんだか」
「あ!らぶり~ファイブだ!」
視線の先にいたのは、制服風の衣装を身につけた、5人組の女性アイドルグループだった。彼女たちは、キラキラと笑顔を振りまきながら、僕らの前を通り過ぎていく。
「わ、笑った?僕に向けて?」
「へぇ、湊さんはああいうのがタイプなの?意外とロリコンだね」
「いや、ちがうよ!」
そのとき、遠くからライブスタッフの声がする。
「TOMARIGIさん!準備お願いします」
「はい!」
伊勢くんは、振り返り笑顔で返事をしたあと、僕の耳元に顔を寄せた。
「俺らの出番も、ちゃんと見てろよ」
「う、うん。もちろんだよ!」
「よそ見すんな、マネージャー」
「い、痛ッ!」
カプっと、耳たぶを噛まれた。驚きと動揺、伊勢くんの熱い息が首筋にかかり、自分の顔が真っ赤に染まるのがわかった。
「な、なにを……!」
「行ってくる」
何事も無かったように、飄々と立ち去っていく後ろ姿を、僕は呆然と見送った。
何万人もの観客で埋め尽くされた会場。その熱気は、ステージ裏にまで伝わってきた。
今日はTOMARIGIにとって、初めての大型フェス出演。
この場に立てることがどれほどの意味を持つか、誰より僕が知っている。
「3分前です!」
スタッフの声が響くと、3人は真剣な表情で頷き、円陣を組んだ。
「行くぞ」伊勢くんの短い声。
「楽しもうぜ!」片倉くんが拳を突き上げる。
「爪痕残してやる」蒼真くんの瞳は真っ直ぐだった。
その輪の外で、僕は小さく呟いた。
「……頑張ってください」
ライトが落ち、歓声が爆発する。名前を呼ぶ声、揺れるサイリウム。
音楽が鳴り響き、3人がステージに飛び出していく。
客席を埋め尽くす観客の熱狂に、思わず背筋が震えた。
スクリーン越しに映る伊勢くんの笑顔は、まるで別人のように輝いている。
蒼真くんの力強いダンス、片倉くんの煽りに、観客はさらに沸き立つ。
「すごい……」
思わず漏れた声は、歓声にかき消された。
曲が進むにつれ、僕は妙な胸騒ぎを覚えた。
ステージ袖で見守っていると、視線の端で世界が揺らぐ。
興奮か、暑さか、汗が止まらない。
手に持ったペンライトを握り直す指が震える。
――まずい。
けれど、彼らが歌い、踊り、歓声を浴びている姿を見ると、足を止めることができなかった。
マネージャーとして、最後まで立ち会わなくちゃ。
それが、僕の役目だから。
TOMARIGIの出演は、30分が予定されている。
しかし、最後の曲が終わっても、アンコールの声が止むことはない。
「またまだ行けるぜ!」
急遽、追加された曲に、観客の熱は最高潮に達し、炎の演出がステージを包んだ。
フェスならではの、夏の暑さも味方にするような、灼熱のステージだった。
熱気と光に眩みながらも、3人は最高の笑顔で歌い切った。
「ありがとうございました!」
3人の声に、観客が大歓声で応える。
ステージ袖に戻ってきた彼らの顔は、汗に濡れながらも輝いていた。みんな笑顔だ。
「おつかれさま!」
僕はその姿を見届けて、ほっとした瞬間――視界が暗転した。
「湊さん!」
遠くで伊勢くんの声が聞こえた。
次の瞬間、全身から力が抜け、熱い闇に沈んでいった。
真っ赤に染まる空の下、野外フェスのステージ裏は熱気に包まれていた。
「湊さん、キョロキョロし過ぎ」
「い、伊勢くん!」
いつの間に後ろにいたんだ。
「だって、だって!有名人がいっぱいいる!」
「芸能界で働く人間が、何を今さら言ってんだか」
「あ!らぶり~ファイブだ!」
視線の先にいたのは、制服風の衣装を身につけた、5人組の女性アイドルグループだった。彼女たちは、キラキラと笑顔を振りまきながら、僕らの前を通り過ぎていく。
「わ、笑った?僕に向けて?」
「へぇ、湊さんはああいうのがタイプなの?意外とロリコンだね」
「いや、ちがうよ!」
そのとき、遠くからライブスタッフの声がする。
「TOMARIGIさん!準備お願いします」
「はい!」
伊勢くんは、振り返り笑顔で返事をしたあと、僕の耳元に顔を寄せた。
「俺らの出番も、ちゃんと見てろよ」
「う、うん。もちろんだよ!」
「よそ見すんな、マネージャー」
「い、痛ッ!」
カプっと、耳たぶを噛まれた。驚きと動揺、伊勢くんの熱い息が首筋にかかり、自分の顔が真っ赤に染まるのがわかった。
「な、なにを……!」
「行ってくる」
何事も無かったように、飄々と立ち去っていく後ろ姿を、僕は呆然と見送った。
何万人もの観客で埋め尽くされた会場。その熱気は、ステージ裏にまで伝わってきた。
今日はTOMARIGIにとって、初めての大型フェス出演。
この場に立てることがどれほどの意味を持つか、誰より僕が知っている。
「3分前です!」
スタッフの声が響くと、3人は真剣な表情で頷き、円陣を組んだ。
「行くぞ」伊勢くんの短い声。
「楽しもうぜ!」片倉くんが拳を突き上げる。
「爪痕残してやる」蒼真くんの瞳は真っ直ぐだった。
その輪の外で、僕は小さく呟いた。
「……頑張ってください」
ライトが落ち、歓声が爆発する。名前を呼ぶ声、揺れるサイリウム。
音楽が鳴り響き、3人がステージに飛び出していく。
客席を埋め尽くす観客の熱狂に、思わず背筋が震えた。
スクリーン越しに映る伊勢くんの笑顔は、まるで別人のように輝いている。
蒼真くんの力強いダンス、片倉くんの煽りに、観客はさらに沸き立つ。
「すごい……」
思わず漏れた声は、歓声にかき消された。
曲が進むにつれ、僕は妙な胸騒ぎを覚えた。
ステージ袖で見守っていると、視線の端で世界が揺らぐ。
興奮か、暑さか、汗が止まらない。
手に持ったペンライトを握り直す指が震える。
――まずい。
けれど、彼らが歌い、踊り、歓声を浴びている姿を見ると、足を止めることができなかった。
マネージャーとして、最後まで立ち会わなくちゃ。
それが、僕の役目だから。
TOMARIGIの出演は、30分が予定されている。
しかし、最後の曲が終わっても、アンコールの声が止むことはない。
「またまだ行けるぜ!」
急遽、追加された曲に、観客の熱は最高潮に達し、炎の演出がステージを包んだ。
フェスならではの、夏の暑さも味方にするような、灼熱のステージだった。
熱気と光に眩みながらも、3人は最高の笑顔で歌い切った。
「ありがとうございました!」
3人の声に、観客が大歓声で応える。
ステージ袖に戻ってきた彼らの顔は、汗に濡れながらも輝いていた。みんな笑顔だ。
「おつかれさま!」
僕はその姿を見届けて、ほっとした瞬間――視界が暗転した。
「湊さん!」
遠くで伊勢くんの声が聞こえた。
次の瞬間、全身から力が抜け、熱い闇に沈んでいった。
10
あなたにおすすめの小説
先輩アイドルに溺愛されて、恋もステージもプロデュースされる件 <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ③
進路に悩む高校三年生の戸塚ツバサ。憧れの先輩は今や人気アイドルグループ【TOMARIGI】の浅見蒼真。
同じ事務所の、候補生としてレッスンに励む日々。「ツバサ、まだダンス続けてたんだな」再会した先輩は、オレのことを覚えていてくれた。
ある日、ライバルと息の合ったダンスを疲労すると、蒼真は嫉妬を剥き出しにしに💜先輩という立場を利用してキスを迫る。
友情と、憧れと、そして胸の奥に芽生え始めた恋。「少しだけ、こうしてて」ライブ前夜、不安を打ち明けてくれた先輩。
完璧なアイドルの裏の顔。その弱さに、俺は胸が締めつけられる。この夏、俺たちの関係は、もう後戻りできない…
先輩アイドルは僕の制服を脱がせ、次のステージへと誘う〈TOMARIGIシリーズ ツバサ×蒼真 #2〉
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ★ツバサ×蒼真
ツバサは大学進学とデビュー準備のため、実家を出て東京で一人暮らしを始めることに。
高校の卒業式が終わると、トップアイドルの蒼真が、満開の桜の下に颯爽と現れた。
蒼真はツバサの母に「俺が必ずアイドルとして輝かせます」と力強く宣言すると、ツバサを連れて都内へと車を走らせた。
新居は蒼真と同じマンションだった。ワンルームの部屋に到着すると、蒼真はツバサを強く抱きしめた。「最後の制服は、俺の手で脱がせたい」と熱く語る。
高校卒業と大学進学。「次のステージ」に立つための新生活。これは、二人の恋の続きであり、ツバサの夢の始まり……
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる